噂話
謹賀新年
「あの、今来ていたのは、コニファーさんですよね?」
「そうよ。シィスルちゃん、どうかしたの?」
倉庫側から来たので、荷馬車を見かけたのだろう。
「何があったと言うわけではないんですが、マリーの事を見て、『ああ、あの子が、マリーちゃんか』って、なんか意味ありげな会話をしていましたので、なんだろうと思いまして」
「コニファーの皆さんと、こちらで特に、マリーゴールドちゃんの事を噂したりはしていないわよ?」
「そうですよね。なんだったんだろう」
不安げなマリーゴールドに、ユリが尋ねる。
「マリーゴールドちゃんは、思い当たることはある?」
「特にございませんので、私も思い当たらないのでございます」
「何か不安があったら相談してね」
「ありがとう存じます」
話を聞いていたソウが、意見を述べる。
「それって、誰かがマリーゴールドに惚れたとかそう言う話なんじゃないのか?」
「あー、マリーゴールドちゃんが貴族の御令嬢って事を知らない人から見たら、物凄く奥ゆかしい美人さんにしか見えないわね。でも、マリーゴールドちゃんが納得できない相手とは、相手に権力があったとしても認めないわよ。うふふ」
「ユリが認めなかったら、誰も逆らえないよ」
強力すぎる味方に、マリーゴールドがやっと笑顔になった。
「さあさあ、お昼ごはんの用意を始めましょう」
「手伝います」「お手伝いいたします」
シィスルとマリーゴールドが手伝ってくれるらしい。
「メリッサさん、もう一度作る?」
「先ほどと同じくらいの量なら作れます」
「では、それでお願いします。シィスルちゃん、マリーゴールドちゃん、ホワイトソースは作れるわよね? ベーコンとホウレン草入りのホワイトソースを作ります。スパゲッティのソースです」
「はい」「かしこまりました」
メリッサの事は、麺の用意をしながらリラが見てくれるようなので、ユリは、シィスルとマリーゴールドに指示を出しながら6人前のソースを作り、11人前と、半人前2つを作り上げた。
「スープ飲みたい人は、飲んで良いわよ。デザートは、イチゴとサクランボのショートケーキがあるわ。スパゲッティのおかわりは、同じものの半人前か、ミートソースの店売りを食べて良いわよ」
クリームソースのスパゲッティは、メリッサとイポミアに大好評だった。その他の皆は、柔らかいグラタンみたいだと感想を漏らしていた。
「グラタンより、熱くなくて食べやすいにゃ」
「おいしー! おいしー!」
緑色の食材とベーコンが入っているため、キボウは大満足だったらしい。
イチゴとサクランボのショートケーキも、皆喜んで食べていた。ユメとキボウは城でも食べたが、形が違うと味が違う!? とユメは考えながら食べているようだった。
シートスポンジの方が、丸く焼いたスポンジより軽いので、その違いだと思われる。
食べ終わり休憩に入ると、人がいないことを確認したソウが、少し深刻な顔で近づいてきた。
「ユリ、ちょっと話がある」
「ここで話せない話?」
「俺の部屋で話そう」
「わかったわ」
なんだろうと思い、ユリはついていった。
部屋に入ると、ユリに椅子をすすめ、ソウは向かいのベッドの方へ座った。
「どうかしたの?」
「城にケーキを届けたときに、ユメとキボウに会ったんだけど、そのとき言われた。ユメ、転移できなくなったらしい」
「え!? どういうこと?」
いきなりの報告に、理解が追い付かない。
「キボウの説明によると、得意魔法ではない魔法は、習得したときの記憶がなくなると、習得も無効になるらしい」
「そうなの!?」
「ユメの、ルレーブだった頃の記憶が、一部なくなったんじゃないかと思う。世界樹の森で全ての前世を思い出したって、前に話していたことがあるから、今のユメの記憶は、昨年の11月を失っている途中なんじゃないかと思う」
ユリは絶句してしまい、ソウも何と声をかけるべきかと迷っていた。そこへ、窓の外からユメとキボウの声が聞こえ、意識が窓へ行った。
「大丈夫なのにゃ!?」
「だいじょぶ、だいじょぶー」
明るいキボウの声に、平静を取り戻した。
「ユメちゃんとキボウ君を、手伝いに行きましよう」
「そうだな」
二人で畑に行くと、枯れかけたチューリップの鉢を持ったユメが、頑張って移動させているところだった。
「それ、移動させるのか?」
「雨がかからない場所に、このまま移動らしいにゃ」
「手伝うわ」「手伝うよ」
何しろ、チューリップの鉢は大量にある。ユメ一人では大変だ。キボウはその他の植物の面倒を見ていて、戦力にはならない。
倉庫の植物用の支柱などをしまっていた辺りにある、棚に鉢を並べた。ユメでは届かない高い段にはソウが並べ、120鉢のチューリップ全てを移動させた。
「二人とも、ありがとにゃ!」
「面倒見ろとは言ったけど、こういう大変なのは頼れよな」
「わかったにゃ」
ユメはニコニコとして嬉しそうだった。
「休憩するにゃ?」
「外おやつ用に出すものを出してからね」
「手伝うにゃ」
「手伝うよ」
「てつだうー、てつだうー」
植物の世話が終わったらしいキボウも合流した。
店で出るであろう数を引いた巻巻と、ショートケーキの耳をいれたココットと、朝作ったクルミ餅をカットし、1枚半分を外おやつ用に出してきた。お茶は、温かい方がほうじ茶で、冷たい方にはバタフライピーの冷茶を出した。
「ハナノ様、いつもありがとうございます」
「今日は、同じものが揃わないので、好きなものを食べてくださいね」
「ありがとうございます」
「何か要望やリクエストが有ったら、教えてくださいね」
「はい」
残り時間はしっかり休憩した。
昼休みあけ、昨日よりは客側も落ち着き、もめる者もおらず、午後は平和に過ぎていった。
今年もよろしくお願い致します。




