巻巻
スパゲッティミートソースのお代わりをしたのは、キボウとイポミアだけだった。イポミアは自分で作ると言い、キボウの分は、マリーゴールドが作ってくれた。冷製スープは全員が半量ずつ双方飲み、ユメがスープのお代わりに行こうか迷っているので、ユリが声をかけた。
「ユメちゃん、ソウが貰ってきたサクランボがあるわよ」
「食べるにゃ」
「たべる、たべるー!!」
ユメよりも、キボウが強く反応し、ソウが笑っていた。全員に2種類を2粒ずつの合計4粒配り、ユリは、佐藤錦を16粒とアメリカンチェリーを大量に残し、指輪を鞄に変え、そっとしまった。
「ユリ様、食べずに持ち帰っても良いですか?」
「構いませんよ。名前を書いた袋に入れてから冷蔵庫に保存してくださいね」
メリッサとイポミアは、全く食べずに持ち帰るらしい。
「ユリ、残りのサクランボはどうするのにゃ?」
「明日、ユメちゃんとキボウ君が持っていくケーキにしようと思っているわ」
「ありがとにゃ!」
「けーきー?」
「以前キボウ君と約束した、イチゴとサクランボのケーキを作る予定です」
「ユリ! ありがとー!!」
キボウは嬉しかったのか、イチゴとサクランボの歌を歌い出した。すると、ソウがそっとユリに尋ねた。
「ユリ、苺どうするの? もう、売ってなかったよ?」
「うふふ。鞄に有るわよ」
「さすがユリ」
魔道具の鞄に入れておけば、1年間入れても5分15秒程度しか経過しない。時間の進み方が10万分の1なのだ。
全員が休憩に入り、ユリは外おやつ用の巻巻を3種類出し、「食べたあとの巻き紙は、美味しかったと思う箱に入れてください」と書いた紙を貼り、白、茶、緑の3種類の箱を置いた。そして帰ろうと思ったら、待っている人に声をかけられた。
「あの、ハナノ様、恐らく全部美味しいと思うのですが、」
少し困った風に、その後の言葉を濁している。
「全部美味しかった人は、均等に1枚ずつ紙を入れて、順番をつけたい人は、2枚、1枚、0枚と分けて、1つだけ美味しかった人は、そこに3枚とも入れると良いですよ」
「かしこまりました。良く味わいたいと思います」
尚、このおやつの名前「巻巻」は、作っていたリラがつけたらしい。ユメから報告を受けた。
「ユリ、このお茶は外用だよね?」
ソウが、厨房に用意だけしてあったお茶を持ってきてくれた。外のお茶は冷茶と熱いお茶の2種類を出している。ウォータージャグにソウが持ってきた麦茶をセットし、夏板にはほうじ茶のヤカンを置いた。
ユリとソウがその場を退くと、待っていた人が、わらわらとおやつに群がっていた。
「ハナノ様! とても美味しそうに見えますが、あちらのお菓子は、販売をされていますか?」
入り口がわにいた貴族と思わしき男性から声をかけられた。
「まだ試作段階なので販売はしていませんが、食べてみたいならお店でお出ししますので、声をかけてください」
「ありがとうございます!」
明日分の予備があるので、店で出しても何とかなるだろうとユリは考えていた。
その後、バタフライピーを収穫しようと畑に回り、驚いた。
花が、昨日よりもさらに多く咲いていたのだ。そして、キボウとユメもいた。いつも通り、世話をしてくれているらしい。
「ユリ来たのにゃ」
「きたー、きたー」
「花、凄いわね! いくつくらい咲いているのかしら!」
「さっき数えたけどにゃ。数える度に数が違うのにゃ。恐らく30個前後にゃ」
「凄いな。最盛期には、一株からいくつくらい咲くんだろうな」
「想像もつかないわね」
キボウに花を収穫して貰い、花を干すことにした。
「ユリ、今日は少し風があるから、外に干すと飛んでいかないか?」
「なら、干し網を使いましょう」
いつもは大きなザルの上に干しているが、干物や乾燥野菜を作るための、吊り下げるタイプの3段の干し籠を倉庫から出してきた。
「これになら、何を干しても飛ばないわ」
「どうやって使うのにゃ?」
「そこのジッパーを開けて」
「チャックを開けるのにゃ?」
「ファスナーじゃないのか? スライドファスナー」
「なーにー?」
「この開閉が出来る留め具の名前よ」
「fermeture à glissièreだな」
「それ、何語?」
「フランス語」
「長すぎて覚えられないのにゃ。日本語が良いのにゃ」
ソウはロシア語も語ろうと思ったのだが、食い付きが悪いので取り止めた。ロシア語はзастежка-молнияで、ニャがつくこれを本来は話したかったようだ。
ちなみに、「チャック」は日本語らしい。




