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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

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蓴菜

ソウは再び、キボウを先に連れ転移していった。


戻ってきたキボウにつかまり、転移した先は、大きな屋敷が見える池のような場所で、色とりどりの睡蓮(すいれん)が咲いていた。


「うわー! モネの絵みたい!」


「ユリ様、この花は何ですか?」

「これは、睡蓮よ」

「素敵ですわね」

「凄いにゃ」

「さかなー、さかなー!」

「鯉が泳いでるな」


睡蓮の下を、錦鯉が優雅に泳いでいる。


「鯉がいるの? 餌やっても良いかしら?」

「聞いてくるよ」


ソウは笑いながら、屋敷の方に聞きに行ったが、すぐに誰かを連れて戻ってきた。


「ユリ、鯉の餌って、何?」

「食パンの耳よ」


ユリはいくつか渡して、ひとつ食べて見せた。

相手は、ソウを介して受け取り、やはりひとつ食べてみていた。


「もったいない気がいたしますが、こちらの餌でしたら、問題御座いません」


予想外に美味しかったらしい。


「あら、では、中身をおひとつどうぞ」


ユリは、ロールイッチをひとつ渡した。食パンで作る、海苔巻きのようなサンドイッチだ。サンドイッチ類を作った為に、大量の食パンの耳があったのだ。


「ユメちゃん、鯉に餌やってみる?」

「やってみたいにゃ!」

「キボーも、キボーも!」


ユリは、全員に食パンの耳を配り、他にも鯉のいる場所を案内して貰った。


ユリは、ポン、ポンと、少しずつを遠くに投げていたが、キボウがうっかりまとめて落としたところ、鯉が群がって怖かったらしい。


「キボー、いらなーい」


半泣きのキボウが、ユリに張り付いてきた。


「キボウは、餌を落としたのにゃ。鯉がたくさんで怖かったみたいにゃ」

「そうなのね。キボウ君はお腹空いてない?」

「ユメー、もらったー」


「ユメちゃん、キボウ君に何か渡したの?」

「転移したからにゃ、パウンドケーキを渡したにゃ」

「ユメちゃん、どうもありがとう」


そこは私が気がつかなければいけなかったと、ユリは反省するのだった。


睡蓮は見事だが、池はそんなに広くないので、リラのスケッチが終われば、少し飽きたらしいキボウとユメが、水に手を入れ遊んでいた。


ふと見ると、ソウがこちらに腕時計を構えていたので、画像を保存していたのかもしれない。


「最初の場所に戻るぞー」


ユリがリラとマリーゴールドを連れ、キボウがユメを連れ、ソウは一人で戻ってきた。


「黒猫様、聖女王様、ご用意が整いました」


探されていたらしく、人気(ひとけ)の無い場所に戻ったはずなのに、すぐに声をかけられた。


案内人についていくと、摘みたての蓴菜(じゅんさい)があり、桶いっぱいに入っていた。念のため洗浄済みらしい。


「うわー、凄い。こんなにたくさんの蓴菜って、初めて見ました」

「ユリ様、これ、どうやって食べるんですか?」

「一番簡単なのは、この葉の回りのゼリー状のものを崩さないように丁寧に洗ってから、ざるに入れてさっと湯につけて茹でて、色が変わったらすぐ冷水にとって、酢の物かしら? 何ならポン酢でも良いわよ」


ユリの説明を聞き、リラは残念そうだった。


「お店に帰らないと無理ですね」

「これ、下処理してあるみたいだし、茹でてみる?」


茹でる? ユリ以外の全員が、何言ってるんだろうと不思議に思った瞬間、ユリが指輪を杖に変え、敷物、テーブル、特製夏板、鍋、菜箸、レードル、ざる、ボール、ココット(複数)、自家製ポン酢、果汁等を取り出していた。


「ユリ、キャンプでもするのにゃ?」


冷静に突っ込むユメと、お腹を抱えて笑い転げてしまったソウと「さすがユリ様!」と感心しているリラとマリーゴールドに、反応がわかれた。キボウはなんだか楽しそうだ。


「飲料水を分けてください」

「か、かしこまりましたー!」


案内人は、目を真ん丸にして驚いていたが、ユリに声をかけられ、慌てて井戸水を汲みに走っていった。

水を要求したユリだが、さらに鞄からタッパーウェアに入った氷とピッチャーの水を取り出し、ボールに入れていた。


「水もあるのにゃ!?」

「茹でるのに使うほどは持っていないのよ」


加熱して使う水は、現地調達で良いかなと考えたのだ。

少し復活したソウが、語りだした。


「俺も折り畳みテーブルと特製夏板くらいは持ってるけど、ユリの方が何枚も上手(うわて)だった」


むしろ、ソウも常に持っていることの方が、皆驚いたらしい。


水を受け取り、鍋に入れて沸かし、レードルを使って蓴菜を一部ざるに入れ、ざるごと鍋に入れ、色が変わるまでさっと茹でた。氷水に放ち、再度ざるに取り水を切り、ココット7つに分けた。


「下ろし生姜とか有ると良かったんだけどね」


ユリは少し果汁を足したポン酢を入れながら話していた。

案内人にも、姫フォークと一緒にココットを渡し、皆で試食してみた。


「取れ立て旨いな」

「美味しいにゃ!」

「つるつるー、つるつるー!」

「何か面白ーい!」

「喉越しが楽しいですわ」

「本当、美味しいわ。鮮度かしら?」


「あの、こちらの調味料は、何で御座いますか?」

「これは、ポン酢です。醤油と柑橘類の果汁を混ぜて作ります」


ポン酢の作り方を説明すると、材料を揃えてみますと言って、喜んでいた。


少し離れたところに、小振りな白い蓮の花が咲いている、かなり大きな池があった。


「花、大きくないにゃ」

「たぶんだけど、あれはメインが花ではなく、地下茎の蓮根なんじゃないかしら」

「違うのにゃ?」

「花が大きい品種と、地下茎が太くなる品種があるんだと思うわよ」

「成る程にゃ」


「ユメちゃん、このあとランチにするけど、一緒に食べる?」

「分けてくれるなら、カンパニュラのところに行くにゃ」


ユリは、リラとマリーゴールドを見た。

リラは小刻みに首を振っていて、マリーゴールドは身を引いて狼狽えている。二人ともお出かけ着ではあるが、登城できる服ではない。


「じゃあ、これ持っていってね」


ユリは、ロールイッチと普通のサンドイッチを大量に取りだし、ユメのリュックサックに詰め込んだ。


「ありがとにゃ!」


キボウがユメを連れて転移していった。


テーブルを置いても良い場所を聞いて、大きな蓮が見える場所でランチにすることにした。


椅子付きテーブルでサンドイッチを食べていると、走ってくる人が見えた。


「あれ、あの人」


リラの声に皆がそちらを見た。それは、鯉の餌を吟味した人だった。

ユリがひとつだけ渡したロールイッチについて質問するために、探していたらしい。


「ま、まだ、お帰りになら、なられなくて、よか、よかった、です、」

「深呼吸して、お茶でも飲んでください」


ユリは冷茶を渡し、落ち着くよう促した。


どうやら、受け取ったロールイッチを屋敷の主人に見せたら、説明を求められたらしく、困って探していたと、説明していた。


ソウによれば、屋敷の主人とは何処かの前侯爵らしく、行けば面倒だと言うので、ユリの説明をマリーゴールドが清書し、文書にて手渡した。ついでにロールイッチも少し渡し、面倒事を回避した。


もう一度来られても面倒なので、蓴菜の案内人に、帰ると明言してからお店まで転移で戻ってきたのだった。

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