布製
キャンプの翌日。今日は、各自好きなことをする日と決め、前日のうちに3食を配った。
ユリは、作りたかった布製のサボテンを作ると言い、ソウは、向こうに行って親孝行してくると言い、ユメは、ソウに用意して貰った小説を読むと言い、キボウは、世界樹様のところにゆっくり遊びに行くと言って、昨日の夕飯後に、3食分を籠に入れて持っていった。魔道具のリュックサックをユメのために残してくれたらしい。
早く起きたユリは、持っている朝食を食べると、緑色と、黄緑色のフエルトを使って、各種サボテンの小さな置物を作っていった。縫い終わったあとは、中に綿を詰め、立体にする。
ペットボトルキャップの内側に、強めの磁石をボンドで貼り付け、出来たサボテンを埋め込み、隙間をウッドビーズや茶色いガラスビーズで埋め、たっぷりボンドを流し込んだ。
ペットボトルキャップでは入りきらないものは、お弁当用のマヨネーズなどをいれる小さなカップなどを使い、同じように仕上げていった。
ニッケルを含まないらしい、安いステンレスのトレーに並べ、ボンドが乾くのを待つ。
昔、ついうっかり、「何で錆びるステンレスと錆びないステンレスがあるの? 磁石がくっつくのとくっつかないのも有るわよね?」と、ソウに質問してしまい、金属皮膜の話から、配合の説明までされて、専門的過ぎてむしろこんがらがってしまい、鉄とクロムの合金をステンレスと言い、鉄とクロムだけのステンレスは扱いによって錆びることもあるけど、ニッケルを含むと更に錆びにくくなると言う辺りだけユリは理解した。それ以来、ステンレス製と書いてある調理器具が錆びたとき、ニッケルさんが不在なのねと思うようにしている。
午前中いっぱい作り続け、6つほど完成した。一人で満足し、用意してあるお昼ごはんのサンドイッチを、食べながら眺めていた。
「大きいのも作ろうかしら」
実物大の、少し小ぶりなウチワサボテンをフエルトで作り、小さめな素焼きの鉢に、ベーコンの薫製に使ったウッドチップの残りを土の代わりに詰め込み、仕上げた。
「なんか、足りないわねぇ」
ビーズ細工などに使うナイロン製の太めのテグスを2cmに切ったもの多数用意し、中心を折ってしっかり折り目を付け、それを2つずつ糸で中心を埋め込んだ。サボテンの棘の完成だ。
「これで、ウチワサボテンぽくなったわねー」
出来上がりに満足し、ポーズの違う似たようなウチワサボテンを量産した。
のどが渇いたからお茶でも飲もうかしら。そう思い、出来たフエルト製のサボテンをリビングに持っていった。
「ユリ、何持ってるにゃ?」
同じくリビングに来たユメから、声をかけられた。
「あらユメちゃん。フエルトと言う布で作ったサボテンよ。この小さい方は、底がマグネットになっているのよ」
ユリは1つ持ち上げて見せたあと、大きなものをどかし、トレーをひっくり返した。
「ユリが作ったのにゃ?」
「そうよ。何故か昔、サボテンを作るのにハマって、たくさん作ったんだけど、こっちに来るときに全部処分しちゃったのよ。それで久し振りに作ってみたわ」
ユメが興味深そうに、じっくり見ていた。
「これ、どうするのにゃ?」
「作りたかっただけで、特にどうするかは決まっていないわ。興味があるなら、欲しいのどうぞ」
「良いのにゃ?」
ユメは嬉しそうに、ウチワサボテンを1つと、マグネットタイプを1つ選んでいた。
「作ってみるなら、教えるわよ?」
「今度でも良いにゃ?」
「構わないわよ」
「今、読んでる小説が途中なのにゃ」
「それは、続きが気になっちゃうわね。うふふ」
二人は冷蔵庫のお茶を飲むと、各部屋へ戻った。
ユリは、冷蔵庫に貼り付けるマグネットタイプの小さなお皿に乗った小さなフエルトケーキを作り始めた。厨房の冷蔵庫等に使うつもりだ。
2枚重ねた白い丸いフエルトの間に磁石をはさみ、ボンドでしっかり貼り付けて皿を作り、丸を放射状にカットしたフエルトを重ねてショートケーキを作った。
茶色いフエルトを丸くカットし、磁石を挟んで一回り小さい黄色いフエルトをボンドで貼り付けた。細く切った茶色いフエルトで隙間の空いた網を作り、黄色の上に貼り付け、縁を一周茶色いフエルトを貼って、アップルパイ風の出来上がり。
ペットボトルキャップを使い、オレンジ色のフエルトで、ポテロン風も作った。
いつも夕食を食べる18時過ぎ、リビングに行こうと部屋を出ると、ちょうどドアが開き、ソウとユメも出てきた。
「あ」
「ユリも夕飯か?」
「ユリ、ソウ、休憩にゃ?」
ソウは、こちらを向いていたので、ユメが見えなかったらしい。
「お腹空いたなあって」
「ユメも夕飯か?」
「ごはん食べるのにゃ」
皆、用件は一緒だったらしい。
「食べるなら、なにか飲み物でも出すわよ」
「俺も夕飯食べようかと思ってさ」
「みんなも食べるにゃ?」
そして、3人でリビングに入ると、ちょうどキボウが転移で現れた。
「キボー、きたー」
「キボウ君、お帰りなさい」
「キボウ、お帰りにゃ」
「キボウ、お帰り」
結局、みんなで仲良くリビングで夕飯を食べるのだった。
ステンレスの話は、ユリが独自に理解していることであって、実際の情報と違いがある場合、申し訳ございません。




