三角
ユリは、配合を渡してリラに量ってもらっておいた材料を、調理し始めた。
「ユリ御姉様、ココアの作り方を教えていただけませんか?」
「カエンちゃん、ココアも作ってくれるの?」
「はい!」
ユリがカエンにココアの作り方を説明すると、ソウと葉も、作り方を教わりたいと見に来た。
「ココアと砂糖を混ぜたものを、少量のお湯でしっかり練ってから、牛乳で伸ばしていくだけよ」
「他で飲むココアと、味が違うように感じるのはなぜでしょうか?」
「ココアパウダーの、ココアバターの含有率がメーカーによって違うから、飲んだときに感じるコクが違うんだと思うわ」
「成分の違いなのですか!?」
「恐らく」
カエンが飲みたいのではなく、葉がココアを好きらしく、カエンは美味しいココアの作り方を覚えたかったようだ。
「カエンちゃん、練習するなら、みんなの分を作ってみたら良いわ」
「はい」
リラがかかりきりの作業をしているので、お店の注文はユリが作ることになる。午前中と違い、軽食やスープなどがたくさん注文され、マーレイも手伝いどんどん出していく。グラタンとピザトーストユメスペシャルは、マーレイが焼いてくれるので、ユリは、ホットドッグの注文があると、鞄から出し対応している。
ユリは、途中にしていた調理を再開し、茶色い粘るものを鍋で作っていた。
「ユリ様、それ、何ですか?」
「ココア味の求肥よ。外おやつに実験的に出します」
カエンがココアを作ったことにより、キボウは厨房にいてココアを飲んでいた。
「ユリー、いちじかーん?」
「キボウ君、時送りしてくれるの?」
「いーよー」
「もうひとつ作るけど、どっちも1日お願いできる?」
「わかったー」
ユリは、抹茶を混ぜた求肥も作り、キボウに時送りをしてもらってから、それらをカットした。
「リラちゃん、同じ手順で、この2種類も作ってくれる?」
「はい! 味見して良いですか?」
「どうぞ。みんなの味見分も作ってね」
リラは先に皆の味見分を2種類作ってから、ココアだけ作り始めた。
「リラー」
「ユリ様に相談してみますね」
キボウがリラに何か頼んだらしい。リラは少し考えた後、ユリに相談すると答えていた。キボウが笑顔で店に行ったので、何だったのだろうとユリが思っていると、リラから相談された。
「ユリ様、抹茶の方、最後に少し違う形のものを作っても良いですか?」
「良いわよ。それ、キボウ君の注文?」
「はい」
「他に使う材料があったら揃えるから言ってね」
「はい」
それから少し時間が経ち、リラは抹茶求肥の残りを見ながら焼いているようだった。
求肥がラスト4つになったとき、二等辺三角形を縦に3つ繋げたような、恐らく木の形の皮を4つ焼き始めた。器用に同じくらいの大きさの木を4つ作っている。何が器用って、一つを作って次を作るのではなく、細く垂らして四角を作り、その中を生地で埋めるのをまず4つ作り、少し離れた場所に同じ作り方で三角を4か所作り、だんだん下がるようにして、最後に四角と繋がる場所の3段目の三角を作ったのだ。
「ユリ、リラは何やってんの?」
「キボウ君の注文で、木の形の若鮎を作るために、色味が分かるように焼いているんだと思うわ」
「リラ、さすがだなぁ」
「本当、凄いわよね」
焼けた皮をひっくり返すと、焼き色のグラデーションができていた。それに求肥を2つずつ挟み、2組の木の形のお菓子を作り上げた。
「リラちゃん、凄いわね」
「あはは。こんな感じでキボウ君喜んでくれますかね」
「キボウ君、大喜びだと思うわ」
名前を呼ぶとキボウは現れる。
「キボー、きたー」
「キボウ君、出来ましたよ」
「リラー、ありがとー!」
皆の予想通り、キボウは大喜びだった。
ふと、キボウが消え、リラは驚いたみたいだったけれど、ユリは、キボウは世界樹の森に行ったのだろうと考え、慌てることなく夕飯の支度を始めた。
閉店20分前のラストオーダーの後、メリッサが報告に来た。
「ユリ様、若鮎、先程売りきれました。ミルクゼリー、少し残っています。バラジャムのせは売りきれそうです」
「あら、ちょうど良い感じね」
「バラジャムのせ、売り切れました!」
イポミアが、売り切れを知らせに来た。
絶対に売れ残る量を用意したはずが、朝から営業することになり、結果ほぼ売り切れた。
「ユリ様、女性優遇の日は、又開催しますか?」
「評判が良いならするわよ」
「是非お願いします! 今日来られなかったお客様から、頼まれました」
「そうすると、あなたたちの出勤日が増えるわよ?」
「私たちは、休みすぎなくらいなので、問題有りません!」
「あ、一応言っておくけど、普段も、女性やお子さん大歓迎だからね」
「はい。聞かれたときは説明しています」
こうして、「女性もしくは未成年者を伴わないと入れない日」は大成功に終わったのだった。
尚、ラベンダーは、最後まで居座り、いや、手伝い、ソウとキボウが家に送っていった。




