薄荷
「なーにー?」
「これは、冷やし中華と言う名前の、冷たい麺料理よ」
「つめたいー?」
「温かいスープもあるわよ」
初めて見る料理に、キボウから質問された。
「何のスープにゃ?」
「中華風コーンスープよ」
ユメはカトラリーの用意のために聞いたらしく、中華風と聞いてレンゲを持ってきた。
あれ? 何か覚えているの? とユリが不思議に思っていると、ユメが説明してくれた。蓮を見に行ったあと、リラから教えられたらしい。
イリスも来て、5人で冷やし中華を食べ始めると、ソウ以外は、食べながら凄く驚いていた。
「つめたいー!」
「さっぱりして食べやすいにゃ」
「夏はこれだよな」
「なんだかサラダのような不思議な食べ物ですね」
「冷たい麺料理って、他に無いの?」
ユリは、イリスに聞いてみた。
「私は初めていただきました。七夕の時の冷たい麺も美味しかったですが、ユリ様のお店以外では、最初から冷たい麺料理は、存じ上げません」
「あら、そうなのね。もし苦手なものだったら教えてくださいね」
「はい。ですが、こちらは食べやすくてとても美味しいです」
「それなら良かったわ」
ユリが話している間に、ユメがコーンスープを飲んだらしい。
「知ってるコーンスープと違うにゃ!」
「うふふ」
「あはは。同じ反応だな」
「何にゃ?」
「なーにー?」
「以前もユメが、知ってるコーンスープと違うって言ったんだよ」
「キボー、しらなーい」
「ユメちゃんのお誕生日の時のスープと味が違うって言う意味よ」
「わかったー」
コバヤシのラーメン屋で中華風コーンスープを飲んだときと同じ反応だったので、ユリとソウは思い出して笑っていたのだ。
食べ終わったユリに、リラが話しかけてきた。
「ユリ様、午後から こちらの冷たい麺を出されるのですよね?」
「その予定よ。軽めの1人前、お1人様1回限りね」
「茹でるの大丈夫ですか?」
「既に茹でてあるわ。ユメちゃんのリュックサックに、店売りの1人前量に分けて100人前、お椀に入れてあるわよ。何か作業を進めるなら、薄焼き卵を焼いて細切りにしてくれると助かるわ」
「はい。お任せください」
リラが話し終わると、ユメが待っていたかのように話しかけてきた。
「ユリ、キボウから聞かれたにゃ。外のペパーミントは、使わないのにゃ?」
「いっぱい生えてる?」
「大きいプランターに、いっぱいにゃ」
「なら、ほとんど刈り取ってきましょう。根っこが残っていれば再生するわ」
「そうなのにゃ!?」
ユメとキボウが食べ終わるのを待ち、畑に有るプランターを見に行った。
最後にユリが確認したときの10倍くらい、ペパーミントは繁っていた。半日陰のその場所が、合っているのだろう。
ユリは、ハサミと籠を取り出し、根本の方から切って見せた。
「もっと残さなくて大丈夫なのにゃ?」
「下の方の葉だけ残しても、その茎は、結局枯れちゃうのよ。物凄く上の方だけ摘み取るなら、多分分岐して伸びると思うんだけど、お茶に使うなら、このくらい下から切り取るわ」
「わかったにゃ。私に切らせてにゃ」
「はい。お願いします」
ユリは、ハサミと籠をユメに渡し、刈り取りを頼んだ。
「良い匂いがするにゃー」
「いいにおいー、いいにおいー」
「ミントって香りが強いわよね。それ摘んだら、ミントティー飲んでみる?」
「飲んでみるにゃ!」
「のむー、のむー」
「お湯を注いでそのままでも良いけど、酸味を足すならレモンを入れたり、甘味を足すなら蜂蜜や砂糖を加えたり、好きにアレンジすると良いわ」
「バタフライピー入れても良いにゃ?」
「良いわよ。生の花を入れると華やぐけど、色を出したいなら、ドライをいれた方が良く色が出るわよ」
「両方入れるにゃ!」
ユメが頑張って刈り取っているが、ワッサワッサに生えているため、なかなか進まない。
「私も手伝うわ」
「頼むにゃ」
光合成のためにまばらに残し、ユリとユメでペパーミントをほとんど刈り取った。
籠と笊いっぱいにペパーミントを厨房に持ち帰ると、リラがよってきた。
「それはなんですか?」
「ミントよ」
「ミントティーを作るのにゃ!」
「つくるー、つくるー!」
リラがガラスポットを出してきてくれた。4つ有る。
ユリは、しっかり自分の分の想定をしているリラに少し笑い、ポットに入れたいものを選ばせ、ミントを渡した。
ユメはミントとバタフライピー。キボウはミントと蜂蜜。ユリはミントとスライスレモン。リラはミントのみを入れ、とりあえず味を見るらしい。
沸かした湯を注ぎ、少し時間を置いた。
ガラス製のティーカップに注ぎ入れ、全員が飲んでみた。
「スッキリしてるにゃ!」
「さっぱりして良いですね!」
「久しぶりに飲んだわ」
「あまーい!」
「え?」「にゃ?」「うふふ」
キボウのお茶は、蜂蜜を入れすぎだと思われる。
「これも出すんですか?」
「出しても良いけど、面倒じゃない?」
ユリは、リラと話しながら、ミントを手の上にのせ、パンと叩き、グラスに入れ、炭酸水と蜂蜜とスライスレモンを加え、軽く混ぜたあと、氷を加えた。
「モヒート風よ。私、カクテルは詳しくないんだけど、これにラム酒を加えるとモヒートって言うカクテルだったような。いえ、レモンじゃなくてライムだったかも?」
「それどうするんですか?」
「マーレイさん、良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
リラは、マーレイからひと口貰っていた。
「ユリ様ー!この、もひーとふう?って言うの出しましょう!」
「ユリ、私も飲んで見たいにゃ」
「キボーも、キボーも!」
ユリは全員分を作り、今居ない人の分は、指輪を杖にかえ、しまった。
リラに何か言われたキボウが、グラスを持ったままお店に行き、メリッサとイポミアが飛んできた。
「あ、ユリ様、キボウ様が持ってきたのは何ですか?」
「モヒート風の冷たいドリンクね」
「それ、15人前、お願いします」
「はいはい。あなたたちのも有るから、今飲んでみる?」
「ありがとうございます!」「ありがとうございます」
15人前は、リラが責任をもって作るらしい。
「いくらにしますか?」
「材料が有限だし手間もかかるから、700☆くらい貰ったら?」
「ユリ様、レモンはまだありますか?」
「出しておくわ」
ユリは鞄からレモンをたくさん出し、1個分だけスライスしておいた。
「ユリー、たりない?」
いつの間にか戻ってきたキボウに聞かれた。何の事だろう?
「キボウ君、なあに?」
「これー」
キボウは、飲んでいるグラスを掲げていた。
「あー、材料の話ね。ペパーミントが当分生え揃わないからね。レモンは買ってこられるけど、ペパーミントは買うとかなり高いのよ」
「わかったー」
まだ少しだけ残っている休み時間のために、ユリは少し休もうと階段を上がるのだった。
薄荷=ハッカ(ミント)




