冬風
「時間ちょうど良いくらいね」
「ソウ、さすがにゃ」
コバヤシのラーメン店につくと、店の前に、さりげなさを装って立っている人がたくさんいたが、店内は、割りと貴族ふうの客が多かった。
「出直して貰って、すみません」
「いや、繁盛していて何より」
ユリは杖を振って、預かってきた冷風機を取り出した。
「コバヤシさん、これ、コニファーさんの新作、ようは冷風機ね。一台先に預かってきたけど、要ります? 最大10時間稼働で2000p使用で、5万☆ですって」
「え!? 良いんすか? もしかして今買いに行けば、台数増やせるんすか?」
「取り合えず、50台作ったらしいけど、私が10台引き取って、これはコバヤシさんに売り込もうと1台持ってきたのよ」
「ちょっとすいません」
コバヤシはユリに断りをいれると、従業員の女性に、魔動力機器コニファーに行って、5台購入予約をして来るよう指示を出していた。
「ハナノさん、よろしければ、そちらも買い取ります。いつも有益な情報をありがとうございます」
ユメとキボウは先に席に着き、メニューを眺めていた。
◇ーーーーー◇
醤油ラーメン 1800☆
とんこつラーメン 2000☆
替え玉 300☆(とんこつラーメンのみ)
卵スープ 500☆
コーンスープ 500☆
ワンタンスープ 700☆
チャーハン 1000☆
棒々鶏 2000☆
青椒肉絲 2000☆
麻婆豆腐 2000☆
ライス 300☆
切り落とし焼豚丼 800☆
烏龍茶 100☆
◇ーーーーー◇
「あら、ずいぶん値下げしたのねぇ」
「1/3~1/5くらいになったな。俺、豚骨ラーメン」
「私も、とんこつラーメン食べようかしら」
「同じにするにゃ」
「おなじー、おなじー!」
注文が終わった頃、女性店員が走って店に戻ってきたらしく、息を切らして入ってきた。
「マコトさん、在庫分で、5台確保できました! 今日中に届けてくれるそうです!」
「ミルティア、ありがとう!」
無事に購入できたらしい。少し待つと、とんこつラーメンが4つ運ばれてきた。
ユメとキボウに、散蓮華の説明をし、冷風機の代金として5万☆受け取り、とんこつラーメン×4、替え玉×3の8900☆を支払い、帰ってきた。今日のお土産お菓子は、マーラーカオだった。
家に戻り少し休んだ後、明日からの仕事のために、皆で厨房の掃除をしていると、魔動力機器コニファーが、購入したものを届けに来た。
「魔動力機器コニファーです! 氷風機・冬風のお届けに上がりました!」
あの冷風機は、「氷風機・冬風」という名前らしい。
「ユリ、リラを呼ばなくて良いのか?」
「あ、そうだった」
『ユリです。魔動力機器コニファーさんが、新製品を持ってきています。冷たい風が出る機械です。興味があるなら見に来てね』
『リラです、今ずぶ濡れなので、着替えるため、10分ほどお待ちください』
ユリが以心伝心を送ると、すぐ返事が来たが、何やらトラブルがあるらしい。
「なんかリラちゃん、今ずぶ濡れらしくて、着替えたら来るみたい」
「何やったんだ?」
「キボー、みてくるー」
キボウが転移で消えた。
「女性の着替えは見に行っちゃいけませんって、言わないとダメかしら」
「あはは」
ところがキボウは、逆立ちして乾いたようなリラを連れて転移してきた。髪型が凄いことになっている。
「どうしたの? 何か、髪の毛が爆発してるけど」
「先ほどお伝えしましたが、ちょっとミスって水を被りまして、キボウ君が、乾燥と風と何かもう一つの魔法を使って、服と髪の毛を乾かしてくださいました」
ユリは、慌てて櫛と鏡と整髪料を取りに行き、リラの髪を直した。
「はい。これで大丈夫よ。コニファーさん来てるから、説明聞いたら良いわ」
「ありがとうございます」
一つの氷風機にユリが充填し、魔動力機器コニファーの担当者が、詳しい説明を始めた。
「先ずは、2000p充填します。こちらのレバーで温度を決め、こちらのレバーで風量を決めます。最大パワーで使いますと、10時間くらい持ちます。3m~3.5m四方の部屋に1台くらいの割合でお使いください」
「3m~3.5m四方の部屋?」
「ユリ、大体6~8畳だよ」
「ソウ、ありがとう。あれ? お店に4台だと足りない?」
「ユリ、キャスターつけて、作業部屋は普段置かなければ足りるんじゃないか?」
「ソウ、さすがね!」
ソウの案に、ユリが足りて良かったとホッとしていると、耳聡く情報をキャッチしたようで質問してきた。
「ホシミ様、キャスターとは何でございますか?」
「そこのワゴンの足みたいに、小さい車輪だよ。動かしやすければ、部屋を移動させられるだろ?」
「そのアイデアは、」
「あーはいはい。好きに使って良いよ。あとさ、出力1/3~1/4くらいの、馬車の中で使う小型タイプも作ると、きっと売れるよ」
魔動力機器コニファーのメンバーが慌て出したので、リラは希望台数を注文し、明日のお届けと約束をし、急ぎ帰っていった。
「これで、厨房のエアコンが使えるわ!」
大分前に設置して貰ったのだが、店との温度差に、配膳の従業員が体を壊しかねないと、使わずにいたのだった。




