星形
ソウは朝食後、急いで出掛けていった。しかし、紙を扱う店が開くのは10時らしい。それまでにも他の買い物があるようで、紙を買ったらすぐに戻れるように、先に買い終わるようにする予定と話していた。紙はユリの注文分と、ユメに渡してしまったため、自身の分も買わなければならない。
そんな気合いを入れていたソウだったが、予定通りの買い物ができたらしく、10時半前に戻ってきた。
「ただいまー。A5用紙5色を2束ずつ、ひとつ穴パンチ、紙紐、無事買ってきたよ」
「ソウ、ありがとう」
「紙は、裁断しておく?」
「頼んで良いの? お願いします」
とりあえず、先の残り分を裁断してもらった。これで合計600枚くらいあるので安心だ。初日に900枚近く無くなったが、笹についている短冊は、まだ少ない。
こうしてFの日は、特に問題もなく、この日に減った短冊の紙は500枚程度だった。
翌日7月6日Wの日。月1回の、女性か未成年者が居ないと入れない日
当然のように早朝からリラが来ていて、客も当然のように、早くから並んでいた。
「あははー。皆さんお早いですねぇ」
「リラちゃん、あなたは休まないで疲れないの?」
「問題ありません!」
「そう。なら、又、8時30分くらいからお店開けるわね」
「かしこまりました!」
メリッサとイポミアも来ているので、とりあえずミーティングを始めた。
「今日しかないお菓子はありませんが、今日からコーヒーゼリーを出します。サファイアクリームソーダゼリーもまだあります。アイスクリームは、昨日迄の紅茶味はなく、明日からと同じフルーツ味だけです。軽食にカレーがあり、人参が黄色人参を使いで星形です。スープは、ガスパチョのほか、ビーツの入ったビシソワーズもあります。つまり、昨日までの物と、明日からの物が混在します」
「温かいスープはありますか?」
「注文があれば、コーンスープを出せますが、聞かれなければすすめないでください」
「おはようございますー」「おはようございます」
なんと、イリスとマーレイが、8時30分前に出勤してきた。
「お二人とも大丈夫なんですか?」
「はい。予定通りです」
イリスが答え、マーレイも笑顔だった。
「どうもありがとう」
二人にもメニューの説明をし、外に並ぶ客の幼い子供を抜いた15人まで声をかけ、店内へ通した。店内は幼い子を含め、今回は22名だった。
「ユリ様、今回の昼休みはどうしますか?」
「前回と同じで良いんじゃない?」
「私、父、メリ姉、ミア姉の組と、ユリ様、ホシミ様、ユメちゃん、キボウ君、うちの母で良いですか?」
「それで良いと思うわ。ねえ、又、ラベンダーさん来たりするのかしら?」
「あー。なんとも言えませんね。出ているメニューが作れそうですし、お手伝いくださるとおっしゃられるかもしれませんね」
「私が居ない間に来たら、あなたの判断で、待たせても手伝って貰っても良いから、頼むわね」
「かしこまりました」
店の注文品を出したあと、アイスクリームの仕込みのための、フルーツをカットすることから始めた。
「あの、ハナノ様、短冊の紙を追加いたしますか?」
朝の時点で、600枚くらい残っている。
「足りなさそう?」
「子供等が、書くのを失敗しておりまして」
「成る程。マーレイさんの裁量で、追加してください。カットは誰かに任せても構いません。頼んだ相手に時給が発生するなら支払います」
「かしこまりました」
店も厨房も空きスペースがなく、とりあえず休憩室のテーブルでカットしてきてくれた。
「カレーの人参ではない方って、茹でたオクラですか?」
「そうよ。輪切りが星形で良いでしょ。七夕は、星に願うので、飾りにしたのよ」
「人参の切り方を教えてください」
「大変なら、輪切りにしてから星形で抜いても良いんだけど、薄く皮をむいた人参に、5等分の印をつけて、まず人参のへこんだ部分に切り込みを入れて、人参の角になる部分から斜めに切って取り除きます。真っ直ぐじゃなくて、人参は三角錐なので、上下で切り取る部分の量に気を付けてね」
「む、難しい」
「製品としてなら、蒸しちゃってから加工すれば簡単よ。飾り切りを練習するなら、カレーやシチューを作るときに練習すれば良いわ」
破片になる方は、煮込むときに加え、星形の人参は別茹でし、仕上げにのせている。
「人参って、オレンジ色だけじゃなく、黄色もあったんですね」
「紫色のとか、赤っぽいのとか、色々あるわよ。そうそう、昔ね、3色の人参できんぴらを作ったのよ、それをサービスで出したら、「きんぴらごぼうだと思って食べたら、全部人参だった」って、物凄くショックを受けた人がいて、なんだか悪いことをした気がして、それ以来作っていないけどね」
「あはははは。私なら、大喜びするのに」
少し困った感じのイリスが厨房に来た。
「あの、ユリ様、人参が」
「イリスさん、人参がどうかした?」
「星形の人参は恐れ多くて食べて良いか分からない。とおっしゃる方がいらっしゃってまして」
「え? なんで?」
ユリの疑問に答えたのは、ソウだった。
「あー、ユリ、王家の旗見たこと無い?」
「紺色地で、白いハートの中に、金色枠の緑色の木でしょ?」
「それは、国旗」
「違うの?」
「五芒星の旗見たこと無い?」
「うーん、記憶に無いわぁ。でも五芒星であるなら、人参は星形だから違うわよね対角線のようなものは入っていないもの」
「まあ、そうだな」
「説明に行きましょうか?」
「よろしくお願い致します。先触れを出して参ります」
ユリはホワイトボードを持ってきて、星と五芒星の違いを説明しようと考えたのだ。
「ユリ様、お願い致します」
イリスが迎えに来て、店に顔を出した。
シンと静まる中、ユリはホワイトボードに星と五芒星を書き、違うものであると説明した。
「ハナノ様、この星を食べても失礼に当たりませんか?」
「失礼にはなりません。人参がお嫌いなのでしたらともかく、食べられるものを残すのは、食べ物に対して失礼ですよ? それにね、黄色い人参は、オレンジ色の人参よりもあっさり食べられますよ」
心配そうな顔から一転、落ち着いたようなので、ユリは厨房に戻った。
これ以外にはトラブルもなく、第2回女性と未成年者優遇の日は平和に幕を閉じた。
ちなみにラベンダーは、11時過ぎに店に来て、リラが昼休みの間だけ手伝い、「私が手伝うまでもございませんでしたわね」と昼休みから戻ってきたリラに言い、ユリの昼休みと合わせるように、夫のスマックと共に帰っていった。
ユリの居ない時にいると、迷惑になると考えてくれたらしい。




