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パープル邸のユリの部屋につき、人を呼ぶと、すぐにローズマリーが現れた。
ユリと一緒に来たマリーゴールドを見て、事情を察したらしく、すぐに別の部屋に席を用意してくれた。
「このような場を設けて頂きまして、誠にありがとう存じます」
マリーゴールドが挨拶をし、ユリはそばで見ているだけだった。
マリーゴールドはローズマリーに、ローズマリーから見てこの求婚はどうであるかを確かめていた。ローズマリーは、人物調査の結果や、コバルトブルー伯爵家の内情などを事細かに教えてくれた。
「輿入れなさった場合、子爵夫人になると思われます」
「伯爵じゃないんですか? あ、ごめんなさい。純粋な疑問です」
思わずユリが口を挟み、少し場が和んだ。
「オリーブ・コバルトブルー様は、嫡男ではございませんので、コバルトブルー伯爵家が持っている別の爵位を引き継ぐこととなるかと思われます。その中に子爵位があるはずでして、恐らく子爵になるかと思われます。マリーゴールド様が、元の婚約者とご成婚された場合に、男爵夫人になれたであろう事を踏まえ、それより上の爵位を継ぐと考えております」
ソウから聞いていた、ローズマリーが助言したらしい女性が喜ぶ条件の中の1つらしい
「わかりやすい説明ありがとうございます。中断させてしまってごめんなさい。続きをどうぞ」
再び、ローズマリーの説明と、マリーゴールドの質問が続き、話し合いが終わる頃、マリーゴールドは顔つきが変わった。
「ご実家のハニーイエロー男爵家から嫁いでも良いですし、この土地から私共を後援に嫁いでも構いませんよ」
それは、何が違うんだろう?と、ユリは聞いていて思ったのだ。
「質問しても良いですか?」
「ユリ様、どうぞ」
「実家から嫁ぐのと、この土地から嫁ぐのでは、どう違うんですか?」
「一般的には、ご実家からのお越し入れですと、恐らくご実家への支援があるものと思われます。こちらからですと、侯爵家の後ろ楯があると言うことで、伯爵家に強く出ることができます。ですが、ご実家から嫁がれても、ユリ様から直接教えを受けた弟子であったことにはかわりがございませんので、立場が弱まることはないと思われます」
「良く分かりました。解説ありがとうございます」
ユリが理解すると、話し合いは終了した。マリーゴールドは丁寧にお礼を述べ、次に、転移陣の使用について質問を始めた。
「あの、それって、王城を通って領地に帰る話?」
「左様でございます」
「私はハニーイエロー男爵家がどこにあるか分からないけど、ソウに聞けば分かるから、送るわよ?」
「これ以上、ユリ様のお手を煩わすのは、」
「むしろ、私かソウが送れば、その日のうちに帰ることも出来るし、リラちゃんに迷惑をかけずに済むわよ?」
ローズマリーは、ユリなら言い出すだろうと考えていたらしく、笑顔でマリーゴールドを見ているだけだった。
答えの出せないマリーゴールドに、ローズマリーが、助言する。
「では、手紙を出して、ハニーイエロー男爵にお知らせしてはいかがでしょう?」
「ありがとう存じます」
帰って手紙を書き、直接帰ることを伝え、日程を調整する。ということに話がまとまった。
「ユリ様、ありがとう存じます。ローズマリー様、ありがとう存じます」
「幸せにおなりなさい」
「幸せになる手伝いは、楽しいわぁ。うふふ」
ユリは、ローズマリーに向き直った。
「ローズマリーさん、いつもどうもありがとうございます」
「勿体のうございます」
「じゃあ、帰りましょう。ベルフルールの前が良いわね」
「よろしくお願い致します」
ユリは、ベルフルールの前に転移し、マリーゴールドが家に入ったのを確認してから、自宅のソウの部屋に転移した。
自分の部屋に戻り、コックコートの上に羽織っていたコートを脱ぎ、厨房へ戻ってきた。
「リラちゃん、お待たせー」
「ユリ様、お帰りなさい。シィスが、手伝ってくれてます」
「シィスルちゃん、ありがとう!」
シィスルは作業をしたまま、ニコッと笑い返していた。
「マリーはどうなりましたか?」
「ベルフルールに送ってきたわ。ローズマリーさんに色々聞いて、覚悟が決まったみたいよ」
「マリーが幸せになるなら、私も応援したいです」
「そうよね」
アイスクリームを仕込んでいたソウに、ハニーイエロー男爵家がどこにあるか聞くと、王城から見て北東方向にあると教えてくれた。明日にでも、実際の場所を教えてくれるらしい。
20分くらいすると、マリーゴールドが平服で現れた。
「何かお手伝いさせてくださいませ」
「シィスルちゃんと、休憩室で話してくると良いわ」
ユリが外していた間の分は、シィスルが手伝ってくれていた為、問題なかったようで、予定どおり、いや、むしろ予定よりも仕事は片付いていた。リラとシィスルがムキになり、仕事をしたのだろう。
後からソウに聞くと、全部終わらせる勢いで、2人とも気合いが凄かったぞ。と教えてくれた。
仕事が終わり、メリッサが帰った後、イポミアを含む全員を残し、レギュム、クララ、グランも呼び、リラとマリーゴールドから説明することになった。
私は関係ないのでは? と、出席するのを渋るイポミアにも無理矢理に残って貰った。
マリーゴールドの話は、詳しい話し合いはこれからにはなるが、基本的に、この求婚を受けるつもりであること、マリーゴールドの要求としては、なるべくベルフルールに残り、料理を極めたいことを伝えること。相手も年内は待ってくれるようなので、今年いっぱいの営業日まで残りたいと伝えること。迷惑をかけると思うので、皆さんどうかよろしくお願いします。とマリーゴールドは頭を下げた。
リラからは、マリーゴールドが抜ける前までに、リナーリを一人前になるよう指導し、ベルフルールをシィスルに譲るつもりであることを話した。
「え、えーー! 私が残されたのって、リナーリの件!?」
「そう言うこと」
イポミアが騒いで、リラが答えていた。
「リラちゃん、今年はいつまで営業するの?」
今年は? 一瞬質問の意味を悩んだリラが、顔色を変えずに答えた。
「はい! マリーの都合に合わせようと思います」
「ああ、そうね。マリーゴールドちゃんの話し合いが済んでから決めるようね」
リラは、本来ベルフルールを年末ギリギリまで営業して1月になってから数日休む予定だったのを、ユリの店のニューオープンに合わせ、弟子のためとごまかして店を早くから休んだ経緯がある。弟子は12月26日には帰らせるつもりではいたが、店は開ける予定だった。
ちなみに、ユリには未だに露呈していないが、ソウはマーレイから前年の状況を聞いて、早々に悟っている。




