缶詰
日の出と同時に目が覚めた。
「ユリ、まだ5時くらいだよ?」
「うふふ、いつもの癖で」
「今日くらいゆっくりしようよ」
「まあ、それもそうね」
1時間くらいはゴロゴロしていたのだが、6時くらいになり、キボウが外を歩いているようなので、ユリは、テントから出て朝食の準備を始めることにした。火は、ソウが熾してくれている。
「ユリ様、おはようございます」
「ユリ、おはようにゃ」
「おはよー、おはよー」
「おはよう。みんな早いわね。良く眠れた?」
「ぐっすりにゃ!」
「疲れてたみたいで、目を閉じたと思ったら、次は朝でした!」
ユリが食パンを持ってくると、ソウが食材を入れている冬箱を持ってきてくれた。
「朝ご飯にしましょうね」
「何作りますか? 手伝います!」
「ホットサンドよ。焼くのは私がするから、みんなも中身を選んでね」
8枚切り食パン、溶けるスライスチーズ、ハム、生卵、茹で玉子、板チョコ、リンゴジャム、ツナ、コンビーフ、ベーコン、アボカド、たまごサラダ、クリームチーズ、茹でてあるジャガイモ、茹でてある小松菜、刻み玉ねぎ、焼き豚の端など、色々な食材が並べられた。調味料も、塩、胡椒、マヨネーズ、ケチャップ、醤油など、色々有る。
「これ、何ですか?」
「それは、コンビーフね。牛肉の加工品よ。単体でも良いけど、チーズと挟むか、角切りにしてジャガイモと混ぜて塩胡椒をかけると、美味しいわよ」
「それにします!」
リラは、店で見たことがないものから選んでいた。リラは自力で作れるので、さっさと作り始めた。
「ユリ、多すぎてわかんないにゃ。おすすめで頼むにゃ」
「キボー、これー」
キボウは角切りベーコンとアボカドを指定してきた。
「ユメちゃん了解よ。キボウ君、チーズも入れて良い?」
「いーよー」
まとまりやすいようにチーズも足した。食べる時こぼれ難くするためだ。
「俺は、たまごサラダとハムとアボカドでよろしく」
「はーい。私はツナとチーズにするわ」
ユリの自分の分は、たっぷり目のツナに少々の刻み玉ねぎを混ぜ、溶けるスライスチーズをのせ、黒胡椒をかけた。ユメの分は、王道のハム、チーズ、卵で、切ってからケチャップを添える。
リラが1台(1個分)、ユリが2台(4個分)をBBQ台の弱火にかけ、ホットサンドを作り始めた。ユリもリラも手が離せないので、ソウとユメが、冷たい牛乳とお茶を用意してくれた。キボウは焼けるのをじっと見つめている。
ホットサンドが焼け、半分に切り、ソウとキボウの分を提供した後、ユリは、半分交換してユメに渡した。
「2種類有るにゃ! ユリ、ありがとにゃ」
「うわ、その手が」
ソウが振り返ると、ちゃっかりキボウはリラと半分交換していた。
「うふふ、ソウ、どっちが食べたい?」
ユリが自分の分と交換してくれるというので、ソウは考えた。ユリの本来のサンドはツナとチーズだから、ユメのハムチーズたまごを選ぶべきだろうけど、食べたいのは、ツナとチーズなのだ。
「そんなに悩まなくても、はい。ツナとチーズよ。次に作る中身も決めておいてね」
悩んでいるのでそういうことだろうとユリは、ツナとチーズのホットサンドをソウに渡した。
「ユリ、ごめん、ありがとう」
「気にしないで、いつでも食べられるわよ」
リラはキボウに何か説明し、キボウが喜んでいた。
「さあ、次はどうする?」
「ユリ、リンゴジャムと何を入れたら美味しいにゃ?」
「クリームチーズとシナモンかしらね?」
「それで頼むにゃ」
「ユメ、もうデザートなのか?」
「半分要るにゃ?」
「食べきれなかったら貰うよ。ユリ、俺の何か適当に頼む」
「はーい。ジャガイモ、ベーコン、チーズのジャーマンポテト風と、茹で玉子、焼き豚の端、小松菜の中華まん風を半々で作るわね」
リラとキボウは、ツナ、チーズと、板チョコ、クリームチーズを作って分ける予定らしい。ホットサンドを焼く器具を、リラが2人前用に交換に来た。
「ユリ、昨日のカレーの残りはどうしたのにゃ?」
「皿盛りにして、鞄に収納したわ。食べたかったら出すわよ」
「いっぱいあったのに、みんな食べたのかと思ったのにゃ」
「でも、残っているのは、3人前半くらいよ」
ユリは、ユメのリンゴジャムとクリームチーズの焼きサンドを半分貰った。ソウは、具材を半々で作るなんて、ユリは凄いと言いながら食べていた。甘いのは要らないらしい。
「ユリ様、コンビーフとジャガイモサンドも、ツナチーズサンドも、凄く美味しかったです。お店で出さないんですか?」
「コンビーフは、こちらにあるか、わからないのよ。ツナチーズなら出しても良いわよ。でも、てんてこ舞になるかもしれないわよ?」
焼く時間は、コンロの前に拘束されるので、他の事が出来なくなる。
「ユリ、集中的に売り出すときだけ、電気式のホットサンドメーカーでも使えば?」
「そうね。それ使えば、セットしたら焼き上がるまで、他の事が出来るわね」
「さすがにユリでも、コンビーフは作れないのか」
「ん? 作れるわよ? ただ、その缶詰のと同じ感じにはならないけどね」
「え、作れるの!?」
「割りと簡単よ?」
ユメが、可哀想な者を見る目で、ソウを見ていた。お疲れ気味のソウを、気の毒に思ったらしい。
「ユリ様、是非教えてくださいね!」
「構わないわよ。休みのうちに作りましょうか」
「私も参加するにゃ」
「キボーも、キボーも!」
少し復活したらしいソウが、発音の良い英語でリラに尋ねていた。
「リラ、corned beefだったら、聞いたことあるか?」
「塩漬けの牛肉ですか? どこかの領地で聞いた気がします」
「多分、それと同じものだと思うぞ」
「ソウ、こっちにもあるの?」
「缶に入っているかは、わからないけどな」
こうして、帰ってからの予定も決まり、朝食後は、各自やり残したことをしようと、自由行動になった。集合時間は11:30の予定だ。




