聖炎
「そう言えばリラちゃん、それどこで売るの?」
「あー、昨日売っていないものはこちらでは売れませんね」
「はい、ユリ様! 椅子付きテーブルを出して、ベルフルールとして外で売ったら良いと思います」
シィスルが意見を出した。
「あ、それ良いわね。誰か販売をお願いする? そうすれば、あなたたちは、休みも取れるし追加も作れるわよ?」
「そうします! そうしたいです!」
「私が探して参りましょうか?」
「マーレイさんありがとう。4人くらいお願いします。こちらで昼食と夕食を提供します」
マーレイは外で広報のエルムに会ったらしく、エルムを連れてすぐに戻ってきた。
「販売員は、こちらで最適な人材に心当たりがございますので、どうぞお任せください」
「うちじゃなくて、ベルフルールの商品を売るのを伝えるのを忘れないでくださいね」
「かしこまりました」
エルムは割りとすぐに、商人風の4人を連れて店に戻ってきた。ユリは食事について、説明するのだった。
「お昼ご飯は、今から13時までの間に食べに来てください。食事と休憩を合わせ、合計60分休むようにしてください。夕ご飯は、18時30分あたりからの予定です。販売する品物については、責任者のベルフルール店主、リラからお伝えします」
ユリの説明のあと、リラが前に来た。
「ご紹介にあずかりました、ベルフルール店主、リラでございます。本日は、販売のお手伝いを引き受けてくださり、誠にありがとうございます。売りたい商品はこちら、炎のプリンです。炎の部分はクッキーで出来ています。ユリ様が『聖なる炎』をお使いになられる記念にと、作りました」
「あー、リラさん。聖なる炎であるなら、聖炎のプリン、とかの方が名前がしっくり来るかと」
「それ良いですね!『聖炎のプリン』にしましょう!」
「この色が、聖なる感じがよく出ていて良いですねぇ」
なんと、早朝に、リラたちがおにぎりを売り回った話を聞き、何か手伝えないかとエルムに相談していた商人たちらしく、渡りに船状態でマーレイから話を聞いたのだそうだ。
皆、12時30分~13時00分の間は炎の見物をしたいため、早目のお昼ご飯を希望していた。
「今すぐ出せるのは、カレーと鶏丼で、すぐ調理可能なのは、グラタンと親子丼です。今日の昼食の予定は豚丼です。11時前には出来上がります」
「お店で出したことがないのは豚丼ですね」
出したことがないとリラが言うと、全員が豚丼を希望だった。
ユリはパセリのゴマ和えを作り、味噌汁と冷茶も用意した。
パセリのゴマ和えは、大量のパセリを茹で、よく水を切って、刻み、ゴマドレッシングで和えるだけと言うお手軽さだ。パセリを食べたことがある人に食べさせても、この野菜はなんだろう?と、分からない人が結構いる美味しさだ。
手伝っていたイポミアは、パセリが苦手らしく、渋い顔をしながら手伝っていたのに、味見で食べたら感激していた。
「今日からパセリが好きになりました!」
「胡麻って偉大よね」
「そうか! ゴマドレッシングをかけると、苦手な野菜も食べられるのかな?」
「マヨネーズとすりゴマが多めのゴマドレッシングが良いわよ。レシピなら後で教えるわ」
「わぁ! ありがとうございます!」
横で、メリッサが苦笑していた。
「ユリ様、1つ入りの箱は使って良いですか?」
「構わないわ。確か、物凄い数があったはずよ」
そうこうしている内に11時を過ぎ、仕事のキリの良いところで、ユリは先に昼食を食べることにした。
「リラちゃん、私がいない間、よろしくね」
「はい。お任せください!」
「少し早いけど、行ってくるわね」
ユリは白衣のままレッド邸に行き、ベルを鳴らしラベンダーを呼んだ。
「ユリ様、お待ちしておりました」
「なるべく早目に来たわ」
「大変助かります」
ささっと脱がされ、本格的なマッサージを20分くらいしてから、衣装を着付けられた。
「ねえ、ラベンダーさんは、見に来るの?」
「勿論でございます。お帰りに御一緒させていただきたく存じます」
「あのね、家の屋上にユメちゃんが、カンパニュラちゃんを招待するのよ。一緒で良い?」
「私は構いませんが、御一緒させていただいてよろしいのですか?」
実は、と、リラたちや他の従業員に断られたことを話すと、笑っていた。
「私が同席してもゆっくり楽しめないと思いますので、カンパニュラ様がいらっしゃる場に同席するのは、リラちゃんや平民の使用人なら断ると思います」
「やっぱりそうなのね。カンパニュラちゃんの他は誰が来るかよく分からないのよ。もしカンパニュラちゃんだけだった場合、よろしく頼むわね」
「かしこまりました」
ラベンダーは、おしゃれなドレスだった。ユリの侍女をするときの服ではないので、おとなしく見学する予定らしい。
ユリはラベンダーを連れ、そのまま屋上に転移してきた。屋上にはまだ誰も来ておらず、冬箱だけがテーブルに置いてあった。ソウかキボウに頼んだのだろう。
◇ーーーーー◇
聖炎のプリンです。
よろしければお召し上がりになってください。
ベルフルール店主、リラ
◇ーーーーー◇
「あら、リラちゃんから差し入れがあるわ」
開けてみると中には、午前中に作っていたプリンと、冷茶が入っていた。
「じゃあ、13時より前には迎えに来るからよろしくね」
「かしこまりました」
ユリは屋上から見えた、笹が積んである場所のそばに転移した。予想より笹が物凄く多い。
「ユリ、来たのか。なんか、城の笹が物凄いことになってるぞ?」
「持ち込んだ数の倍くらいあるみたいね」
するとそこに、カンパニュラを連れたキボウが転移してきた。
「ユリさま、これもおねがいします」
「はい。受けとりました」
直接笹を渡され、すぐにキボウが連れて転移していった。屋上の方を見ると、確実に大人の身長の付き添いがいるようで、安堵した。
「そろそろ12時半だ。どうやって始める?」
「私が飛んで、回りに挨拶してから、火をつけようかしら」
「ユリちょっと待って、飛ぶって何!?」
「え? だって、私が地上にいたら、見に来た人の大半から見えないじゃない。それに、昔の聖女は物理的に飛び回っていたって、ユメちゃんが言っていたわ」
「飛行魔法も出来るの?」
「飛行は、30000pで5分間、呪文は『ウオキフ』よ」
「聖なる炎は?」
「聖なる炎は『オオノフラニエソ』よ」
「オオノフラニエソ」
ソウはボソッと呟いて、手の上に小さな炎を出した。叩いてすぐに消し、ため息をついた。
「簡単なんだな」
「そうね。大事なのは、明確な規模や強弱を思うことね」
「飛ぶのは、笹の回りを一周する程度にしてくれ」
「わかったわ」
「炎避けの結界を2重に張る。中側の笹の回りの結界を一周すると良いよ」
「ありがとう。そうします」
ユリに色の違いは見えないが、ソウは赤い物理結界を、積んである笹の回りに広がるように中心部分から展開していった。
弾かれ悲鳴を上げた人がいて、ユリとソウは驚いた。
そばまで行ってなぜここにいたのかを聞くと、一番近くで見ようと思って隠れていたらしい。
お焚き上げと言うからには火を使い焼くのだと説明し、少し離れた場所にソウが連れていった。
結界を二重に張り終えたソウのOKを確認し、ユリはゆっくり飛び上がり、内側の結界の回りを飛行した。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
観客からの歓声が上がる。
ユリが空中に停止すると、回りが静まった。
「聖なる炎!!! 」
ユリが、見せかけの呪文に声を張り上げ、声に出さずに呪文を唱えた。
青白い炎が笹に絡み付く。
「炎が青い!!!」「本物の聖なる炎だ!!」「聖女様凄い!!」
ユリはソウに提案されたのだ。ガスの火のような、青い高温の炎は出せるか?と。
ユリの厨房に出入りしているメンバーは、ガス火を見たことがあるが、高温の炎を見たことがない者たちの目には、それはそれは特別なものに写った。
大歓声の中、ユリは地上に降り、両手を広げて挨拶した後、屋上に転移した。以後の火の管理は、ソウがしてくれる予定だ。
「ユリさま! すごいです!!」
「ユリ様!」「ユリ様!」
「カンパニュラちゃん、ありがとう」
素直に凄いと言ったカンパニュラ以外、大人たちは言葉にならないらしい。屋上には、ユメ、キボウ、カンパニュラのほか、ハイドランジア、サンダーソニア、シッスル、女性騎士がいた。ラベンダーはローズマリーと一緒にいる。ユメとキボウは、色々な人を連れてきたようだ。
「ユリ様、すぐにお着替えされますか?」
「ラベンダーさんは燃えるのを見なくて良いの?」
「はい。充分堪能致しました」
「では、レッド邸に行くわよ」
ユリはラベンダーとレッド邸に行き、急いで着替え、一人で店に戻ってきた。開店前の店内にエルムがいて、出払っている店で留守番をしていたらしい。
「見物に行かなかったのですか?」
「こちらから充分拝見することが出来ました」
「お店番ありがとうございます。何か召し上がりますか?」
「開店したら軽食をいただく予定です」
「今日のお昼に賄いで出した、店で出していない豚丼がありますよ」
「ありがとうございます!」
ユリがエルムに豚丼を出していると、リラたちが帰ってきた。がしかし、すぐに店を飛び出していき、空の冬箱を持って戻ってきた。冷蔵庫からプリンを出し、冬箱に詰め、又出ていく。青い炎型のクッキーをのせたプリンが、売れ過ぎて供給が追い付かなくなったらしい。
「今日は、もう、それ作り続けていて良いわよ」
「ユリ様、ありがとうございます! 売り上げの半分は入れますので」
「材料費だけで良いわよ。どちらかと言うと、私の落ち度だからね。うふふ」
リラたちは、19時を過ぎても客が途切れず、20時近くまでプリンを作り続けたのだった。ユリも18時過ぎの閉店後はプリンを手伝った。販売を手伝ってくれている4人も、途中で帰るなんて出来ませんよ。こんなに面白いことを最後まで見ないなんてあり得ません!と言って、最後の客が帰るまで、付き合ってくれたのだった。




