青苺
自由時間に、ユリは森を見たいと言い、キボウを誘って森に行った。リラが鰻を釣りたいと言うので、ソウはエサの付け方と、釣り針の外し方と、釣れるポイントを教え、ユリを追いかけた。ユメは翡翠を探したいと言い、川原にいる。
「あら、転移能力者が全員こっちに来たら、何かあったときに困るわね。みんなで戻りましょう」
「いや、俺はすぐ戻るよ。ユリ、キボウに何を聞く予定だったの?」
「食べられる物が、何か生っていないかなぁって」
「8月に取れる山菜って、殆ど無くない?」
「何でも良いのよ。木の実とか、木苺みたいなものでもね」
「あ、それなら、野生種のブルーベリーが、ちょっと先にあるよ」
「それ、貰って良いの?」
「酸っぱいから要らないって。王国兵は、ジャムは作らないから」
ソウは、キボウにおよその場所をおしえ、帰っていった。
「キボウ君、私は道が全くわからないから、案内お願いします」
「わかったー」
手を繋いで少し歩くと、森を抜け、開けた場所に、木苺と思われるトゲだらけの枝があり、それを避けて進むと、小粒のブルーベリーの木が沢山あった。木自体は大きく、ユリの身長の倍くらいある。
「うわー! 凄い!」
「ユリー、いるー?」
「帰ってから美味しいジャムにしたいから、欲しいわ」
「わかったー。ブルーベリィー!」
ユリは慌てて籠を取り出すと、上から一筋になって落ちてくるブルーベリーを残さず受け取った。ずっしり5kgくらいありそうだ。
「キボウ君凄いわね! どうもありがとう!」
「よかったねー」
粒はかなり小さいが、完熟の実のみなのだ。潰しても中まで色が濃い。ジャムやアイスクリームにもってこいだ。ユリは籠ごと杖でしまった。
「キボウ君、私は道が全くわからないけど、歩いて帰る? 転移で帰る?」
「あるくー」
「では、道案内お願いします」
「わかったー」
テコテコ歩いて行くキボウを、ユリは見失わないように頑張ってついていった。
「ユリー」
「キボウ君、何かあったのー?」
「たべる?」
そこには、育ちすぎた少し茶色い茸と、育った真っ赤な茸と、白い卵から生まれたような赤い茸が生えていた。
「ん?、これ、もしかして、タマゴタケ?」
「あたりー!」
「うわー。凄いわね。摘んで行こうかしら」
「スレンダー・シーザー!」
キボウの掛け声と共に、20個くらいのタマゴタケが宙に浮いていた。ユリは慌てて、入れ物は何か無いかと探し、空いているお皿を取り出した。するとそこにパラパラと浮いていた茸が降ってきた。
「ユリ、?、おかあさま、おいしー」
キボウは、ユリと呼び掛けて、ユリの顔を見てから、おかあさまと言い直した。
「えーと、リスさんが、美味しい茸って教えてくれたの?」
「あたりー!」
「なら、美味しく料理しましょうね」
「キボー、たべるー!」
キボウは、そもそもこれを教えてくれる予定だったらしい。昨日、薪を集めに来たときに、見つけていたのかもしれない。
ユリとキボウは、みんなのいるキャンプ地に転移で戻り、ブルーベリーとタマゴタケを見せた。リラもユメと一緒にいたので、釣果を聞くと、5匹釣れ、6匹目で糸を切ってしまい、釣り針を無くしてしまったらしく、釣りは終了させ、ユメと一緒に翡翠を探していたらしい。ソウは、片付けをしていたが、ユリとキボウの姿を見て駆けつけてきていた。
「小粒のブルーベリーですか? この茸って、毒キノコではないんですか?」
「毒キノコにゃ?」
「これ、食えるのか?」
赤すぎる色に、みんなが毒キノコ認定していた。
「キボウ君が、リスさんおすすめのタマゴタケって、教えてくれたわ。ソテーにする予定よ。美味しいのよ」
「あ、これ、タマゴタケなのか!生えてるのを見ても、似ている毒キノコと見分けがつかないから、採って来たことはないけど、タマゴタケなら、美味しいらしいよな」
キボウのおすすめで、ソウも知っているとなると、納得したらしい。キノコ問題が片付くと、ブルーベリーが注目された。
「ブルーベリーなら、このまま食べられるのにゃ?」
「食べてみていないけれど、酸っぱいらしいわ」
「では、私が食べてみます」
リラが、ひょいと一粒口にいれた。
「お店のよりは酸っぱいですけど、知ってるブルーベリーの味です。かなり美味しいです」
「だったら、少しセミドライでも作ってみましょう」
「セミドライ?」
「ドライフルーツよ。乾かしすぎないタイプね」
「どうやって作るんですか?」
ユリは、ブルーベリーを少し小分けにした。
「ウオスナク」
乾燥の呪文を唱えて、ユリは少し食べてみた。
「思ったものが出来たわ」
縮み、更に小粒になったブルーベリーを、全員が味見し、作りたいと言い出した。ほどよく水分が抜け、甘味が増している。
「乾燥させ過ぎると、カラカラになっちゃうから、ほどほどにね」
ユリは、全員分の皿を用意し、ブルーベリーを分けて渡した。
予想通りではあるが、3人とも、カラカラに乾燥させていた。
「うわ、硬い」
「乾かしすぎたにゃ」
「加減が難しいな」
「お店に戻ってから粉にするから失敗しても大丈夫よ」
キボウは、ユリが作ったセミドライのブルーベリーを美味しそうに食べていた。
「あまりにも難しかったら、3日くらい天日干しすれば良いわ」
ユリは見せていたタマゴタケをしまい、ブルーベリーを1kgほど分けて、残りをしまった。
乾燥に失敗したらしいブルーベリーを集め、完全に乾燥させ、おやつに食べているキボウ用に、追加も作った。ユリは一人で片付けを始め、食べ終わったキボウも手伝い始めた。
しばらく挑戦していた皆が、納得したのか、諦めたのか、ブルーベリーのセミドライ作りは終了し、ソウも片付けを再開した。
「ユメちゃんとリラちゃんは、翡翠を探していて良いわよ。キボウ君、2人と一緒に探してくれる?」
「わかったー」
いつものリラなら「私も片付けを手伝います」と言うところ、変に気を利かせたらしく、笑顔でユメとキボウの手を繋ぎ、川原に行ってしまった。
「ソウ、鰻はいつ取りに行くの?」
「家に戻ってから行くよ。約束は13時にしてあるからな」
「楽しみねー。鰻なんて、久しぶりに食べるわ」
集合時間の5分前には、ユメとキボウとリラは戻ってきた。




