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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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竹鋸

「ソウ、(たけのこ)を貰ったところで、笹貰えないかしら?」

「大丈夫じゃないか? 何本要るんだ? 貰ってくるぞ」


ソウは部屋に行くと、道具箱を持って戻ってきた。


竹鋸(たけのこ)もあるし、切ってくるよ」

「タケノコ?」

「竹用の(のこぎり)。木材用より刃が細かくて、切ったときに竹の繊維が割れにくいんだよ」

「そんなものがあるのねぇ」


ユリは道具箱を見せて貰い、知らない道具に感心していた。


「笹はいつまでにあれば良いの?」

「一番早くて、今日の営業前、遅くてTの日(じゅもくのひ)の営業前かしら。お店に入るくらいの丈で、何本か有ると良いわ」

「なら、今、行ってくるよ」

「ありがとう。急に思い立ってごめんね」

「いや、頼ってくれて嬉しいよ」


ソウが出掛けたあと、ユリはお店で仕込みの合間に、折紙の七夕飾りを作ったり、折り紙より少し厚さの有る色紙を短冊用にカットし、パンチで上側に穴を開け、紙紐(かみひも)を切って数点の見本を用意していた。マヨネーズのために来たリラたちに見つかり、ユリは質問攻めにあうのだった。


「何作ってるんですか? 何かイベントですか? いつからですか? いつまでですか? どこで開催しますか? 私も参加できますか?」


さっさと答えないと、このままずっと質問責めになりそうだ。


「これは、七夕(たなばた)のイベントよ。笹に、芸事の願い事を書いた紙を吊るして、7月7日の夜を祝い、8日に、お焚き上げと言って焼くのよ」

「なんだか、面白そう!」

「ユリ様、芸事のお願い事とは、どのようなことを書けばよろしいのでしょうか?」


リラと違い、マヨネーズを作りながらマリーゴールドは質問してきた。


「本来は、機織(はたお)りの上手だった織姫(おりひめ)と言う人がいて、その人のように、機織りなどの手芸が上達しますようにと願ったらしいんだけど、今では皆好きなこと書いているわね。人の願い事を読むのが、結構面白いのよ」


ユリは思い出して少し笑った。


「どんなのがあるんですか?」

「私が見かけたことがあるものだと、『ハンバーグが食べたいです』なんて可愛いものから、『世界中の男が私に跪きますように』って書いた知り合いがいたわ。ウケ狙いなのか、本気なのかは分からないけどね」


乾いた笑いと微妙な空気が流れた。


「ユリ様は何て書いたんですか?」

「大体『世界が平和になりますように』って書いていたわね」

「壮大、でもないか。ユリ様なら、実現しそう」

「うふふ。今なら、可能かもしれないわね」


「笹はどうするんですか?」

「ソウが貰いに行ったわ」

「来客全員が書くと仮定して、吊り下げる紙は、1000枚を下りませんね」

「え、そんなに多い?」

「だって、今日4日から7日の営業終了までですよね?  4日間もありますよ?」

「う、確かにそうだわ」

「うちでも引き受けましょうか? 笹置く場所が足りないですよね?」


そこへ、2メートル程度の笹を複数持ったソウが戻ってきた。


「ユリ、店内用の笹を先に貰ってきたけど、店外に大きいの置かない?」

「あ、それなら店内に来ない人や、ご近所の方にも参加して貰えるわね」


「ホシミ様、私にも笹をわけて頂けませんか?」

「ベルフルールの分もあるぞ? どうせ参加するんだろ?」

「ホシミ様って、以前から凄い方だとは思っていましたが、本当に物凄い方だったんですね」

「なんだそりゃ?」

「あれ? 誉めたかったんですけど、凄すぎてなんて言えば良いか分からなくなりました」

「あはは。リラらしくて良いんじゃないか」


リラは笹を4本受け取り、マリーゴールドと一緒にベルフルールへ帰っていった。


メリッサとシィスルが出勤して来て、笹の飾りを見て、質問してきた。


「これ、何ですか!?」

「ユリ様、リラさんも葉のついた竹を持っていましたが、この細い竹は何に使うのですか?」


ユリは再び七夕の説明をし、色紙(いろがみ)の束を5冊渡し、短冊を作るのをメリッサに頼んだ。


「ユリ様、こちらの飾りはどうされるのですか?」

「簡単だから、覚えて作ってくれるとありがたいわ。笹が何本か有るからね」

「笹ですか?」


シィスルが理解する笹は、ちまきに使った大きな葉だ。

笹とは、竹についている葉のことではない。本来、笹と言う植物の名なのだ。


「ごめんなさい。子供の頃から、七夕の竹飾りを『笹』と呼んでいるので、便宜上『笹』と呼んでいます。これは正しくは、葉のついた竹ですね」

「イベントの名前として『笹』なんですね」

「その理解で、お願いします」


ユリは、折紙を折り畳み切り込みを入れ、開くと伸びる飾りや、輪っかを繋いだ飾りなどを作って見せた。


「ユリ様、それ作るなら、シーミオを呼んでも良いですか?」

「構わないわよ。あなたが責任もって指導するなら、他の子供も呼んで良いわよ」

「急いで行ってきます」

「手伝う人にはお昼ご飯出すから、そう伝えてね」

「はーい」


入れ違いで、慌てて出ていくメリッサに、イポミアが驚いていた。


「おはようございます。メリ姉は、どこに行ったんですか?」


更にもう一度、七夕の説明と、飾りの作り方を指導するのだった。


すぐに戻ってきたメリッサは、シーミオの他に、シーミオより少し年上の子供を2人連れてきた。イポミアは、飾りには興味がないのか、厨房を手伝いたいと言って、シィスルの助手をしている。


「シィスルさん、リナーリは、使い物になりそうですか?」

「凄く素直なので、教えがいが有りますよ」

「どうかよろしくお願いします」

「任せてください」


どうやらイポミアは、シィスルに話を聞きたかったらしい。


イリスとマーレイも来て、ソウは、明日のアイスクリームの仕込みを始めた。ユリは量っておいた材料を全て渡し、アイスクリームの全権をソウに委ねた。


「お店の、何作ってるのにゃ?」

「ユメちゃんおかえりなさい。七夕の飾りを作っているのよ。ユメちゃんも覚えて、カンパニュラちゃんに教えると良いわ」

「わかったにゃ」


戻ってきたユメとキボウは、店で子供たちに指導しているメリッサに、教わりに行った。


「ユリ、笹増やすか?」

「そうね。お店よりは少し大きいのを何本か持ち込んだら良いわよね」


ソウは、早速貰いに行ってくれるらしい。


「マーレイ、俺、少し外して大丈夫か?」

「かしこまりました」


今日作っているアイスクリームは、詰め込むだけのタイプなので、仕上げなどが要らない。厨房には5人いるので、詰め込み要員も問題ないと思われる。


ソウは出掛け、1メートル無い小さい笹と、2メートル級の笹を5本と、5メートル級の笹を5本持って帰ってきた。5メートルの笹のうち、2本は、アルストロメリアとベルフルールの外置き用の分らしい。それ以外は、王宮に運ぶと言っていた。


「ユリ、お城の分の短冊の紙はあるにゃ?」

「何枚くらい要りそう? うちと同じくらいで良い?」

「紙に決まりがないならにゃ、足りなければ何とかすると思うにゃ」

「それもそうね」


ユリは、色紙(いろがみ)の束を5冊と紙紐を渡した。


「飾り作りは終わったの?」

「なんだかたくさん作ったにゃ」

「ユメちゃん、どうもありがとう」

「キボウも手伝ってくれたにゃ。そろそろご飯になるにゃ?」

「そうね。今日は、トマトの冷たいスープのガスパチョと、ハンバーグセットと、ゼリーとアイスクリームがあるわよ」

「楽しみにゃ」


手伝った子供たちにも、ランチをご馳走し、早速短冊を書いて貰った。と言っても、文字は書けないので、メリッサが代筆していた。

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