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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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文盲

1番にメリッサが来て、2番目にマヨネーズを作る2人が来て、3番目にイポミアとベルフルールから今日の担当が来て、イリスが来て、納品にマーレイが来て、遅くてもこのくらいの時間までにユメとキボウが戻ってきて、大体一日が始まる。


今日は、薔薇園を見に行った翌日。

リナーリが、イポミアと一緒に少し早目に出勤してきた。


「ユリ様、おはようございます。これ、頼まれていた折りバラです」

「リナーリちゃん、おはよう。折りバラありがとうね。随分と頑張って折ったのね」


折りバラは全てユメが管理しているが、今居ないので、ユリが受け取った。花が15個有る。


「イポミアさん、エプロンを貸してくれる?」

「はい。休憩室から持ってきました」


以前はユリが全部洗っていたが、今は各自が洗い、予備を休憩室に置いていて、汚れの落ちないものだけユリが洗い直したりしている。


出掛ける前のソウに頼み、リナーリを厨房に出入りできるようにしてもらった。


「ユリ様、薔薇はいつ加工しますか?」


マヨネーズを作りながら、リラに質問された。


「リラちゃんが見たいなら、明日にするわよ?」

「では、絶対明日でお願いします」


横にいたマリーゴールドが少し笑っていた。

シィスルが出勤してきて、今日の予定を尋ねてきた。


「そこのメモに有るわ。今日から見習いをすることになったリナーリちゃんよ。先輩として面倒見てちょうだいね」

「はい。では、計量からいきます」


ユリは、メリッサやイポミアに指示を出しながら、雑務を頼んでいた。少しすると、シィスルがユリのもとに来て、小声で話しかけてきた。


「ユリ様、彼女、文盲(もんもう)です。文字を教えますか?」

「え?」


ユリは、この国の識字率(しきじりつ)があまり高くないと知ってはいたが、ちゃんと理解していなかった。今まで接したほとんどの人が文字を読め、計算が出来たから、確認を怠ったのだ。よく考えれば、アルストロメリア会で泊まり込んだ時、各人の札が名前の文字ではなく、名前の花の絵だったことを思い出した。


「シィスルちゃんは、いつどこで覚えたの?」

「家が商売をしていますので、幼い頃より、読み書き計算は教えられました」

「あなたが文字を教えながらで仕事になる?」

「少し厳しいかもしれません」


マヨネーズを仕込み終わり、帰ろうとしていたリラが、ヒソヒソと話し込んでいるユリとシィスルを不思議に思ったのか、近づいてきた。


「シィス、どうかしたの?」

「リナーリちゃん、一切文字が読めないみたいです」

「え? そうなの?」


どうやらリラも把握していなかったらしい。

ユリは困った。ユリが文字を教えるわけにはいかないからだ。計算や九九は良いが、文字だけはこの国の人が教えないと、何らかのズレが起こる恐れがある。ソウとユメは、双方読み書き出来るようだが、ユリには出来ない。


リラが、イポミアを呼んできた。イポミアに確認すると、自己申告では、おおよそ読めるようになったと聞いていたそうだ。なので、直訴を止めなかったらしい。


「リナーリちゃん、指示書や配合の記載は読める?」

「ユリ様ごめんなさい。じつは全く読めません」


数字や計算も少し怪しいらしい。文字はともかく、数字の理解が出来ないのは大変困る。それ量っておいて。とすら言えないのだ。


「リナーリ、しばらくうちに来て仕事することにしない?」

「リラ(ねえ)のお店?」

「うん。それなら私もいるし、シィスとマリーが教えられると思うよ」

「リラ姉は、私が読み書き計算が出来なくても良いの?」

「ずっと出来ないのは困るけど、二人がかりで教えられるから、問題ないと思うよ」

「わかった。リラ姉お願いします。ユリ様、迷惑をかけてごめんなさい」


丸く収まりそうな流れだった。


「ユリ様、大変申し訳ございませんでした。この責は私が負いますので、どうか妹の事はお許しいただけないでしょうか」


イポミアが、厨房で土下座して謝っていた。


ああ、そうか。私、偉い人だった。

ユリは自身の立場を思い出した。ユリの認識では、単なる自分の確認不足なのだが、この状況的には、嘘の履歴や経歴で王族を騙したことになる。


どうしたら丸く収まるかなぁと、ユリは考えていた。


「お姉ちゃん、なんで、」

「リナーリ、ミア姉が謝っているの、何故だかわからないの?」


リラが、リナーリに尋ねた。


「私が文字を読めないから?」

「違うよ。読めないことで、誰も責めたり怒ったりはしないよ。嘘を言って、人を騙したことが罪なんだよ。ユリ様はおそらくなにも咎めないと思うけど、他の貴族に同じことをしたら、打ち首になるんだよ」

「え・・・。ユリ様、ごめんなさい。お姉ちゃんは知らなかったんです。私が読めるって言ったんです。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


リナーリは泣き出した。ユリはイポミアを立たせ、リナーリに話しかけた。


「私は誰も咎めるつもりはないし、むしろ私の確認不足と考えているわ。それでね、私は文字を教えられないのよ。この国で生まれた訳じゃないからね。だから、私から教わってしまうと、この国にかかっている翻訳の魔法が切れることがあったとき、誰とも言葉が伝わらなくなってしまう可能性があるのよ」


全員が驚いたようにこちらを見た。


「リラちゃん、頼んで良いの?」

「はい。私は構いません」

「リナーリちゃん、リラちゃんのお店にいく?」

「はい。ユリ様ごめんなさい。お姉ちゃんごめんなさい」

「ユリ様、私が責任をもって預かります!」

「よろしくお願いするわね」


リナーリは、ベルフルールへ戻るリラとマリーゴールドに連れられていった。


「ユリ様、寛大なご配慮、」

「あー、私は怒ってないし、もう良いのよ。それより、きっと落ち込んだりすると思うから、私は怒ってないと帰ってから伝えてね」

「かしこまりました。ユリ様、どうもありがとうございます」


シィスルとメリッサが、ほっと胸を撫でおろしているのが見てとれた。


少しして、城から戻ってきたユメが、リナーリが居ないことを驚いていた。

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