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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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徹夜

8月3日Wの日(みずのひ)

朝、リラを起こしに行くと、目を真っ赤に充血させたリラがいた。


「おはよう。もしかして寝ていないの?」

「おはようございます。ごめんなさい。気が付いたら明るくて、でも読みたくて」

「朝ご飯を食べたら、仮眠しなさい。お腹空いていないなら、そのまま寝ても良いけど」


リラは、お腹は空いているが、しっかり仮眠をとらないと仕事に差し障るかもしれないと考え悩んでいた。火や刃物を使う場所での寝不足は、大変危険である。


「悩むなら、軽く食べてすぐに寝て、起きたら何か用意してあげるから、仕込みながら食べたら良いわ」

「はい。ありがとうございます!」


ユリは先に部屋を出て、ユメとソウに伝えるのだった。


「ユメちゃん、リラちゃん寝ずに本を読んでいたみたい。お昼ご飯まで起こさないから、そのつもりでね。まあ、リラちゃんは本来休みだからね」

「わかったにゃ」

「ははは」


簡単に着替えたリラが、部屋から出てリビングにきた。寝巻きのまま上着を羽織ったらしい。


「皆さんおはようございます」

「リラ、おはようにゃ」

「おはよー、おはよー」

「おはよう。面白い本あったか?」

「はい! もう、全部面白くて!」


ユリは、焼き鮭と青菜のおひたしとご飯と味噌汁と生卵を持って、尋ねた。


「リラちゃん、軽く食べるなら、卵かけご飯食べてみない?」

「それはなんですか?」

「お店の卵はこの国のだけど、リビングの冷蔵庫の卵は、あちらのなのよ。消毒や加熱処理なしで食べられるのよ」

「食べてみます!」

「私も卵かけご飯食べるにゃ!」

「俺も食べようかな」

「キボーも、キボーも!」

「なら、皆の分を持ってくるわ」


ユメとキボウが手伝いに来て、卵を運んでいった。


「ご飯の真ん中に少し窪みをつけて、そのまま割り入れても良いし、別の器で溶き卵にしてからかけても良いし、調味料は、私は普通の醤油だけど、ユメちゃんは醤油と鰹節で、ソウは だし醤油を使っていて、キボウ君は溶き卵に醤油を混ぜてからかけているわ」

「うーん、ユメちゃんと同じでお願いします」


ご飯を渡すと、ユメが親切に食べ方を教えていた。


「うわ! 想像以上に美味しい!!」


リラはあっという間に食べ終え「お休みなさい」と言って、部屋に戻っていった。


「リラ、はやいー」

「本読んでたりしないにゃ?」

「仕事に真面目だからそれはないと思うわよ」

「ユリ、俺も手伝うよ」

「ソウ、ありがとう」


今日は第一週のWの日(みずのひ)、女性と未成年優遇デーなのだ。

開催3回目なので少し落ち着いたかと思いきや、やはり早くから並んでいる人たちがいる。


「ユリ、ゼリーは種類増やさないのにゃ?」

「ゼリーね、梅酒ゼリーは今日作るけど、ゴブレットの回収率が低すぎて、もうそろそろ容器がないのよね。1割くらいしか返って来てないわ」

「そうなのにゃ!?」

「そうなのか? 何か入れ物用意する?」

一月(ひとつき)で5000も使うとは思わなかったわ。何か候補ある?」

「あのゴブレットと同じ型のグラスは、ロットが1000で、箱無し無地が300円くらいらしいよ」

「確約10000でも価格下がらないかしら」

「次に行った時に聞いてみるよ」

「お願いします」


城と世界樹の森に行くユメとキボウに、今日の特殊な差し入れを渡し、ユリは、8時30分から開店出来るように厨房に行った。

厨房には、リラ以外のメンバーが揃っており、ユリが顔を出すと、リラが居ないことにイリス他、皆が驚いていた。


「リラちゃんは、遅くまで勉強していたみたいだから、午前中は仮眠するように言ってあるわ」

「そうでしたか。またご迷惑をお掛けしているのかと」

「イリスさん、仮に迷惑をかけることがあったとしても、イリスさんの責任じゃないですよ。もう大人だからね」

「ありがとうございます」


後ろにいたマーレイが、イリスと一緒にホッとしているのが見えた。


ユリが思うに、リラはかなりの孝行娘だと思うのだけれど、両親から見たリラは問題児なのだろうかと、少し不思議に思った。

実のところ、リラがユリを好きすぎて暴走しかねないのを両親は危惧(きぐ)しているのだった。


営業を開始すると、やはり最初はご近所の住人たちだった。ただ少し違うのは、男性の同伴ではなく、女性と子供たちだけで来ているらしい親子連れ等が目立っていた。


注文品が落ち着き、ユリは仕込みを開始した。


「ユリ、何作るの?」

「梅酒ゼリーよ」

「それ、リラいなくて大丈夫か?」

「ゼリーだから、配合だけ渡せば問題ないと思うのよね」


ソウは、工程的に大丈夫か?と聞いたのだが、ユリは、いない間に作ってしまってまた何か言われないかと言う意味の質問として答えていた。


瓶の中身を、網をのせたボールにあけ、まずは梅を取り出した。


「梅の実の方を使うの?」

「甘露煮にして飾りに使うのよ。去年(6年前)も作らなかった?」

「そういえば、食べたな」


ソウは、ユリに言われて思い出したらしい。作った残りを、当時もめていたイエロー公爵夫人のライラックの件で、ローズマリーにお礼で差し入れしたのだ。


「そうだユリ、料亭とかの梅の甘露煮って、青々してるのあるじゃん? あれってどうやって作るの? 何かで染めてるの?」

「確か、銅イオンの還元反応を利用して、梅を銅鍋でゆっくり煮ると青くなるのよ。物凄く時間がかかるから、作ったことはないのよね」

「へえ!ユリが作っていない物って有るんだな!」

「銅のさわり鍋とコンロ一口(ひとくち)を長時間専有しちゃうからね」


ユリは話ながらも梅酒の梅にナイフを一周させ、半割りにして種を抜いていた。ソウは、見様見真似(みようみまね)で挑戦してみたが、思った以上に難しかったらしく、あきらめ計量を始めていた。計量しながらソウが質問する。


「前は、種ごと入っていなかった?」

「さくらんぼのケーキの時に、ユメちゃんから教えてもらったのよ。口から種を出すという行為は、貴族女性にはハードルが高いって」

「あー、さくらんぼの種は食べられたら色々不味いよな」


粒のままそのまま間違えて飲み込んだくらいならあまり問題はないが、噛み砕いて飲み込んだら、成分的に大問題である。


「生のさくらんぼは仕方ないとしても、加工している梅の甘露煮は種を抜いた方が良いかなって思ったの」

「そうだな。梅酒ゼリーの他は何か作るの?」

「アルコール無しの梅ジュースゼリーも作ろうかと思っているけど、器どうしようかしら。同じだと混ざるわよね」

「それはココットで作れば、価格もおさえられて良いんじゃないか?」

「そうね。アルコール無しは、子供も食べるかもしれないものね」


ユリは梅酒ゼリーを作り始め、ソウはマーレイとアイスクリームを作り始めた。


途中入る注文に手を止め、作業も止めていると、作れるものは、マーレイが替わってくれた。新しい軽食は午後からしか出さないので、現時点での調理ものは、既存のメニューしかない。


ユリは、皆の昼食と軽食用の調理を始めた。

ソウとマーレイも、アイスクリーマーの作業がないときは、ユリを手伝っている。


ユリは、リラがいないのもあり、マーレイに作り方を説明した。


「これら全て千切(せんぎ)りです」


「ユリ、今日のランチは何?」

「以前に一度出したことがあるんだけど、多分みんなは食べたことがないと思う、冷やし中華よ」

「確かに。店で出したのは、知らないや」


ソウとマーレイが千切りを作っている間、ユリは、重曹を入れたお湯でカペッリーニを柔らか目に茹で、氷水で締め、少し多めの9人前以外は、軽めの1人前ずつに分けてお椀に入れ、ユメが置いていった魔道具のリュックサックにしまっていった。


「深皿に麺をのせ、薄焼き卵とキュウリとハムの薄切りと、このタレを甘露レードルで2杯かけて、真ん中にプチトマトをのせて出来上がりです。店売りはタレ1杯です」

「店売りの器はどれを使いますか?」

「スパゲッティを店で出すときのお皿でお願いします」

「かしこまりました」


浅目のサラダボールのような器だ。

お昼ごはんの用意が終わった頃、ユメとキボウが戻ってきた。


「何か手伝うにゃ?」

「もうすぐお昼ごはんだから、それまで休んでいて大丈夫よ」

「わかったにゃ」

「キボーは? キボーは?」

「ユメちゃんと一緒に休んでね」

「わかったー」


ユリは、起きてこないリラに、起こすべきか寝かせておくべきか悩んでいた。ユリとしては、リラは本来休みなので、眠いなら寝ていても構わないのだが、遅く起きてきたリラがショックを受けるかもしれないと考えたのだ。


「ユリ、どうしたの?」


考え込んでいるユリを、ソウが気にしたらしい。


「え? あー、起こさないでいると、起きてきてショックを受けるかもしれないと思ったのよ」

「あー確かに。何か懐かしいな。リラの勤務初日にそんな光景を見たな。あれって同じような季節だったよな」


少し心配そうに話を聞いているマーレイが、珍しく話に入ってきた。


「あの、ハナノ様、リラはなぜ今寝ているのでしょうか?」


朝の説明では、疑問に感じていたらしい。


「遅くまでと言うか、寝ずに勉強していたみたいでね。朝ご飯を食べたあと、私が寝なさいと言ったのよ。だから最低でも4~5時間くらいは寝ないと、火と刃物の有る厨房は危険だし、体力も持たないと思うのよ」

「大変申し訳ございません」


マーレイが、勢い良く頭を下げながら謝った。


「あー、えーとね。イリスさんにも言ったけど、別に失態じゃないのよ? それに仮に失態だったとしても、もう大人なんだから、親がいちいち謝らなくて良いのよ? それにね、そもそもリラちゃんは、本来休みなのよ」


そんな話をしていると、バタバタと階段を下りる音が聞こえ、リラが厨房に来た。


「ユリ様、大変申し訳ございません!」

「おはよう。ちゃんと眠れた?」

「はい!もう、バッチリです!」

「では、先の組が休憩に入るので、マーレイさんと頑張ってください。今日の休憩は、いつもと反対に、私が先に休ませてもらいます」

「はい」


ユリは、手早く冷やし中華と中華風コーンスープを5人前作り、ユメとキボウを呼んだ。


「リラちゃん、お店に行って、イリスさんを呼んできてもらえる?」

「はい!」


リラは、イリスを呼んだあとは、マーレイに冷やし中華を習っているようだった。

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