探検
旅行当日。8時に集合し、出発することになった。
今日は、ソウの馬車を操縦するのはレギュムらしい。クララが御者席の隣に座り、操縦を変わりたさそうにしているのが見える。
リラたちの馬車の御者はグランで、隣にはシィスルが座っている。もうひとつの馬車はマーレイが操縦するそうで、これは、レギュムとマーレイとグランが決めたらしい。
各車のメンバーはこんな感じだ。
御者 レギュム、クララ
客車 ユリ、ソウ、ユメ、キボウ
御者 グラン、シィスル
客車 リラ、マリーゴールド、リナーリ、イポミア
御者 マーレイ、イリス
客車 メリッサ、セリ、カンナ、シーミオ
9時頃転移ポイントに着き、そこからの転移で王城の北に有る転移ポイントに飛んだ。王城の北というか、世界樹の森の南に有る建物の建っていないポイントだ。
一旦休憩をし、ユリが飲み物と簡単なおやつを提供することになった。今回初転移だったセリとカンナは、意外にも転移酔いをしなかったのか、元気に馬車を降りてきた。
「あら、転移酔いは大丈夫?」
「あ、ユリ様! てんいよい? ですか?」
どうやら、転移酔いという言葉自体が分からないらしい。
「魔法で移動したせいで、気持ち悪くなったり、クラクラしたりすることがあるのよ」
「あー! それだったんだぁ!」
「景色が変わったときに、少しクラっとしました」
「それで、2人とももう大丈夫なの?」
「はい」「はい」
「それなら良かったわ。体調が悪かったらすぐに言ってね」
「ありがとうございます」「ありがとうございます」
一緒に降りてきたシーミオがユリに近づき、イチゴのナップザックを見せてきた。
「ゆりじょうおうたま! いちど(苺)のかばん、ありだとざいまつた!」
「作ったのは、メリッサさんよ?」
「まーまがね、ゆりたまがおしえてくだだだのよっていってたの!」
シーミオは、「くださったのよ」が、理解できないのか言えないのか、ユリは、牛乳が言えなかったユメの小さかった頃を思い出し、一生懸命話すシーミオを微笑ましく思った。
「シーミオちゃんも、大きくなったら作り方を教えてあげるわね」
「わーい!ありだとざいまつ!」
次に来たのは、グランだった。
「あ、あの、ハナノ様」
「あら、グラン君、どうしたの?」
「なぜ僕のだけ魚なのでしようか? たくさんの猫に狙われてちょっと落ち着かないというかなんと言うか」
女性たちのナップザックは、シーミオ以外、みな、猫のデザインだ。確かに魚は狙われる立場かもしれない。
「いくつかのデザインの中から選んだのは、リラちゃんとシィスルちゃんよ?」
「お兄ちゃん、『人と違って、こう、ビシッとした感じのが良い!』って、シィスに頼んだんでしょ? 他は可愛い感じのばかりだったから、それ以外なら、苺か、蛙か、花か、兎とかだったよ?」
リラが来て、補足していた。実際には、レギュムとマーレイに作った、ナチュラルなタイプの、他のデザインもあったのだが、何か面白そうな物が良いという判断のもと、作っていた。
「リラ、そうなのか。まあ、確かにウサギとか可愛すぎて、魚が正解なんだな。ハナノ様、変なことを言ってしまい大変申し訳ございませんでした。リラやシィスルに指導してくださり、ありがとうございました」
「うん、納得したみたいで良かったわ」
グランが去ると、リラが笑っていた。
「だから、ドングリにしたら?って言ったのに」
「いえいえ、ユリ様、ドングリも可愛らしいですからね?」
確かに可愛らしいけれど、ドングリなら本人だし、良いんじゃないかとユリは考えたのだ。しかし、ドングリのデザインのナップザックを背負う23歳男性は、恐らくリラたちの判断が合っているように思う。
リラが手伝って冷たいおやつを用意し、全員にゼリーかアイスクリームが手渡された。ゼリーはキボウの鞄に入っていたので、リラが手伝ったのだ。
「双方食べたい人は、取りに来てくださいね」
グラン、セリ、カンナが、ゼリーとアイスクリームの双方を食べ、キボウはゼリーを2つ食べていた。
食べ終わった頃、ソウが皆に話し始めた。
「ここから30分ほど走ると、渓谷入り口の広場に着く。着いたら馬車を降り、1時間ほどの鍾乳洞見学、滝を見て昼食、渓谷を歩いて元の広場に戻ってくる。急ぐ予定はないので、ゆっくり行くつもりだ。何かある場合、俺でもユリにでも、すぐに声をかけてくれ。我慢して大事になるより、小さいうちに解決した方が結果が良いということだ。質問も気兼ねなくしてくれ。ただし、キボウへの質問は、人を挟むことを推奨する」
馬車に戻り、ソウの話し通り到着し、ここからはソウを先頭に、ユリが最後尾で進むことを伝えると、位置取りをし、歩き始めた。
ソウ、
レギュム、クララ、
マーレイ、イリス、
イポミア、リナーリ、
ユメ、キボウ、
リラ、マリーゴールド、
メリッサ、シーミオ、
セリ、カンナ、
シィスル、グラン、
ユリ
グランが最後尾を歩きたがったが、万が一転移が必要なときに後ろにいないと困るので、ユリは断った。
最初は、こんな感じに並んでいたが、光が届かなくなり、段々中の暗さが増してくると、怖がり始める人が出た。
「イラカ!」
ユリが魔法を唱えると、鍾乳洞の天井ギリギリに明かりの玉が出現した。これは、手から離れた場所に明かり玉を出現させる生活魔法だ。ソウも習得している。ユメは、教えた時のことを覚えていれば出来る。
「ユリ様凄い!!」
「手元が暗いと感じる人は、『イビソモチ』と、唱えれば良いわ。もしクラクラするようなら魔力不足だから、すぐに声をかけてね。パウンドケーキを食べてもらうわ。消したくなったら、手を叩いてください」
「イビソモチ!」「イビソモチ」「イビソモチ!」
数人が試したらしく、鍾乳洞の中は、かなり明るくなった。




