準備
翌日。お店はお休みなのに、試作予定のWの日。
「ユリ、何時から作るのにゃ?」
朝ご飯が終わる頃、ユメから質問された。
「特に決めてはいないけど、私の予定では10時頃のつもりよ」
「先に城に行ってくるにゃ。持っていっても良いものはあるにゃ?」
「バラマドレーヌを、世界樹様に1箱、メイプルさんたちに1箱、お城に7箱くらい持っていくと良いわ」
「良いのにゃ!?」
「はい、どうぞ。あ、そうだ、ユメちゃん、商品説明のために、折りバラをまた作って貰える?」
「わかったにゃ。カンパニュラが作れるから、少し頼むにゃ。それと、今日の試作のあと、みんなに折り紙教えるにゃ」
昨日リラたちが、大変だったと言っていたのをユリは思い出した。
「ユメちゃん、あの折りバラって、1時間で何個くらい作れるの?」
「一番調子が良い時で、4個くらいにゃ。教えながらだと、1~2個にゃ」
「え!そんなに手間がかかるの!? なら、売って欲しいと言われたら、3個で1時間の時給くらいかしら?」
「売るのにゃ?」
「予定はないんだけど、うちって、初出の物、何でも欲しがられるじゃない? だから、可能かどうかだけは聞いておこうと思って」
「今日、みんなに教えて、みんなが作れるようになってから考えたら良いと思うにゃ」
「それもそうね」
売るほど作れなかったなら、売るという話自体が無効である。
ソウは出掛け、キボウは水やりに行くと言うので、ユリはついていくことにした。ユメには休んで貰っている。
「ユリー、きのみー、とるー?」
「えーと、魔力の木の実を収穫するかどうかってこと?」
「あたりー」
「とりあえず使う予定はないけど、収穫した方が良いの?」
「かばんー」
「えーと、収穫してしまって、魔道具の鞄に入れておいた方が良いということかしら?」
「あたりー」
ユリは魔力の木の実の生っている木を見に行き、どれを収穫して良いかキボウに尋ねた。
「キボウ君、どれが収穫できるの?」
「1こー!」
「あ、うん、どれでも良いけど、1つだけと言う意味かしら?」
「あたりー」
ユリは、一番育って見える木の実を1つもぎ取った。
その瞬間、全ての木の実が青くなり、未成熟に見えるように変わった。
「うわ! なんか凄いわね。1日1個と言うのが良くわかったわ。毎日1個収穫した方が良いのかしら?」
「だいじょぶー」
その答えはどっちだろうと悩んでいると、リラが声をかけてきた。
「おはようございます。何時から始めますか?」
「リラちゃんおはよう。特に決めてはいないけど、ユメちゃんとキボウ君がお城に行くから、戻ってくる10時頃から始めようと考えているわ」
「それなら、その時間から始められるように、準備を手伝います」
「ありがとう。リラちゃんの希望はあるの?」
「ユリ様が、何やら考えがあるとおっしゃっていた、ジンジャーエールのゼリーが楽しみです」
「それね。それは多分売り物レベルができると思うわ。なら、グラス洗いましょうか」
ゼリーを作る話だと理解したらしいキボウが、慌ててユリの元に来た。
「キボー、てつだうー!」
「キボウ君は、ユメちゃんと出掛けるのでしょ? 2人がお城から戻ってくるまで作り始めないから、大丈夫よ」
「わかったー」
家に戻ると、キボウはユメを急かして出掛けていった。
「早く行って、早く帰ってくる予定でしょうか?」
「そうかもしれないわね」
今日は仕事ではないので、厨房ではなく、お店のテーブルを使って試作をする予定だ。ゼリーの試作なので、オーブンを使わないし、参加人数分程度しか作らないので、業務用冷蔵庫ではなく冬箱で充分なのだ。
「何個くらい試作しますか?」
「1種類は15~20個くらいで良いと思うのよ。ジンジャーエールと、ルビーソーダと、あと何作るのかしら?」
「お店に有る飲み物というなら、ローゼルの赤いお茶とか、いちごミルクとかココアでしょうか?」
「いちごミルクやココアは、ババロアやムースの方が美味しそうよね」
少し考えたようなリラが聞いてきた。
「メリ姉とミア姉は、作ってみたいということですよね?」
「そう思うから、厨房ではなく、お店のテーブルにするのよ。娘さんも連れてくると思うのよね」
「シーちゃんも来るんですね!」
「恐らくはね」
「楽しみですねー」
「そうね。ゼラチンでも量っておきましょう」
リラとグラスを洗い、ゼラチンを量り終わった頃、メリッサと娘のシーミオと、イポミアが一緒に来たようだ。
「おはようございまーす」「ごだいまーつ!」
「おはようございまーす」「お、おはようございますぅ」
メリッサ、シーミオ、イポミアの他、聞き覚えの無い声が挨拶をしていた。
「あら、最後の声は、誰かしら?」
「もしかすると、リナーリかも?」
誰? と思ってお店に顔を出すと、イポミアが10歳くらいの女の子を連れてきていた。
「ユリ様、末の妹を連れて来ました」
「り、リナーリです」
「リナーリちゃん、いらっしゃい。私はユリ・ハナノです」
ユリがニコッと微笑んで挨拶をすると、こわばっていた表情が和らいだ。
「しーちゃんもきたのー」
「シーミオちゃんもいらっしゃい。二人とも、何か飲むわよね? メリッサさん、イポミアさん、何か好きなものを作ってちょうだい」
「はい」「はい」
ユリについて来たリラが、厨房に行ってしまったメリッサとイポミアに代わり、シーミオとリナーリを席に案内した。
「ユメちゃんたちが戻ってくるまで、お茶をしながら、今日作るものを考えましょう」
「ユリ様は何を飲まれますか?」
「リラちゃんと同じので良いわ」
リラも厨房に行ってしまったので、ユリが話しかけることにした。
「今日はお店の試作試食会に来てくれてありがとうね。お出掛けしている黒猫のユメちゃんと、世界樹様の幼木のキボウ君が帰ってくる迄、少し待っていてね」
シーミオにはイチゴミルク、リナーリにはサファイアソーダを出していた。メリッサとイポミアは、ジンジャーエールらしい。そしてリラが持ってきた飲み物は、抹茶オレだった。
「あら、抹茶オレなのね」
「え、ご存じなのですか?」
「そういえば、うちでは出したことがないわね。リラちゃんが考えたの? あなた本当に凄いわね」
リラはユリが知っていたことを、驚いているようだった。
「リラ、それはなあに?」
「アイスココアみたいに、抹茶と言うお茶の粉で作ったんだけど、ユリ様はご存知の物だったみたい」
「あ、世界樹様のクッキーの甘いところの粉ね」
「それです」
メリッサに聞かれ、リラは答えていた。
「あ、そうだ、イポミアさん。バラマドレーヌ、食べて良いわよ」
「ありがとうございます!」
イポミアが、皆の分までバラマドレーヌを持ってきた。色々な生地で作っているので、各自が好きな色を選んで食べていた。
「ただいまにゃー」
「ただいま、ただいまー」
ユメとキボウが戻ってきた。まだ9時前だ。




