短冊
お昼休み。
「ソウ、燃やすものの3方向にだけ炎を防ぐ結界を張っておいて、私が点火したら、4方向に結界を張ることって、出来る?」
「できるけど、一体何するの?」
「笹のお焚き上げよ。うふふ」
一瞬、ソウの表情がひきつっていたが、すぐにたて直し、ユリの頼みを了承した。ここで了承しなければ、全て自力で行いそうでなおさら恐ろしい。
「協力するから、具体的に、きちんと計画を話してくれ」
「お店の北側の街道の向こうの、何もない辺りに、回収した笹を集めて、火炎魔法をちょっと」
予想はしていたけど、やっぱりか。と言わんばかりに、ソウがため息をついた。
「以前、一覧を見たけど、火炎魔法って強弱2種類有ったよね? どっちを使うつもり?」
「最大1000pの『聖なる炎』の方よ。対象が消し炭になる10000pの『炎の演舞』は使わないわよ」
「くれぐれも、呪文を聞こえるように唱えたりしないように、気を付けて」
「はい。『聖なる炎!』って言葉にして、脳内で唱えるわ」
ソウは大分複雑そうな顔をしていたが、ユリにひとつ提案をしたのだった。ユリはそれを了承し、これ等は8日に決行されることとなった。
お昼休みが終わる少し前。ユリが外おやつと、飾った笹と、短冊とペン数本を持って行き、一通りの説明をした。
「1人1枚、努力をした上で、叶えたい願いを書いてくださいね。参加したい人だけで良いですよ。7日の営業時間内迄受け付けます。笹は、この笹以外に、店内と、ベルフルールにもあります。好きな場所の笹に、この紙紐で結んでくださいね。8日には、お焚き上げを行います」
ユリの後から冷茶を持ってきたマーレイが、知り合いに話しかけられ、代筆をしていた。そこには、「文字が書けるようになりますように」と書いてあった。
店に戻り、全員にもう一度説明した。
「分からないことがあったら、聞きに来てくださいね」
「ユリ様、見本になるように、私たちも書いて良いですか?」
「是非お願いします」
店内にも、裏写りしないペンを数本置いた。ユリも一緒に「世界が平和でありますように・ユリ」と書いて、吊るしてみた。
全員が参加してくれたので、笹が、七夕らしくなってきた。ふと気がつくと、キボウも何か書いている。
そっと覗いてみたが、ユリの読めない文字を書いていた。
「ソウ、キボウ君の、読める?」
「どれ? んー? 知らない文字だなぁ」
ソウも覗いてみたが、やはり読めないらしい。
何か食べたいもののリクエストなら、作ろうと思ったのだが、読めないのでユリは諦めた。
キボウが書いていたのは、この国の古語だ。王妃のハイドランジアか王子妃のアネモネなら、多少は読めると思われる。
お店が開店すると、短冊に書く願いの良し悪しについて、たくさんの質問があり、イリスやメリッサでも手に負えなくなり、ユリが説明することになった。
「ここに書くと必ず叶うと言うことではなく、決意表明的な願いを書くと良いですよ。手習いしていることを、上達するよう願ったり、練習していることの成果が出るよう願ったりなどが、一番本来のものに近いです。若しくは、平和的な願いや、気軽な気持ちで手に入れたいものなどを書いても構いません。どうぞ、お気軽に参加なさってくださいね」
「ハナノ様、息子の為に、こちらの短冊を持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
「1~2枚でしたらどうぞ。紙に決まりはないので、同じくらいのサイズなら、持参されても構いません。穴を開ける器具と紐はこちらに用意しておきます」
短冊は、5色から好きな色を選び、皆、何かを書いているようだった。
落ち着いたようなので、ユリは厨房に戻った。
「ユリ様、1人1枚ですか?」
「お客さんは、そうしてもらうけど、シィスルちゃんは、こちらとベルフルールでも書いたら良いと思うわよ」
「ありがとうございます!」
シィスルは短冊を書くと、すぐに店に行って吊るしてきた。
その後問題なく過ごしていたが、ベルフルールの休み時間、リラとマリーゴールドが、飾りの作り方を習いに来た。
「うちにランチを食べに来たあと、帰ったのかと思ったら、こっちでおやつを食べて、そのまま帰れば良いのに、又うちに来て、笹飾りがって、わざわざ指摘されたんです! 14時より前にうちに来るなら、もう一度ランチ食べれば良いのに!」
「リラさん、それは無理なのでは?」
マリーゴールドは少し困った顔をしていたが、シィスルが笑って突っ込みを入れていた。リラの言いたいことは分かるが、ランチ、おやつ、ランチは食べきれないだろう。最長でも4時間以内だ。
「ベルフルールの分の飾りと短冊も作ってあるわよ。大きい竹が1本有るから、外飾りに持っていくと良いわ」
「ユリ様、ありがとうございます」
「作ったのは、メリッサさんとユメちゃんよ。ペンもいくつか持っていくと良いわ。あ、今日のスープ飲むなら飲んで良いわよ」
「スープは明日飲みます。ありがとうございましたー」
リラとマリーゴールドは、大荷物でバタバタと帰っていった。
夕方になって、店がざわざわしていた。
「ユリ様、短冊が、足りなくなりそうです」
「え!?」
「ご家族の分を持ち帰る人が多すぎて、用意された短冊が、既に足りなそうです」
メリッサの報告に、500枚は用意があったはずと驚き、ユリはソウの方を見た。
「笹なら、追加を貰ってくるぞ」
「ソウ、ありがとう。メリッサさん、短冊の紙を切る時間有る?」
「先ほどの裁断器でしたら、お店で使っても問題ないと思いますので、皆の前で切ります」
「紙は、休憩室に在庫があるから、色が均等になるように使ってください」
「はい!」
追加を待つ客に見せるように、目の前で裁断をするらしい。
「ユリ、色紙も買ってくるか?」
「うーん、100枚入りの色紙、あれが足りなくなるとは思わなかった。だって、短冊にして、2000枚分あるのよ」
「まあ、毎日同じ数が出る訳じゃないとは思うけどな」
「足りなくなってからで良いかしら?」
「買っては来るが、切るのはそれが良いかもな」
ユリが使っている色紙は、コピー用紙のように薄いが、丈夫な紙で、薄い桃色、白、黄色、水色、薄い緑色があり、A5サイズを4等分している。
メリッサがカットした紙は、多少残りはしたが、結局足りなくなることが目に見えているので、ソウが明日買いに行って来ることに決まった。
夕飯時。
「短冊の紙、在庫大丈夫にゃ? 城の分少し置いていくにゃ?」
「追加分は全く無いわね」
ソウが明日帰ってきてから切ったのでは、時間が間に合わないかもしれない。
「ユメ、俺が待っている紙で良ければ使うか?」
ソウが持っている紙とは、以前予約券等を作ってくれた紙だ。
「ユリのと違うのにゃ?」
「ユリのとの違いは、薄い緑がなくて、薄い紫があって5色で、A4だ」
「ソウが使って良いなら、私はそれで構わないにゃ」
ユメが最初に受け取った分は全て置いていき、色味の少し違うソウの紙の方を持っていくことになった。
「はーい、切ってみたいので、私が切りまーす!」
イポミアが名乗り出た。メリッサが切っているのを見て、やってみたかったらしい。




