準備
夏季休暇の予定が、8月13日(Eの日)~20日(Eの日)に決まった。21日(Sの日)から、仕込み再開の予定だ。ちなみに、ベルフルールは、12日(Gの日)~23日(Fの日)まで休む予定らしい。アルストロメリアと違って、前日からお菓子を仕込まないので、仕事開始は24日の朝からで間に合うそうだ。
「13日(Eの日)に、滝と、渓谷と、鍾乳洞の見学を予定しています。自由参加ですが、皆さん参加して貰えると嬉しいです。ここよりも涼しいので、上着を用意してください。歩きやすい靴と普段着で来てください。お弁当やおやつや飲み物はこちらで用意します。個人水筒を希望する人は、申し出てください。軽い保冷水筒を貸し出します」
ユリが告知して、すぐに皆が申し込んできた。リラから、ベルフルールの配膳をしているセリとカンナが羨ましがっていたと聞き、シィスルとグランのお祝いの食事会の時と同じメンバーで行く事になった。総勢18人だ。水筒を申し込んできたのは、メリッサだけだった。シーミオの分だと思われる。
「荷物を持って行きたい場合は、背負い両手が空く状態で参加してください。背負う鞄がない場合、こちらで用意します」
ユリは、鞄を希望した人に、欲しい大きさと好みの色を確認し、デニム生地や、厚手のプリント生地や、キルティング生地でナップザックを作って渡した。出来上がりを見て、シィスルとマリーゴールドが作り方を教えて欲しいと言ってきて、メリッサとイポミアが続き、結局、希望者に作り方を教えることになり、ほぼ全員がナップザックを背負うことになった。ナップザックを背負わないのは、ユリとソウとユメとキボウ。ユリは魔道具の指輪で、ソウは魔道具の肩掛けカバンで、ユメの魔道具のリュックサックは、キボウが背負うことになった。どうやら現在のユメには魔力が1万p無いのか、重さを感じると言っていた。ユメは、昔ユリに貰った小型の普通のリュックサックを使う予定らしい。
「ソウ、ユメちゃんの名前をつけ直したら、魔力が増えるかしら?」
「つけ直さずとも、ユメにフルネームを認識させれば、増えるんじゃないか? 平民に分類されている人たちって魔力がないと思われていたけど、名前聞いてみると、この国で翻訳されない言語での植物名みたいなんだよね。自覚がなくて基本魔力以上増やそうとしないから増えないって感じかな」
「そうなのね。ユメちゃんに教えるのは、どの名前なら良いかしら」
「ルレーブにはなれないと言う意味なら、ユメ・ハナノ・グリーン・カラーで良いんじゃないか? グリーン・カラーは、元々の名前だしな」
「分かった。そうしてみるね」
ユリは、ユメに名前の件を話してみることにした。
「ユメちゃん、長い名前は言える?」
「名前にゃ? ユメ以外の名前があるのにゃ?」
「ユメちゃんの長い名前は、ユメ・ハナノ・グリーン・カラーよ。名乗らなくても良いから把握しておいてね」
「分かったにゃ」
「あと、魔力が足りなさそうなときは、黒糖味のパウンドケーキを食べてね」
「キボウに渡した魔道具のリュックサックにいくつか入ってるにゃ。いつも、転移したキボウに食べて貰っていたにゃ」
「それなら、多めに渡すわね」
ユリは、ユメの分のつもりで渡していたが、どうやら本人は食べずに、キボウに渡していたようだ。
後からソウに調べてもらった結果によると、高齢になると魔力回復がゆっくりになることがあるそうで、長いことフル回復させないで居続けると、魔力上限が下がることもあるらしい。健康な人は、限界まで魔力を使ったとしても、食事をして丸一日休めばフル回復するので、問題がない。
ユリとソウは、ユメの魔力量を心配したが、ユメが重たいと感じていたのは、魔力量よりも、転移が出来なくなったことの方が大きいのだった。
8月12日(Gの日)
夏休みの前日の営業日。翌日に向けて仕込むお菓子はないので、注文品以外は、リラと明日のお弁当を作ることになった。リラは大分早くから来ている。
「ユリ様、何を作りますか?」
「イポミアさんにリクエストされた細工寿司を60人前と、シィスルちゃんにリクエストされた袋サンドイッチ40人前と、キボウ君からリクエストされた鶏丼と、何人からかリクエストされたポテロンを400個作ろうと思います」
「それ、ほとんど一日仕事の量なのではないですか?」
「そうね。あなたが一緒に作ってくれるって言うからね」
ユリから頼られ、リラは心の底から嬉しくなった。
「はい!!」
「イポミアさんは、ポテロンを作ってもみたいらしいから、指導してくれる?」
「はい」
ユリとリラが準備と計量をしていると、メリッサとイポミアが出勤してきた。
「おはようございます」
「おはようございます! 早く来ました!」
「二人ともおはよう。イポミアさん、リラちゃんがポテロンを作るから、一緒に作ると良いわ」
「はい!!」
メリッサがユリのそばまで来て、驚くことを伝えてきた。
「ユリ様、外、並んでいる人がいます」
「えぇー、なんで?」
「休み前だからじゃないですか?」
今日も早く開けないといけないのかなぁと悩むユリだった。
「知ってる人?」
「並んでいる2人とも知り合いです」
「13時の開店まで待っているか、何か手伝うか、聞いてきてくれる?」
「かしこまりました」
さっと外に行ったメリッサは、すぐに戻ってきた。
「ユリ様、何でも良いので手伝いたいそうです」
「だったら、手を綺麗に洗って、折り寿司の箱を組み立ててもらってください。60です」
「はい、60組ですね」
「教えたら、飲みたいものを聞いて出してもらえる?」
「はい」
9時30分頃、シィスルとマリーゴールドが顔を出しに来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
「シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん、おはよう。2人は里帰りの準備は終わったの? 今回は家まで送るから、荷物をまとめたら持ってきてね」
「はい、あの、イチゴ生チョコの材料を売ってください」
「そう言えば、そんな約束だったわね。材料で持って行く? 今作る?」
「あ、そうか。冬箱の充填大変じゃないから、作って持っていけば良いのか!」
「作るなら、ここで作って良いわよ」
「ありがとうございます!」
シィスルはグランと共に、明日13日の夕方シィスルの実家に送り届け、23日の夕方に迎えに行く予定で、マリーゴールドは、同じく明日13日の夕方に、ハニーイエロー男爵家に送り届け、翌日の14日の日中に、コバルトブルー伯爵家に送り届け、21日の夕方に、コバルトブルー伯爵家に迎えに行く予定だ。




