操縦
シーミオは、大きな松ぼっくりを見つけたらしい。なぜかユメも欲しがって、しばらくその場で探していた。
少し休憩し、ユリは希望者にキャラメルを配った。小さい子が参加するので、途中のエネルギー補給にと作っておいたのだ。
「ユリ様、これいつ作ったんですか!?」
「売らないし、シーミオちゃんにと思っていたから」
リラに詰め寄られ、ユリはタジタジになって答えていた。
「これ、そんなに材料費かからないですよね? ベルフルールで売って良いですか?」
「構わないわよ。抹茶味とか、珈琲味とかは、大人にも受けると思うわよ」
「他には何が良いですか?」
「えーと、教えるときにね、その時で」
「はい。絶対教えてくださいね」
この国にも、キャンディは一応あるらしい。庶民は買わないし、高いだけでそんなに美味しくもないのだとか。そこへ、多分安く作れる美味しいキャンディのようなものを提供してしまったのだ。リラでなくとも欲しがるだろう。
しかしユリとしては、他の素材にも、単体ではないとは言え今までも使っているので、リラから詰め寄られるほどだとは考えていなかったのだ。
「ユリ、大丈夫か?」
「うふふ、予想外だったわ。キャラメルって人気なのね」
「まあ、手間を掛けた食品が少ないからな」
料理は、素材を焼くか茹でるが主流だったこの国に、革命を起こしたようなものなので、食べたことの無い物は、美味しければ美味しいだけ喜ばれるのだ。
再び歩き始めたが、団栗などを拾っている人や、川の水を触りに行っている人が多く、余り進まない。
まあ、急ぐ旅でもないのでゆっくり構えていると、景色のなかに、知っているものが目に入った。
「あれ、赤紫蘇?」
「どれ? あー、そうみたいだな」
進んでいないので、ソウがユリのそばにいて返事をした。
「摘んで行っても良い?」
「良いけど、パープルから貰えるんじゃないの?」
「そうらしいけど、まだ貰えてないし、梅干しに間に合わないのよね」
「なら、必要なだけ採取すれば?」
「うん!」
少し木々が途切れ開けた場所に、赤紫蘇が群生していた。
ユリが紫蘇を摘み取っていると、リラとシィスルとマリーゴールドが手伝いに来た。葉を見て、赤い紫蘇だと気づいたらしい。
「これ、食べられるんですか?」
「このままは食べないけど、ジュースにしたり、梅干しの色付けに使ったりするのよ」
リナーリは、調理人4人が摘み取っているのを見て、手伝おうと来たらしい。
「私もお手伝いしても良いですか?」
「ありがとう。お願いします」
「はい」
自分のところで育てているわけではないので、枝を刈り取らずに、大きい葉だけを摘み取っていった。
5人がかりで摘み取ったので、かなりの量になり、ユリはビニール袋を取り出してその中に全部入れ、杖で収納した。
これでも群生している一部を摘み取っただけなので、問題はないだろうと思われる。
ソウが来て、小さめの一株を引き抜いていた。この領地の侯爵に、採取した報告をするためらしい。
その後、順調に歩き、目的地のゴールまでたどり着いた。ソウが紫蘇の報告に行っている間、休みながら話していた。
「マリー、貴族社会に戻ったら出来ないことも有ると思うから、心残りがないように、したいことは今のうちに何でもするんだよ? 私が出来ることは協力するから言ってね」
リラが、マリーゴールドに気遣って声をかけていた。
「リラさん、私も前の席に座ってみたいです」
マリーゴールドの願いは意外なものだった。グランと一緒に御者席にいたシィスルが羨ましかったらしい。確かに貴族女性が操縦席に座る機会は、早々無いだろう。
「それ良いね! ちょっと相談してくる」
リラは、クララに相談に行ったようで、なぜかクララとメリッサを引き連れ、帰りの予定を話し合っているレギュムとマーレイとグランの元に赴いた。
「帰りは、私たちが操縦したいと思います!」
「リラ、何言ってんの? メリ姉は操縦出来ないだろ?」
リラの宣言に、グランが反論してきた。
「グラン、私はお屋敷にいたとき奥様の専属で、馬車の操縦もお手のものなのよ」
不適な笑みを浮かべ、メリッサがグランの意見を封じた。お給料さえよければ何でもしたというのは、伊達ではなかったらしい。
「分かった分かった。帰りはそのメンバーで操縦すると良い」
レギュムが笑顔で譲ったので、グランは諦めた。マーレイは笑っているだけだった。
帰りのメンバーはこんな感じだ。
御者 クララ、レギュム
客車 ユリ、ソウ、ユメ、キボウ
御者 リラ、マリーゴールド
客車 リナーリ、イポミア、グラン、シィスル
御者 メリッサ、シーミオ
客車 セリ、カンナ、マーレイ、イリス
ユリは、マリーゴールドが操縦席に乗るときいて、日焼けを心配した。明日から婚家にお邪魔する予定なのに、今日焼けるのは、さすがに不味いと思われる。
「リラちゃん、あなた、他人に化粧はできる?」
「出来なくもないですが、得意ではありません」
「あの、私、出来ます」
メリッサが名乗り出た。本当に優秀らしい。
「なら、御者席に座るらしいマリーゴールドちゃんのお肌に、薄く満遍なく塗ってもらえる? 日焼け止めよ」
一旦客車に乗り込み、マリーゴールドは蒸しタオルで肌を温め、砂埃等の汚れを落とし、メリッサによって、腕や襟首にも満遍なく日焼け止めが塗られた。その上で、ユリが麦わら帽子を貸し、それを被って御者席に座るのだった。
「マリーゴールドちゃん、これ日焼け止めを落とすクレンジング剤ね。忘れないように渡しておくわ」
「ありがとう存じます」
「お化粧したあとの洗顔にも使えるわよ。返さなくて良いからね」
今いるメンバーで、これから頻繁に化粧をするのは、マリーゴールドだけなのだ。ユリは普段からほぼノーメイクであるが、日焼け止めくらいは持っている。ただし、持っているだけで塗らないので、日焼けしたあとに、塗れば良かったー!といつも後悔していたりする。
ソウが戻り、全員が馬車に乗り込み、帰路を急ぐのだった。




