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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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薔薇

Sの日(おひさまのひ)。 


「ユリ様、手伝いに来ました!」

「あら、ありがとう」


リラが朝早くから厨房に顔を出した。早くと言っても、8時なので、仕事がある日より少し早めと言う感じである。


「あとは何をしますか?」

「この具を全部おにぎりにします」


相変わらず、ユリはその日の朝にお弁当を作っている。


9時に集合と決めてあり、今日は、ソウおすすめの薔薇(バラ)園を見に行く予定なのだ。先週と予定を入れ換えた季節の花の見学である。


おにぎりが作り終わる頃、メリッサとイポミアも顔を出した。メリッサは、シーミオを連れていて、皆ワンピースを着て、お洒落にしている。


「あら、リナーリちゃんは来ないの?」

「家で、バラを折りたいそうです」


折り紙の花がお金になると知り、凄い勢いで折っているらしい。ユメが頼んだ納期は、2週間以内に14個なのだが、一昨日頼んだものが、そろそろ作り終わりそうだと、イポミアが話していた。


「リナーリに追加を頼んだ方が良いにゃ?」

「出来を確認してから、お願いします」


リナーリは、1花作るのに40分ほどかかるらしいが、それでも時給換算すると1050(スター)になり、破格の内職になるらしい。子供の手伝いなど、お駄賃程度が普通なので、物凄い厚待遇なのだそうだ。


「20分以内に作れるようになったら、イポミアの時給を越えるにゃ」

「越えるかもしれませんが、1日中折りバラを折り続けるのは、ちょっと、無理です」

「無理しすぎないように言っておいてにゃ」

「はい」



「イポミアさん、今日見に行くのは薔薇なんだけど、伝えても来ないかしら?」

「バラを見に行くのですか!? ちょっと戻って聞いてきます」


ユリの説明に、何か考えがあるらしいイポミアが、慌てていた。すると、キボウがイポミアの手を取り、転移していったのだ。


「あらキボウ君は、イポミアさんのお宅も知っているのかしら?」

「キボウはなんでも知っていると思うにゃ」

「そういえば、そうかもしれないわね」


少しすると、可愛らしい服を着たリナーリを連れたキボウとイポミアが戻ってきた。


「お待たせしました。やはり参加させてください」

「ユリ様、今からさんかしても良いですか?」

「はい。歓迎します」


ユリとリラはお弁当を作り終わり、皆でソウの戻りを待っていた。


「ただいまー。お、揃ってるな。出掛けられる?」


ソウは訪問先に、根回しとお土産を置きに行ってきたのだ。ユリたちだけなら事前の確認も要らないが、店の従業員とその家族を連れていくので、新たに確認をしたのだった。

反対されることはないだろうが、知らないのと、知っているのでは、大分違うだろうし、印象も違うと思われる。


「大丈夫よ。私が5人担当するわ」

「俺はユメとキボウを連れていくよ」


「シーミオちゃんとリナーリちゃんは、私と手を繋いでね。メリッサさんとイポミアさんは、片手をご家族と繋いで、片手で私につかまってね。リラちゃんは背中からつかまって貰える?」


全員が返事をすると、ユリは転移した。


「すゅごーい!」

「す、すごい」

「あう、」

「うわ、」

「うはは!」


若い方が、転移酔いが軽いらしい。メリッサとイポミアは、軽く(うめ)いたあと、座り込んでしまった。何度目かのリラはノーダメージらしい。


「メリッサ、イポミア、大丈夫にゃ?」

「ちょ、ちょっと、お待ちください」

「夢で高いところから落ちたような気分です」


後から転移してきたユメが心配していた。


「あまり気分が優れないようなら、無理せず教えてね」


「もう大丈夫です。一瞬、お酒に酔ったような感覚に陥りましたが、普通に戻りました」

「私は、少し気持ち悪かったんですが、すぐ治りました」

「しーちゃん、へーき」

「ビックリしました」


「皆大丈夫なら行くぞ」


ソウについて行くと、高い木が囲うバラ園に到着した。ここは、色々な種類のバラが育てられているらしい。


とても良い香りが、風に乗って漂ってきた。


「うわー! 良い香りー!」

「おー、見学前に、注意事項な。花には触らないこと。植え込みには入らないこと。園内は走らないこと。よろしくな」

「では、3時間ほど自由に見学してください。疲れた人は、東屋(あずまや)で休んでください。飲み物も用意しておきます」


皆は、ユメに貰ったばかりのお絵かきセットを持参していて、リラに描き方を習っていた。なんと、ユメとキボウも、スケッチブックを持っている。


「ユリは絵を描かなくて良いの?」

「うふふ。学生時代に『画伯』の名を欲しいままにした私に、それを聞く?」

「味の有る絵ってことだよ」


一般人が理解できない程に絵が独特すぎる人を、からかって「画伯」と呼んでいるのだ。


「なら、少し描いてみるわ」


ユリは一番気に入った、良い香りの花を描くことにした。そもそも選定から間違っている。香りの良さは、絵には描けない。


同じ花をソウも描いてみた。下書き時点で、ソウの絵は素晴らしかった。ぬり絵の線のような太さはあるが、花を正確にとらえている。


ユリの絵は、下書き時点から異次元の景色だった。本当に薔薇を見ているのか確認したくなる、この世の物とは思えない何かの絵だった。


ところが、ユリは色を塗ると、花を描いているのが分かる絵になってきた。逆にソウは、赤い花は一面赤く塗り、濃淡が全く無い。ぬり絵の線の中を同じ色で塗りたくったような出来上がりだった。使う色が3色程度なのだ。


なんと言うか、二人とも残念な絵である。


「うふふ。自分の絵が下手なのは、理解できるんだけどね」

「絵としては、俺より上手いよ」

「ソウは、下書きの時点では、凄く上手だったわよ?」

「二人とも才能がないってことで、諦めよう」


ユリは全体の印象を自分の中でとらえて想像を描いていて、ソウは知識としての理解で描いているのだ。だから赤いと思うものは、ひたすら赤い。


「さあ、諦めて、花を見て回りましょう」

「そうするか」


東屋に保温ボトルでお茶を置き、紙コップとパウンドケーキも置いてきた。


「あら、この薔薇は、とても美味しそうな香りがするわ」

「美味しそうな香りって?」

「バラジャムみたいな香りって言うのかしら?」

「なら、さっきの薔薇は?」

「香水系の香り?」

「成る程、そういう違いなのか」


見て回ると、物凄く地味な、緑色の小さな花があった。


「これも薔薇なのか?」

「あー、これは確か、薔薇の原種だったと思うわ」

「そっちに有る、薔薇っぽくない花は?」

「一重咲きの薔薇ね」

「これ、葉っぱがなんか違うな」

「ハマナスじゃないかしら? この辺は、原種とかそういうのなのかしらね?」


しばらく進むと、エリアが変わったらしく、大きな花が増えてきた。


「名前が付いているけど、見知った名前がないな」

「私たちが知っている改良品種は無いんじゃないかしら?」

「それもそうか」


かなり広い薔薇園を、端から端まで見るには、かなり歩くのだった。


ユリとソウが東屋に戻ってくると、リナーリ以外が椅子に座っていた。


「あら、リナーリちゃんは?」

「その辺で絵を描いています」

「そろそろお昼ごはんにしようと思うんだけど、良いかしら?」

「今呼んできます」

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