百合
「百合が咲いたにゃ!」
世界樹の森に行くと言っていたユメが戻ってきた。まだ8時を過ぎたばかりなので、早すぎるのかもしれない。
「良かったわね。リラちゃんにも伝えておくわね」
「オレンジ色の花で、黒い斑点の模様があるにゃ」
「やっぱり、鬼百合か、小鬼百合だったわね」
それだけ言うと、ユメはまた外に行ってしまった。
今日は7月1日Gの日。今月からアイスクリームやゼリーをメインに出す予定だ。今日のメニューは昨日と一緒なので、休み明けの分からとなる。
9時前、メリッサより早く、リラは来た。
「おはようございます!」
「おはようリラちゃん。百合、咲いたらしいわよ」
「え! 見てきて良いですか?」
「どうぞ。スケッチしてきても良いわよ」
「ありがとうございます!」
リラが慌てて行くところに、ちょうどメリッサが来た。
「おはようございます。リラはどこに行くんですか?」
「メリッサさんおはよう。リラちゃんは畑に百合を見に行ったわ」
「へぇ、百合の花が咲いているんですね」
「興味があるなら、見に行ってきて良いわよ」
「でしたら、昼休みに見に行こうと思います」
メリッサは仕事を開始した。真面目だなぁとユリは感心していた。
10分程で、リラはスケッチブックを持って戻ってきた。
「あんな小さな欠片で花が咲くんですね」
「キボウ君が面倒を見ているから特別かもしれないわね」
「あ、成る程」
イポミアが来て、リラも仕事を開始した。
仕事を開始して少しすると、リラが挙動不審になった。
リラが、ユリに何か話そうとしては、思い止まって、又、何か話そうとしては、思い止まってを繰り返していて、いい加減ユリは気になって、リラに聞くことにした。
「リラちゃん、何か話があるなら、気軽に話してちょうだい」
「あ、はい、どこから話せば良いか。そうですね。先週のEの日、シィスが一人で店を開けたじゃないですか、それで思ったんですが、ベルフルールをシィスに譲ったら、私はユリ様の弟子に戻れるんじゃないかなぁって」
「ちょっと待って、どういう経緯でそういう話になったの?」
先週、マリーゴールドをアルストロメリア会に連れ出すために、シィスルがリラ不在で店を開けたのは、記憶に新しい。半分はユリのせいだ。それにしたって、話が飛躍しすぎている。
「あ、そうか。伝え忘れていました。シィスル、お兄ちゃんと結婚するそうです」
「そうなの!?」
「なので、私でなくてもあの店の店主は務まるのです。元々おじいちゃんの店を継ぐのはお兄ちゃんの予定でしたし、良いと思いませんか?」
イリスの家出のせいで、そんなことを昔聞いたけど、それは今でも有効なの? それに、と、ユリは更なる疑問をぶつける。
「その場合、マリーゴールドちゃんはどうなるの?」
「あ、マリーが、貴族に戻る場合も含めて考えてます」
「その場合ベルフルールは、シィスルちゃんと、誰が運営するの?」
「シィスとお兄ちゃんと、リナーリですかね?」
「それで、お店、回るの?」
「まあ、少しの間は手伝うようですが、シィス優秀なので、可能だと思います」
「関係者全員と、良く話し合いなさいね」
「はい。でも、言葉にしたら、自分でもスッキリしました」
その後、リラは上機嫌でテキパキ仕事をこなしていたが、ユリは色々考え込んでしまった。
以前、イリスに言われたことを思い出す。「実を申しますと、リラは、ユリ様がお戻りになられたら、自分の店を閉めるつもりでいたようです。しかし、弟子を放り出すわけにもいかず、渋々営業を続ける判断をしたらしく、それでもどうしてもユリ様と一緒に仕事がしたいと、大分悩んだようでした」こう伝えられたのだ。
マリーゴールドが結婚して、ベルフルールを辞めるとなったら、ちゃんと考えねば。と、ユリは真剣に考えるのであった。
昼前に帰ってきたユメが、いきなり言い出した。
「お正月に食べたミニピザが楽しかったにゃ。又食べたいにゃ」
「え、うん。近いうちにするわ」
「ありがとにゃ!」
なんだったんだろう?と、ユリは少し不思議に思った。
全員で昼ご飯を食べ、週明けからの予定を話した。メリッサやイポミアは、アイスクリームを楽しみにしているらしく、午後からの仕事で店に立つより、仕込みが見たいなどと話していた。
メリッサはイポミアを誘い、畑に百合を見に行くと話していた。リラは両親と話をすると言い、ユリはソウに声をかけ、午前中の事を相談することにした。
ソウの部屋に来て、ユリの真剣な表情に、ソウは何だろうと不安げな顔をしていた。そこにユリは切り出した。
「リラちゃんがね、ベルフルールをシィスルちゃんに譲って、こちらに戻るって言うのよ。シィスルちゃんはお兄さんと結婚するから、ベルフルールの跡継ぎ問題も解決だからって」
「それは又、凄い話になってるな」
さすがにソウも驚いていた。予想外なユリの悩みに、少しだけ安堵し、頭を切り替えた。
「私はどうしたら良いのかしら? 何をしてあげられるのかしら?」
「ユリは見守るしかないだろ?」
「うん」
「誰もが幸せな結果になると良いな」
「うん」
「俺に出来ることは何でもするから、一人で悩まず相談してくれ」
「ありがとう。あと、ユメちゃんが、お正月のミニピザが又食べたいって言いに来たわ」
「そうか。なら、週末にでも用意するか」
「うん」
ユリが話して落ち着いて笑顔になったため、ソウもニコッと笑った。
少し休憩した後、外おやつを出し厨房に戻ると、ため息をついたイリスが、イポミアと話していた。
「こんにちはー」「こんにちは。お邪魔致します」
シィスルとマリーゴールドが、やってきた。マリーゴールドだけお出掛け服を着ている。
「こんにちは。シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん」
「私は付き添いです」
シィスルが宣言した。
「あの、ユリ様、大変申し訳ございませんが、ラベンダー様か、ローズマリー様に、お願いをしたいことがございます」
「良いわよ。直接行く?」
訳を聞かないユリを不思議に思ったらしい。
「よろしいのですか?」
「用事があるのでしょう? それって、貴族としての何かよね? はっきり言って、私は当てにならないから、頼みごとがあるなら、出来る人に頼んだ方が良いわ」
「ありがとう存じます」
「着替えとかならラベンダーさんでも良いけど、婚姻関係は、ローズマリーさんが良いと思うわよ。私も聞いた知識だけど、相手と話す場所が必要になるのでしょ?」
「マリーゴールド、ハニーイエロー男爵を連れてこようか?」
一緒に聞いていたソウが声をかけた。
「はい、あの、兄に手紙を出しましたところ、好きにして良いとの返事を頂きました。ですが、オリーブ・コバルトブルー様と、もう一度お話をして、将来を決めたいと考えております」
リラが言い出したことを理解できる程度に、マリーゴールドは、婚姻を前向きに考えているようだ。
「なら、やっぱり、ローズマリーさんのところに行きましょう。今すぐで良い?」
「私は構いませんが、ローズマリー様にご迷惑なのでは」
「行ってみて、いなければ日を改めるわ」
「かしこまりました」
ユリは振り返った。
「リラちゃん、ちょっと行ってくるから、お店よろしくね」
「はい。マリーをよろしくお願いします」
ユリはマリーゴールドを連れ、パープル邸に転移した。




