魚型
明日から6月になる。
Wの日で、本来ならお店はお休みだが、以前より考えていた「女性もしくは未成年者を伴わないと入れない日」というのを行ってみることにしたのだ。5月の中旬から予告を出していたので、問題もないだろうと思われる。ちなみにこの国における未成年者は、数え年の16歳未満だ。ただし、16歳になる年のはじめから大人と扱われる。これは、誕生日を個別に祝うようになったのが最近なこともあり、年初に加齢は昔からの風習なのだ。
今日は、明日のための販売品を作る予定だ。
「ユリ様、結局、何を作るんですか?」
「明日は、牛乳の日、鮎釣り解禁の日、ということなので、若鮎と、ミルクゼリーを作ります」
「あー、若鮎って、魚型の焼き菓子ですよね! ラベンダー様から教わりました」
「へぇ、そうなのね。そういえば、アルストロメリア会で教えたわぁ」
「ミルクゼリーは、昔食べたのと同じですか?」
「以前食べたのはミカンが入っていたのよね? 今回は、バラジャムをのせたバージョンも作ります」
「あ、女性向け!」
「そのとおりです」
「何から行きますか?」
「求肥の計量から。仕込む前に、皮の計量と仕込みね」
ユリは、ミルクゼリーの計量を、器を洗っていたメリッサと先程出勤してきたイポミアに頼み、計量が終わると、ゼリーの仕込みも任せた。
ユリとリラは、求肥を大量に作り、ユリが魔法で冷却し、カットはマーレイに任せた。若鮎の皮の生地の仕込みの最後の調整をし、ガスの上の銅の鉄板と強化夏板を複数台使い、若鮎の皮を焼いていった。
ミルクゼリーは、液を分ける前まで作ってもらい、あまり冷やさずに、そのままにしてもらっておいた。
「1人が求肥の粉を刷毛で払う係、1人が出来た若鮎に紙を挟む係でお願いします」
ユリとリラが焼いている若鮎だが、そのまま置いておくと、皮が隣の若鮎とくっついてしまうのだ。そのため、オーブンシートに分けるように簡単に挟み、トレーに並べていく。
イリスが出勤してきたので、ユリは若鮎をひとつ仕上げて見せ、イリスに聞いた。
「イリスさん、これが出来上がりなんだけど、細工頼める?」
「はい! 私がして良いんですか?」
「お願いします」
イリスに金串を渡し、焼き目の細工を頼んだ。金串は何本かを焼きながら順番に使っていく。川魚を食べたことがなくても、見たことはあるらしく、綺麗に仕上げていた。
「ただいまにゃ!」
「ただいま、ただいまー」
「何手伝うにゃ?」
「イリスさんのところで、出来上がった若鮎を、番重に並べてもらえる?」
「わかったにゃ」
ユメが綺麗に詰め、キボウは番重を運んだり入れ換えたりして手伝ってくれている。
ユリとリラは物凄いスピードで若鮎の皮を焼いていた。左手に軍手をはめ、焼き上がった皮に求肥を挟んでいく。全ての求肥を切り終わったマーレイにも、イリス同様、焼き目の細工を頼んだ。
シィスルとマリーゴールドがやって来た。
「ユリ様、焼いてみたいです」
「私もお願い致します」
ユリとリラが場所を譲り、少し指導した後、シィスルとマリーゴールドが若鮎の皮を焼き始めた。その間、ユリとリラは、ミルクゼリーをミカンが入っているココットに流し入れた。
「ユリ、蓋はどうするにゃ?」
「蓋は閉めないで、番重を斜に重ねておいてください」
しっかり冷めてからでないと、よりくっついてしまう。
ユリとリラは、ミルクゼリーを冷蔵庫に全てしまい、シィスルとマリーゴールドと交代した。この後二人は、イリスとマーレイにも交代を頼んで、焼き目の細工も体験していた。
「ユリ様、求肥の粉、全部落としました。次何しますか?」
「少し休んで良いわよ」
イポミアに休んで良いと言ったのに、メリッサだけが仕事を続けている状態なのが気になったのか、イポミアはメリッサを手伝っていた。
「リラちゃん、いくつ出来た?」
「200は越えました、220~230くらいです」
「私が270は焼いているからそろそろ良いわね。メリッサさん、イポミアさん、作ってみるならどうぞ。自分用だから、仕上げまでやってみたら良いわ。イリスさんとマーレイさんも焼いてみるなら、リラちゃんと変わってね」
ユリとリラは、今焼いている皮を焼き上げてから軍手を外し、リラは少し焼き目の仕上げを試してみた後、休憩していた。
ユリは昼食作りを始め、リラが手伝いに来た頃、ユメとキボウも若鮎を自分達で作ってみていた。イポミアから場所を譲られたユメが、焼きながらイポミアと話している。
「お菓子の魚って面白いにゃ」
「ユメちゃんも初めてなんですか?」
「昔見たこと有るにゃ」
ユメの言葉にユリは、あれ?っと思った。
「でも、食べたことはなかったにゃ」
「そうなんですね」
やっぱり覚えている訳ではないのかと、ユリは少しだけがっかりした。9月の記憶が怪しいと今月の始めに話したのに、6月や7月の事を覚えているはずがない。
帰ろうとしたシィスルとマリーゴールドを呼び止めた。
「あら、ご飯は食べていかないの? それと作った若鮎も持っていって良いわよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう存じます」
模様の仕上げがまだ終わっていない若鮎を100個くらい残し、皆でお昼ごはんを食べることにした。12時より少し早い。
「ユリ様、ホシミ様を待たれないのですか?」
「今日ソウは、カエンちゃんの所に呼ばれているから、向こうで食べてくるらしいわ」
「カエン様は、もう来られないのですか?」
「カエンちゃんに用があるの? 明日の夜なら来ると思うわよ」
「あ、いえ、用があるわけではないんですが、お元気かなぁって思って」
そんな風にカエンの話をしていると、ソウはカエンと葉を連れて戻ってきた。
「ただいまー」
「ユリ御姉様、お邪魔いたします」
「ユリ姉上様、お邪魔します」




