猫焼
今日は6月1日Wの日。
誰も来なかったらどうしよう。と、ひっそり考えていたが、朝食前の7時過ぎには誰も居なかったのに、8時前には、行列が並んでいた。
先頭に居るのはメリッサの、母イーオンと娘シーミオだ。その後に続く人も、栗や芋を持ち込んだときに居た奥さんたちや、近隣で見かける人たちだ。20人くらい後に、出入り業者のご夫婦らしき二人組や、家族連れが並んでいて、その後ろに、列を見て呆然としている貴族らしい身なりの二人組や、子連れの家族らしい団体がいた。距離の勝利のようだ。全員で50人を越える。
「ユリ様、おはようございます!」
メリッサが走ってやってきた。娘と一緒に来ていたらしい。
「おはようメリッサさん。皆さん、早いの、ね。えーと、何時から開店したら良いのかしら?」
「こんなことだろうと思って、早く来ました! 有るもので開店できるなら、お店開けませんか?」
「あ、うん、そうね。昼過ぎまで並ぶのは大変よね」
メリッサと話すユリの後ろから声がした。
「やっぱりか! あ、ユリ様、おはようございます!」
「リラちゃんも早いのね。って、あなた、今日は休みでしょう?」
「ベルフルールは休みですよ?」
「まさか、うち、手伝うの?」
「まさかなんて、当然手伝います!」
「あ、うん、お願いするわ」
リラと口論しても勝てそうにないので、ユリは早々に諦めた。
「あー、もうみんな居る! 皆さんおはようございます!」
「イポミアさんも、おはよう」
「みんな来たのにゃ?」
「ユメちゃん、お店開けようと思うわ」
「私はキボウと出掛けて帰ってきてから手伝うにゃ」
「無理しなくて良いわ。猫の焼印がある方を50個持っていって良いわよ」
「ユリ、ありがとにゃ」
ユリは、並んでいる客たちに、軽く挨拶をすることにした。
「皆さん、お越しくださりありがとうございます。まもなく開店致しますので、少々お待ちください」
凄い歓声が上がった。
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お持ち帰り専用
女神の慈愛・パウンドケーキ 1本5万☆(フル)
女神の慈愛・パウンドケーキ 1枚5000☆(フル)
時送り・世界樹様のクッキー 1枚2000☆(素早さ)
店内、お持ち帰り兼用
若鮎 1匹500☆(6)(限定500匹)
ミルクゼリー 1個300☆(4)(限定300個)
ミルクゼリーバラジャム仕上げ 1個400☆(6)(限定300個)
世界樹様のクッキー 1枚500☆(11)
黒猫クッキー 1枚500☆(11)
飲み物
イチゴミルク 1杯500☆(4)
ジンジャーエール 1杯500☆(9)
ミルクココア 1杯500☆(4)(温)
アイスココア 1杯500☆(4)
バタフライピーティー 1杯500☆(1~4)(温)
サファイアソーダ 1杯500☆(4)
サファイアクリームソーダ 1杯1000☆(4)
チェンジカラーシロップ 1杯50☆(4)
軽食
グラタン 1皿500☆(3)
ビシソワーズ (冷たいスープ) 1皿500☆(4)
ホットドッグ 1皿500☆(4)
ピザトーストユメスペシャル 1皿500☆(5)
セットほうじ茶・冷茶 無料(1)
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外のイーゼルにメニューをのせた。
「ユリ御姉様、何からお手伝い致しましょうか?」
「カエンちゃん、こんな時間から良いの?」
「勿論でございます」
「注文が入ったら、作れる飲み物をお願いします」
「かしこまりました」
「ユリ姉上様、僕も何かお手伝いしたいです」
「葉君は、カエンちゃんと一緒に飲み物をお願いします」
「はい!」
葉は自己紹介を皆にしてから手伝い始めた。
「ユリ様、私は何をして良いですか?」
「あなたは残業扱いで、好きな仕事をしてください」
質問が、仕事をするのが大前提で聞いてくる辺りが、さすがリラだ。
体裁を整え、お店を開店させた。時間はまだ 8時30分だった。
店内の椅子は子供には低すぎるので、厨房でたまに使うパイプ椅子を持ち込み、家族が一緒に座れるようにした。そのため、最初の客数は20人だ。その全員がご近所さんである。
オーダーのうち、ミルクココアとアイスココアは、ユリかリラしか作れないのでリラが作り、その他の飲み物は、メリッサとイポミアが作って出していた。
ユリは、予定の仕事を開始し、クッキーや、明日分の若鮎の代わりのお菓子を仕込むのだった。
今居る客は、昼まで並ぶ気で朝食をしっかり食べてきたようで、食事ものはあまり出なかったが、店内全員近所の住民で、並んでいた近所の住民は全員入りきったと言うので、帰りには、メリッサとイポミアにお土産を配ってもらった。お土産は、全員にホットドッグを一つずつだ。
「ユリ様、外おやつを出してきました。それで、黒猫の焼印のお菓子は、名前はどうされるのですか?」
「名前ねぇ。どうしようかしら」
リラから質問されたが、ユリは考えていなかった。
「決まっていないのですか?」
「そもそも、外おやつの予定だったからね」
「なら、私がつけて良いですか?」
「良いわよ。何か良い名前があるの?」
「ミャオウ焼き! どうですか?」
「え? 何て言ったの?」
「猫の鳴き声です」
全員に話が聞こえていた。葉がカエンに言ったのだ。
「姉上、にゃんこの鳴き声は、国によって違うんですね」
「そうね。鶏も、コケコッコーが、クックドゥドゥルドゥーよね」
葉とカエンの話にリラが興味をもった。
「あの、葉様、『にゃんこ』とは、猫の事ですか?」
「猫の事です。多分、幼児語です」
「可愛い言い方で、響きが素敵ですね! ユリ様、『にゃんこ焼き』にしましょう!」
「皆がそれで良いなら、私は構わないわ」
特に反対意見もなく、「にゃんこ焼き」に決まった。
「遅くなり、大変申し訳ございません!」
イリスが、9時過ぎに慌てて出勤してきた。どうやら食べて帰った住人から、すでに開店させていると聞いたらしい。
「イリスさん、遅くないわ。並んでいる人が気の毒なんで、早く開けたのよ。お家の事まだ残っているようなら、昼長めに休んでも構わないわよ」
「ありがとうございます。10時頃には来る予定でしたので、家事は終わっています」
「無理の無い程度にお願いしますね」
「かしこまりました」
イリスに慌てさせてしまったようで、ユリは少し申し訳なく思った。
カエンと葉が、楽しそうにクッキーを作っている横で、ユリとリラは明日分のにゃんこ焼きを量産していた。求肥は昨日のうちに仕込んでおいて良かったと、ユリは改めて思っていた。
9時30分を過ぎた頃、かなり疲れた感じのユメが、上機嫌のキボウと一緒に戻ってきた。
「ただいまにゃぁぁー」
「ただいま、ただいまー」
「ユメちゃん、キボウ君、お帰りなさい。ユメちゃん少し休んできて?」
「にゃ? にゃー。ありがとにゃ。少し休んでくるにゃ」
キボウはすぐに、クッキー作りに参加していた。




