表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

588/690

聖炎

「そう言えばリラちゃん、それどこで売るの?」

「あー、昨日売っていないものはこちらでは売れませんね」

「はい、ユリ様! 椅子付きテーブルを出して、ベルフルールとして外で売ったら良いと思います」


シィスルが意見を出した。


「あ、それ良いわね。誰か販売をお願いする? そうすれば、あなたたちは、休みも取れるし追加も作れるわよ?」

「そうします! そうしたいです!」


「私が探して参りましょうか?」

「マーレイさんありがとう。4人くらいお願いします。こちらで昼食と夕食を提供します」


マーレイは外で広報のエルムに会ったらしく、エルムを連れてすぐに戻ってきた。


「販売員は、こちらで最適な人材に心当たりがございますので、どうぞお任せください」

「うちじゃなくて、ベルフルールの商品を売るのを伝えるのを忘れないでくださいね」

「かしこまりました」


エルムは割りとすぐに、商人風の4人を連れて店に戻ってきた。ユリは食事について、説明するのだった。


「お昼ご飯は、今から13時までの間に食べに来てください。食事と休憩を合わせ、合計60分休むようにしてください。夕ご飯は、18時30分あたりからの予定です。販売する品物については、責任者のベルフルール店主、リラからお伝えします」


ユリの説明のあと、リラが前に来た。


「ご紹介にあずかりました、ベルフルール店主、リラでございます。本日は、販売のお手伝いを引き受けてくださり、誠にありがとうございます。売りたい商品はこちら、(ほのお)のプリンです。炎の部分はクッキーで出来ています。ユリ様が『聖なる炎』をお使いになられる記念にと、作りました」

「あー、リラさん。聖なる炎であるなら、聖炎(せいえん)のプリン、とかの方が名前がしっくり来るかと」

「それ良いですね!『聖炎のプリン』にしましょう!」

「この色が、聖なる感じがよく出ていて良いですねぇ」


なんと、早朝に、リラたちがおにぎりを売り回った話を聞き、何か手伝えないかとエルムに相談していた商人たちらしく、渡りに船状態でマーレイから話を聞いたのだそうだ。


皆、12時30分~13時00分の間は炎の見物をしたいため、早目のお昼ご飯を希望していた。


「今すぐ出せるのは、カレーと鶏丼で、すぐ調理可能なのは、グラタンと親子丼です。今日の昼食の予定は豚丼(とんどん)です。11時前には出来上がります」

「お店で出したことがないのは豚丼ですね」


出したことがないとリラが言うと、全員が豚丼を希望だった。


ユリはパセリのゴマ和えを作り、味噌汁と冷茶も用意した。

パセリのゴマ和えは、大量のパセリを茹で、よく水を切って、刻み、ゴマドレッシングで和えるだけと言うお手軽さだ。パセリを食べたことがある人に食べさせても、この野菜はなんだろう?と、分からない人が結構いる美味しさだ。


手伝っていたイポミアは、パセリが苦手らしく、渋い顔をしながら手伝っていたのに、味見で食べたら感激していた。


「今日からパセリが好きになりました!」

胡麻(ごま)って偉大よね」

「そうか! ゴマドレッシングをかけると、苦手な野菜も食べられるのかな?」

「マヨネーズとすりゴマが多めのゴマドレッシングが良いわよ。レシピなら後で教えるわ」

「わぁ! ありがとうございます!」


横で、メリッサが苦笑していた。


「ユリ様、1つ入りの箱は使って良いですか?」

「構わないわ。確か、物凄い数があったはずよ」


そうこうしている内に11時を過ぎ、仕事のキリの良いところで、ユリは先に昼食を食べることにした。


「リラちゃん、私がいない間、よろしくね」

「はい。お任せください!」

「少し早いけど、行ってくるわね」


ユリは白衣のままレッド邸に行き、ベルを鳴らしラベンダーを呼んだ。


「ユリ様、お待ちしておりました」

「なるべく早目に来たわ」

「大変助かります」


ささっと脱がされ、本格的なマッサージを20分くらいしてから、衣装を着付けられた。


「ねえ、ラベンダーさんは、見に来るの?」

「勿論でございます。お帰りに御一緒させていただきたく存じます」

「あのね、家の屋上にユメちゃんが、カンパニュラちゃんを招待するのよ。一緒で良い?」

(わたくし)は構いませんが、御一緒させていただいてよろしいのですか?」


実は、と、リラたちや他の従業員に断られたことを話すと、笑っていた。


(わたくし)が同席してもゆっくり楽しめないと思いますので、カンパニュラ様がいらっしゃる場に同席するのは、リラちゃんや平民の使用人なら断ると思います」

「やっぱりそうなのね。カンパニュラちゃんの他は誰が来るかよく分からないのよ。もしカンパニュラちゃんだけだった場合、よろしく頼むわね」

「かしこまりました」


ラベンダーは、おしゃれなドレスだった。ユリの侍女をするときの服ではないので、おとなしく見学する予定らしい。


ユリはラベンダーを連れ、そのまま屋上に転移してきた。屋上にはまだ誰も来ておらず、冬箱だけがテーブルに置いてあった。ソウかキボウに頼んだのだろう。


◇ーーーーー◇

聖炎(せいえん)のプリンです。

よろしければお召し上がりになってください。


         ベルフルール店主、リラ

◇ーーーーー◇


「あら、リラちゃんから差し入れがあるわ」


開けてみると中には、午前中に作っていたプリンと、冷茶が入っていた。


「じゃあ、13時より前には迎えに来るからよろしくね」

「かしこまりました」


ユリは屋上から見えた、笹が積んである場所のそばに転移した。予想より笹が物凄く多い。


「ユリ、来たのか。なんか、城の笹が物凄いことになってるぞ?」

「持ち込んだ数の倍くらいあるみたいね」


するとそこに、カンパニュラを連れたキボウが転移してきた。


「ユリさま、これもおねがいします」

「はい。受けとりました」


直接笹を渡され、すぐにキボウが連れて転移していった。屋上の方を見ると、確実に大人の身長の付き添いがいるようで、安堵した。


「そろそろ12時半だ。どうやって始める?」

「私が飛んで、回りに挨拶してから、火をつけようかしら」

「ユリちょっと待って、飛ぶって何!?」

「え? だって、私が地上にいたら、見に来た人の大半から見えないじゃない。それに、昔の聖女は物理的に飛び回っていたって、ユメちゃんが言っていたわ」

「飛行魔法も出来るの?」

「飛行は、30000pで5分間、呪文は『ウオキフ』よ」

「聖なる炎は?」

「聖なる炎は『オオノフラニエソ』よ」


「オオノフラニエソ」


ソウはボソッと呟いて、手の上に小さな炎を出した。叩いてすぐに消し、ため息をついた。


「簡単なんだな」

「そうね。大事なのは、明確な規模や強弱を思うことね」

「飛ぶのは、笹の回りを一周する程度にしてくれ」

「わかったわ」

「炎避けの結界を2重に張る。中側の笹の回りの結界を一周すると良いよ」

「ありがとう。そうします」


ユリに色の違いは見えないが、ソウは赤い物理結界を、積んである笹の回りに広がるように中心部分から展開していった。


弾かれ悲鳴を上げた人がいて、ユリとソウは驚いた。

そばまで行ってなぜここにいたのかを聞くと、一番近くで見ようと思って隠れていたらしい。


お焚き上げと言うからには火を使い焼くのだと説明し、少し離れた場所にソウが連れていった。


結界を二重に張り終えたソウのOKを確認し、ユリはゆっくり飛び上がり、内側の結界の回りを飛行した。


「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」


観客からの歓声が上がる。

ユリが空中に停止すると、回りが静まった。


「聖なる炎!!!    (オオノフラニエソ)


ユリが、見せかけの呪文に声を張り上げ、声に出さずに呪文を唱えた。


青白い炎が笹に絡み付く。


「炎が青い!!!」「本物の聖なる炎だ!!」「聖女様凄い!!」


ユリはソウに提案されたのだ。ガスの火のような、青い高温の炎は出せるか?と。


ユリの厨房に出入りしているメンバーは、ガス火を見たことがあるが、高温の炎を見たことがない者たちの目には、それはそれは特別なものに写った。


大歓声の中、ユリは地上に降り、両手を広げて挨拶した後、屋上に転移した。以後の火の管理は、ソウがしてくれる予定だ。


「ユリさま! すごいです!!」

「ユリ様!」「ユリ様!」

「カンパニュラちゃん、ありがとう」


素直に凄いと言ったカンパニュラ以外、大人たちは言葉にならないらしい。屋上には、ユメ、キボウ、カンパニュラのほか、ハイドランジア、サンダーソニア、シッスル、女性騎士がいた。ラベンダーはローズマリーと一緒にいる。ユメとキボウは、色々な人を連れてきたようだ。


「ユリ様、すぐにお着替えされますか?」

「ラベンダーさんは燃えるのを見なくて良いの?」

「はい。充分堪能致しました」

「では、レッド邸に行くわよ」


ユリはラベンダーとレッド邸に行き、急いで着替え、一人で店に戻ってきた。開店前の店内にエルムがいて、出払っている店で留守番をしていたらしい。


「見物に行かなかったのですか?」

「こちらから充分拝見することが出来ました」

「お店番ありがとうございます。何か召し上がりますか?」

「開店したら軽食をいただく予定です」

「今日のお昼に(まかな)いで出した、店で出していない豚丼(とんどん)がありますよ」

「ありがとうございます!」


ユリがエルムに豚丼を出していると、リラたちが帰ってきた。がしかし、すぐに店を飛び出していき、空の冬箱を持って戻ってきた。冷蔵庫からプリンを出し、冬箱に詰め、又出ていく。青い炎型のクッキーをのせたプリンが、売れ過ぎて供給が追い付かなくなったらしい。


「今日は、もう、それ作り続けていて良いわよ」

「ユリ様、ありがとうございます! 売り上げの半分は入れますので」

「材料費だけで良いわよ。どちらかと言うと、私の落ち度だからね。うふふ」


リラたちは、19時を過ぎても客が途切れず、20時近くまでプリンを作り続けたのだった。ユリも18時過ぎの閉店後はプリンを手伝った。販売を手伝ってくれている4人も、途中で帰るなんて出来ませんよ。こんなに面白いことを最後まで見ないなんてあり得ません!と言って、最後の客が帰るまで、付き合ってくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ