食用
リナーリも戻ってきて、皆でお昼ごはんを食べることになった。
「端から、ツナマヨが2列、鶏そぼろ、昆布の佃煮、新生姜の佃煮、おかか、ローゼルの塩漬けよ。食べられそうなものだけ食べると良いわ。海苔もあるわよ。それから、おかずは、鶏肉のチューリップ揚げ、アスパラと豚バラ肉の串揚げ、それと甘い卵焼きがあるわ」
箸とおしぼりと取り皿を渡し、箸が使えない人のために、トングとフォークも出しておいた。
一般的なおにぎりの半分の量のミニおにぎりなので、全種類食べても、3個分程度だ。
「ユリたま! おいちーでつ!」
「シーミオちゃん、良かったわね」
シーミオは、鶏肉のチューリップ揚げを食べながら反対の手にはアスパラと豚バラ肉の串揚げを持って、はしゃいでいた。
「あ、あの、ユリ様」
「はい。リナーリちゃん、どうしたの?」
「私も働きたいです!」
突然の申し出にユリは驚いた。身長130cm程のリナーリは、ユリから見て10歳くらいに見えている。
「えーと、リナーリちゃんは、今何歳なの?」
「12歳です」
ユリはリラの方を見た。
「私は、13歳でした」
ユリが聞こうと思ったことを察したらしいリラが答えた。
当時のリラは、身長はユリとそれほど変わらなかったし、ユリが十代後半と勘違いするくらいしっかりしていて堂々としていたのもあって、ひょろっとしてあまりしゃべらない小柄なリナーリは、実年齢よりも幼く見えていた。
「イポミアさん、リナーリちゃんが働くのは、どうなの?」
「リナーリは、市場のお手伝いはしているようですが、どこかに雇われているわけではないので、特に問題はありません」
ユリは少し考えた。
「リナーリちゃんの希望は、お店? それとも厨房?」
「選べるのなら、お料理を作るのが良いです」
「なら、まずは見習いで、9:30~18:30で、明日働いてみる?」
「はい!」
折りバラが作れることで、器用なのは分かるが、仕事に向いているかどうかはまた別である。
「食べ終わったら次行くぞー」
ソウが声をかけた。するとキボウがソウに話しかけ、二人で消えた。予想通り、キボウだけ戻ってきてリラに抱っこして貰い、全員がリラにつかまり、キボウは転移した。
「うわ!良い香り!」
「ダマスクローズだと思うよ」
「一面の薔薇ね!」
「興味はないかもしれないけどさ、香水工房に見学に行くよ」
ソウの遠回しの言い方に疑問を持った。
「ダマスクローズの香水工房、興味有るわよ?」
「そうなの? 先週、ライラックは興味無さそうだったから」
「あれはごめんなさい。食用が有るかどうか気になってしまって。うふふ」
「ダマスクローズは気にならないの?」
「確実に有るはずだもの」
ユリは確証が有ったのだ。アイスクリームを教えたときに、バラジャムが大絶賛されたし、ダマスクローズと言えば、香水の他、ローズウォーターを作っているはずなのである。つまり、食用花だ。
「楽しみだわぁ」
「ユリ様、ジャム有りますかね?」
「有ると思うのよね」
ソウの案内について行くと、バラを蒸留している工房に連れてきてくれた。摘み取ったらしい花が、山盛り積んである。
「ユリ様、ここのバラは全部ピンク色なんですね」
「ダマスクローズが、ピンク色なんだと思うわ」
「あれ? 説明が違う名前だ」
「あー、ロサ・ダマスケナね。同じ花の名前よ」
「どうやって香水にするんですか?」
「おそらく、水蒸気で蒸留して作るんじゃないかしら」
ユリがリラに説明していると、銅色のヤカンのオバケみたいな器具をセットしていた人が、こちらを見て驚いていた。
「お、お詳しいのですね」
「本でチラッと読んだだけで、作ったことがあるわけでも詳しいわけでもありません。素人の知ったかぶりなので、ご気分を害されたのなら、ごめんなさい」
ユリは明るく謝った。
「あ、いえ、女性は皆様出来上がったものに興味があるだけだと思っていましたので、作り方に感心を持たれる女性がいらっしゃることに、とても嬉しく思いました」
「私たちは料理人なので、どんなものでも作る過程にとても興味があります」
「成る程、職人仲間でしたか」
ニコニコと、とても喜んでいるようだった。
その後、器具の細かな説明をしてくれた。普段はそんなサービスはないらしく、ソウも楽しそうに説明を聞いていた。
「ローズオイル、ローズウォーター、ローズペタル(乾燥させた花弁)などの販売がございます」
「ローズウォーターと、ローズペタルが欲しいのですが、食用可能ですか?」
「はい。ローズウォーターはそのまま飲まれるかたもいらっしゃいますが、ローズペタルはそもそもお茶用なので、食用です」
「是非売ってください! それと、販売可能な生の花は有りませんか?」
「生の花をどうされるのですか?」
「ジャムを作ろうと思います」
「生を売ってもかまいませんが、ジャムならこの先で販売をしていると思います」
「生の花もお願いします。でも、ジャムも買いに行きます」
工房の人が用意している間、リラから質問された。
「ユリ様、ローズウォーターとは、何ですか? 何に使うのですか?」
「水蒸気で蒸留すると、ローズオイルと一緒に出来るのよ。ローズオイルはとても高価だけど、ローズウォーターは安価だから、美容用途で化粧水として使ったり、飲んだりする人も居るけど、少し桃か何かの果汁と砂糖を加えてゼリーにすると、バラの香りの美味しいゼリーが出来るわ!」
「それ作りたいです!」
「食べたいです!」
ユリとリラが振り向くと、イポミアが目をキラキラさせていた。皆がユリとリラの話を聞いていたらしい。
「なら、お店に帰ったら、是非作りましょうね。うふふ」
ユリが笑った理由に気付いたリラが、納得の声を上げながら、笑った。生クリームのバラは大変だ。
「ご用意が整いましたー」
工房の人に呼ばれ、ユリがローズウォーターを120リットル欲しいと言い、工房の人を慌てさせた。定期販売している分などがあり、出来上がった全てを販売するわけにはいかないらしい。
ソウが毎日取りに来ると話を付け、数日かけて用意すると話がまとまったのだった。
「ユリ様、ゼリー何個分相当ですか?」
「1000個分ね。2日の合計なら、このくらい出るでしょ」
「あー、確かにそうですね」
「ユリ、1000個作るの!?」
「人いっぱい居るし、多分大丈夫よ。うふふ」
ソウが、見て分かるくらいひきつっていた。
「何か、良いグラスが欲しいわね。完全透明な容器無いかしらね」
「あ、俺は、ローズウォーターの買付と、グラスを全力で探す担当ってことで」
ソウは、何かユメに突っ込まれ、驚愕していた。
ローズペタルと生花を受けとり、ジャムを販売している店に寄って お土産を買って帰ってきた。




