表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

576/689

父日

昨日の製菓衛生師免許の受験日、ユリは少し遅く帰ってきた。試験自体は、特別配慮を受け昼過ぎに終了しているので、もっと早く帰ることができたはずである。その間に何をしていたかと言えば、一人で出歩いていたのである。


普通の服に着替えたあと、まずは、自宅近くにあった保育園を運営していた経営者のお宅に伺った。


ピンポーン。


「はい。どちら様ですか?」

「お久しぶりです。ユリ・ハナノです」

「え!? ユリちゃん!?」


お年を召した女性が、慌てて飛び出してきた。


「本当にユリちゃんだわ!」

「園長先生、お久しぶりです。雛人形受け取りました。ありがとうございます」

「そうなのね。そうなのね。良かったわ。時間はあるの? 良かったら上がってちょうだい」


家に招かれて、保育園をたたんだ経緯を話してくれた。


商店街がなくなり、一帯が公園に変わり、居住者が減ったことにより、園児が大幅に減り、園の後継もいないことから、良い機会だからと、2年かけて閉園することにしたそうだ。


雛人形は、暫く自宅に飾っていたが、ホシミ夫妻に偶然会った時に、雛人形の話をし、預けることになったと話していた。


「外国に住んでいるのでしょう? 結婚はしたの?」

「はい。今年の1月にソウと結婚しました」


ユリは写真を取りだし、何枚か見せた。


「あら、紙の写真だなんて、珍しいわね。ソウ君と結婚したのね。おめでとう」

「ありがとうございます」


優しい声と話し方に、心が落ち着く。


「外国のドレスは、なんだか凄いのね」

「あはは」


魔力を込めたキラキラのドレスを着た写真には、驚いたらしい。


「ユリちゃんが幸せそうで安心したわ」

「先生、いつも見守ってくださってありがとうございます」

「あなたは誰よりも幸せにならなきゃね。お父さんとお母さんの分まで幸せになるのよ」

「はい。ありがとうございます」

「又、近くに来たら寄ってちょうだいね」

「はい。かならず」


そうしてユリは、雛人形を返して貰ったお礼を言ってきたのだった。



翌日の、6月の第3日曜日


「ソウ、ケーキを配りましょう」

「なんでケーキ?」

「だって、他、何配る?」

「あ、まー、ケーキが良いか」


ソウは白い薔薇の花束と、黄色い薔薇の花束と、高そうなシャツを2組持ってあらわれた。


「ユメ、キボウ、留守番頼んだ」

「任せるのにゃ!」

「まかせる、まかせるー!」


ユリとソウは近いところから回っていった。

マーレイ&イリス夫妻、パープル侯爵夫妻、国王夫妻、ソウの養父母(ホシミ夫妻)、ソウの実の両親(月見夫妻)、寿(ことぶき)夫妻を回る予定だ。


マーレイとイリスは、前回と同じように、すぐに受け取ってくれた。


パープル侯爵夫妻は、パープル侯爵は喜んでいたが、ローズマリーが少し心配そうに質問してきた。


「あの、ユリ様、ラベンダーには」

「あ!忘れてた! そういえば、ラベンダーさんとリラちゃんから、前回怒られたんだわ」

「ユリ、何怒られたの?」

「イベントは、実行前に教えてくださいって」

「あはは、ラベンダーとリラらしいな」

「聞かれるまで放置しましょう」


ローズマリーは少し苦笑して送り出してくれた。


城に行き、国王夫妻を訪ねたら、国王は会議中らしい。

すぐに会議を中断させて呼んでくると言われたので、それは断った。ハイドランジアにケーキを預け、次にソウの自宅へ転移した。


「親父とお袋が先で良いよな」

「うん」


ホシミ家に転移し、ソウが玄関ドアを開けようとしたら、向こうから開いた。


「お、ソウ来たか。ユリちゃんいらっしゃい」

「お邪魔します」


ソウの養父 星見 (つかさ)だった。


「ユリちゃんが来たの?」


ソウの養母である、星見 (はるか)が、奥から出てきた。


すぐに部屋に招かれ、紅茶を出された。


「父の日のケーキを作って参りました」

「親父、薔薇持ってきた」

「物凄く楽しみにしてたんだよ! 何のケーキなんだい?」

「コーヒーとチョコレートのケーキです」

「良いねぇ! 遥さん、すぐに切ってください」


ユリも席を立ち、キッチンで一緒にケーキをカットしてきた。この家のキッチンは初めて入ったが、以前の家(現ソウの自宅)では一緒にキッチンで料理したこともある。


ユリは、もうひとつ取りだし、内緒で渡した。


「これ一緒に食べちゃうので、私たちが帰ってから、こちらを渡してください」

「はい。気を利かせてくれてありがとうね。きっと驚くわね」


ユリは、フルーツのケーキも置いてきた。


楽しく歓談し、1時間ほどでお(いとま)した。


次に月見家に転移した。

前回と違い、正面入り口だ。わざわざインターホンを鳴らし、中に入った。

いつも屋敷内に直接来るので、重厚な玄関を、ユリは初めて見たのだった。


「凄い門構えなのね」

「あ、外から来ないから知らなかったのか」

「うん」


すぐに人が来て、部屋に案内してくれた。


「なんで今日は、玄関からなの?」

「ユリが用事があるから、ちゃんと正面から入るべきかなって思って」

「私のためなの? ありがとう」


ソウの実の両親も、喜んで受け取ってくれた。ソウは花束とシャツを渡していた。今日はカエンが不在らしく、屋敷内の人が少ない。


引き留めたそうな感じではあったが、何を話したら良いか分からないと言うソウのために、早々にお暇した。


寿夫妻は同じ施設で、元気に暮らしている。

父の日で、訪問者が多いらしく、談話室が使えないため、入居者の部屋に直接行って良いと言われた。


寿 南天(なんてん)

寿 菊花(きっか)


名札を確認し、部屋を訪問した。


「寿さん、父の日のケーキを作って来ました」

「おー、待ってたよ!」


早速手渡しすると、中を見て喜んでいた。


「良く出来てる。母の日のカーネーションケーキも良く出来ていたし、日々勉強中かな?」

「はい。あ、昨日、製菓衛生師試験受けてきました。凄く優遇して貰って、待ち時間がなく済みました」

「試験、どうだった?」

「最近流行ったウイルスの問題が、ちょっとわからなかったんですけど、他は大丈夫だと思います」

「外国にいたら知らないよな」

「ええ、まあ」


楽しく話し、面会許可時間が迫り、退室した。


墓参りをし、今回は誰にも会わずに戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ