婚約
今日は7月12日Fの日。
日付が前後するが、前回のお話の転移組が帰ってくる前日の話。
マリーゴールドの結婚について、両家の話し合いがされることになった。当初は、求婚から1月後の7月10日を予定していたが、転移組帰郷のため、パープル邸が忙しいので、別日が良いだろうと日程が未定だった。
マリーゴールドは、実家のハニーイエロー男爵家から、正式に面会依頼を出して貰った。すると、コバルトブルー伯爵家からの計らいで、マリーゴールドが仕事を休んだり移動しなくて良いように、ベルフルールの定休日を指定してきており、最終的にパープル邸にて話し合いをすることに決まった。
参加者は、コバルトブルー伯爵とオリーブ、ハニーイエロー男爵とマリーゴールド、パープル侯爵とローズマリーの6人だ。
ユリも参加したかったのだが、ソウに止められ、パープル侯爵夫妻に任せることにした。
「ユリ様、今頃マリーは話し合いをしているんですよね」
「その予定ね」
「大丈夫かなぁ」
「相手からの熱心な求婚だから、マリーゴールドちゃんが困るようなことはないと思うんだけどね」
「マリーの希望は通るのかなぁ」
「そこだけ不安だけど、そんなに難しい希望を出している訳じゃないからね」
いまいち仕事に身が入らず、ユリもリラもマリーゴールドを心配していた。
ちなみに、シィスルはシィスルで、自身の結婚のことで、色々忙しいため、今日は顔を出しに来ていない。
「ユリ様ー! 領主様の馬車が来てます!」
イポミアが知らせに来た。馬車の旗ポール部分に、はためく紫色の旗が、ドア越しに見えたらしい。
「え、食事に来たの? 報告?」
「ユリ様、私が給仕しても良いですか?」
「構わないけど」
「ミア姉、ユリ様の助手お願い」
「うんうんそうする」
唯一、侯爵家で、指導を受けたことがあるのがリラだ。イポミアは、前職の関係で、貴族貴族した相手は怖いらしい。
6人は店に入ってくると、マリーゴールドとローズマリーが、厨房に顔を出しに来た。店のテーブルで注文するのは、残りの4人の予定らしい。
「ユリ様、お陰様で全ての希望が通ることになりました」
そして何があったのか、2人が話してくれた。
マリーゴールドに色々計らってくれていることからもわかるが、マリーゴールドの希望は、本当に全面的に認められたらしい。
何度か、親族との顔合わせや、衣装や、住まいのインテリアなどのために、婚姻前に訪問する必要はあるが、侯爵夫人により、作法や礼儀などに再教育の必要なしと太鼓判を押されているため、親族一同からは、反対はおろか、疑問すら出なかったそうだ。身一つで嫁げば良いらしい。
息子との婚姻に当たって、何か要望や欲しいもの等は有るかい?と、宝石や高価なインテリアを祝いに贈るつもりで聞いたコバルトブルー伯爵に対し、願わくば、きちんとした教育を受けてみたいです。と答えたマリーゴールドのことを、大絶賛したらしく、マナーでも勉学でも教養でも、何でも希望する講師をつけさせると約束してくれたそうだ。
「マリーゴールドちゃん、よかったわね。ローズマリーさん、色々ありがとうございます」
「ありがとう存じます」
「勿体無い御言葉でございます」
「2人とも、お店で食べないなら、ここに椅子持ってきてお茶する?」
「よろしいのですか?」「ありがとう存じます」
マーレイが椅子を持ってきてくれ、イポミアが作業台にお茶やゼリーを並べた。
注文を聞いてきたリラが、一揃え持って行った。コバルトブルー伯爵も、ハニーイエロー男爵も、まともにアルストロメリアのおやつ類を食べたことがないらしく、楽しみにしてきたそうで、おすすめを全て持ってきてくれと言う注文だったそうだ。食事は、パープル邸で済ましてきたらしい。
「ユリ様、こちらのゼリーは、アルストロメリア会で教えることは可能でございますか?」
「大丈夫ですよ。ジンジャーエールの素の作り方は知っているんですよね?」
「はい。存じ上げております」
「なら、ゼリー作りから始めたら良いのかしらね」
「この、エールの泡のような部分は、何で出来ているのでございますか?」
「ゼリーを少し冷やしぎみにしてから、泡立て器で泡立てて、固まる前に流し込みます」
「もしかして、上級者向けでございますか?」
「そうですね。炭酸ゼリーもこの泡も、初心者には難しいかもしれません」
「では久々に、私も参加者側で参加したいと思います」
「日程はお任せします。Eの日なら、基本的に空けておきます」
「よろしくお願い致します」
「マリーゴールドちゃんは、このまま解散?」
マリーゴールドは、貴族のドレスではなく、お出掛け服に着替えてこちらに来ているのだ。ドレスはローズマリーから、着なくなったラベンダーのものを借りて、話し合いに望んだらしい。
「こちらからのお帰りの、お見送りをいたします」
「そうなのね。ローズマリーさんが呼ばれるまで2人でこちらにいたら良いわ」
「ありがとう存じます」
「ありがとうございます。あの、せっかくなので、見学してもよろしいでしょうか?」
「構わないですよ」
リラがこちらに居ない分、ユリは忙しいので、マリーゴールドが器具などの解説をしてくれた。
イポミアは、ユリが指示する計量などを頑張っているが、不足するところをさりげなくマーレイが補っていて、たまに気がついてお礼を言っているのが聞こえる。
「ユリ様、ローズマリー様って、とてもお優しいかたですね」
「うふふ、そうね。とても優しくて親切よ。恐らくマナーを習わなければね」
「なんですか?」
「後で、リラちゃんにでも聞いてみたら良いわ」
リラは、ローズマリーとラベンダーから、マナーや言葉遣いについて、直接指導も受けたと言っていた。
店にいる4人は、リラが出したものを全て食べ終わったらしく、リラがローズマリーを呼びに来た。
「ローズマリー様、パープル侯爵様がお呼びでございます」
「リラさん、ありがとう」
「え」
「ほらほら、顔に出して驚かない、ふふ」
普段、ユリに習って「リラちゃん」と呼んでいるため、リラは驚いたらしい。
「マリーゴールド様とお話ししていたから、ちょっと移ってしまったのよ」
「え、マリー、何で私の話なんかしてるの!?」
「とても良い師匠ですと、普段の生活のお話をしておりました」
「あ、うん、ありがとう、ございま、す?」
片付けを手伝おうとするマリーゴールドに、イポミアが声をかけ、食器を片付けていた。
ローズマリーを送り出し、リラとマリーゴールドは、店の外まで見送りに行った。
少しして外から帰ってきたマリーゴールドが、ユリに質問に来た。
「ユリ様、私、指輪をいただいたのでございますが、ユリ様とホシミ様に倣ってとおっしゃっていました。そうなのでございますか?」
「あら、よかったわね。仕事の関係で普段は着けないけれど、私もいただいた指輪があるわよ」
「いつか、お見せいただけますでしょうか?」
「一緒に出掛けるときに見せるわね」
「ありがとう存じます」
こうして、マリーゴールドに関する心配ごとは、大方片付いたのだった。




