小梅
昨日の仕事終わりに聞かれたのだが、何と青梅が手に入るらしい。
「ハナノ様、北の商人から声をかけられたのですが、青梅というものはお使いになられますか?」
「はい!! 是非お願いします! 青梅で20kgでも30kgでもお願いします!」
ユリのあまりの食いつきに、マーレイが若干引いていた。
「ユリ、20~30kgも何作るの?」
ソウが不思議そうに尋ねた。
「青梅は、梅酒、梅ジュースね。小梅なら、カリカリ梅で、完熟梅は梅干しとか、梅ジャムとかかしらね」
「カリカリ梅って、ユリって作れないもの、無いの?」
「醤油とか味噌とか味醂とか作れないわよ?」
「あ、うん」
ソウは、聞くだけ無駄だったと感じたようだ。
梅酒と言ったときに、マーレイも思い出したらしい。
「あの、とても売れたシャーベットの」
小さく呟く声が聞こえた。
「小梅でも、青梅でも、完熟梅でも引き取るわよ」
「小梅とは、小さい梅でしょうか?」
「そうそう小さい梅よ。たぶんね、産地では花粉用の受粉木として小梅があるはずなのよ。商品として出す気がないなら諦めるけど、売ってくれるなら10kgぐらい漬けて、おやつにするわ。なるべく青々した小梅ね」
「かしこまりました。確認しておきます」
そんな話を仕事終わりにしたのだった。
翌日Eの日の13時頃、花梨花が直接やってきた。
「ユリ・ハナノ様! ユリ・ハナノ様!」
男性の声なので、ソウが様子を見に行くと、花梨花と菊之助が木箱いっぱいの小梅を持って待っていた。
すぐにユリが呼ばれ、小梅を見たユリは、大喜びだ。
「ユリ様、小梅を何に使われるのですか?」
「え? カリカリ梅って聞かなかったの?」
「伺いましたが、思い当たるものがございません。どのような物でしょうか?」
「漬け物感覚で、カリっとした梅漬なんだけど、そう言えば、割りと新しいものなのかも」
ユリは詳しい作り方を説明し、青梅と完熟梅の注文も直接した。持ち込まれた小梅は、レシピのお礼にと、そのまま渡された。
量ってみてはいないが、20kgくらい有りそうだ。
「さあ、梅が柔らかくならないうちに作ってしまいましょうか」
「ユリ、リラに声かけなくて大丈夫か?」
「あはは、ありがとう。又怒られるところだったわ」
新しいレシピは誰かがいるときに作ってください。と、しつこく言われているのだ。
ユリは以心伝心を送ることにした。
『ユリです。花梨花さんから小梅をいただいたので、カリカリ梅を作ろうと思います。見学しますか?』
『30分ほどお待ちいただけるなら、全員で伺います!』
食いぎみに返事が返ってきた。
『準備して待ってるわね。卵の殻が有ったら持ってきてください』
『良く判りませんが、今日使った殻がたくさん有るので、持っていきます』
「ソウ、連絡したわ。30分後に全員で来るそうよ」
「そうか」
ソウは笑っていた。予想通りだと思ったのだろう。
ユリは梅を量り、500gをいくつか用意した。量った粗塩も同数用意し、ホワイトリカーを準備し、鍋にお湯も沸かした。
「間に合いましたか!?」
「声かけたんだから待ってるわよ」
14時少し前、リラが走ってやってきた。後からシィスルとマリーゴールドとリナーリが息を切らせて走って追い付いてきた。
「あ、あの、ユリ様、私も参加して、良いのですか?」
「勿論よ。リナーリちゃんも興味があるなら参加してね」
そこに、丁度ユメとキボウが戻ってきた。
「何やってるのにゃ?」
「カリカリ梅を作ろうと思ってね。ユメちゃんも参加する?」
「良いのにゃ?」
「勿論よ」
「キボーも、キボーも!」
「はい。キボウ君も参加してください」
様子見していたソウが、キボウが参加できるなら簡単そうと考えたらしい。
「なら、おれも参加して良い?」
「ソウの分も計量済みよ。うふふ」
ユリは、500gを8つ量っておいたのだ。
「急ぎだろうから、さっさと説明を始めるわね」
青い梅を良く洗い、少しの間、水に浸ける。3時間くらい。
キボウが、1時間を3回時送りしてくれた。
卵の殻は中の薄皮を取り除き、3分茹で、しっかり乾かす。
ユリが「ウオスナク」と乾燥の呪文を唱え、乾燥させた。
ヘタを取ってしっかり水気を拭く。傷がある梅は除く。
ここは特に丁寧に。
梅の1割りの粗塩を加え、揉み混むように良く馴染ませる。
今回は50g
漬け込む場所に、少々のホワイトリカーと、梅と、お茶パックに入れた卵の殻を加え、軽い重石をのせ漬け込む。
お茶パックがなくても、カーゼ等に包めば良い。
ジッパーバッグを使って漬けたので、移動も楽だ。
「色を赤くしたい人は、塩揉みした赤紫蘇を加えると良いんだけど、手に入らなければ、乾燥ローゼルでも良いです。水分が出てから加えます。食べ口を優しくしたい場合は、糖分も加えます。一緒に塩の倍くらい足してください」
「ユリ、バタフライピーを足したら、青いカリカリ梅になるにゃ?」
「残念ながら青くはなりません。でも、赤紫っぽくはなるかもしれないわね。試した事がないから正確には判らないわ」
ユメは、バタフライピーを足してみたいらしい。
「ユリ、なんで卵の殻を加えるの?」
「梅の水分が出ると、その酸で梅のペクチンを柔らかくしてしまうのを、卵の殻を加えることで、ペクチン酸カルシウムとか言うのになって、柔らかくなるのを防ぐんだったかな? 貝殻でも良いらしいけど」
「成る程な」
ソウは、成分的に気になったらしい。
「では皆さん、袋に名前を書いて、涼しい場所か、冷蔵庫に入れてください。1か月くらいで出来上がります。色を染めたい人は、水分が出てから足してください」
ユメとキボウは冷蔵庫に入れずに、冬箱に入れて時送りをしていた。
「ユリ、食べてみても良いにゃ?」
「時送りしたの? 私にも1粒貰える?」
ユメとキボウは、その場の全員に配ってくれた。ユメは塩だけで、キボウは砂糖入りだ。
「これ、食べたこと有るにゃ!!」
「あら食べたこと有るのね」
「なんか、思い出したにゃ。屋敷の調理人が、どうやっても柔らかくなるって言って悩んでいたはずにゃ!」
それはきっと、カルシウムを加えていないから。
「ユリ様、ありがとうございましたー!」
ユメとキボウから試食を貰ったベルフルール組は、全員が砂糖を足してから、走って戻っていった。
「嵐のようだったな」
「火曜か金曜まで待って、梅が柔らかくなったらカリカリ梅作れなくなっちゃうし、しょうがないわよね?」
ユメとソウは、鞄に入れておけば良かったのでは? と思ったが、あえて指摘しなかった。残りの小梅は、ユリが2つの漬け物樽を使い、砂糖入りのカリカリ梅になるよう漬け込んだ。小梅は、約24kgあったらしい。樽に丁度10kgずつだった。




