珈琲
休憩明け、外おやつを出し戻ってくると、全員揃っていた。
「何かあったら、すぐに声をかけてくださいね」
全員が揃って返事をした。
ユリとシィスルはボールチャーハンを作り、アイスクリームが出来上がると詰め込みを手伝い、30分単位で15個ずつ揚げていた。注文がずれてくる分は揚げた後にユリの鞄にしまい、その繰り返しを続けていた。
大分たった頃、イリスが申し訳なさそうに許可を取りに来た。
「あの、ユリ様、近隣のお客様なんですが、どうしてもお子さんに食べさせたいとのお申し出がございまして、どうにかすることは無理でしょうか?」
「え? イリスさんの知り合い?」
「端的に言えば、メリッサの従兄弟です。メリッサが断っていますが、半ば泣き落とし状態になっています」
「メリッサさんを連れてこられる?」
「はい」
すぐにメリッサがきた。
「ユリ様、ご迷惑をお掛けしまして申し訳ございません!」
メリッサは、厨房の入り口で勢いよく頭を下げていた。
「あ、違うのよ。咎めるために呼んだんじゃないわ。従兄弟さんは、何か理由があるの?」
「はい。うちの娘が、ここで食べたことを話したらしく、従兄弟の子供は、私も食べたいと、常日頃言ってはいたのですが、風邪を引いたようでして、食欲がなく、ここの料理なら食べると言ったようでして、その」
「そういうことなら、女神の慈愛・パウンドケーキを1枚持たせて、あなたが帰るときに、5人分持ち帰れば良いわ。お代はボールチャーハン1人前分受け取ってちょうだい」
「か、かしこまりました!」
メリッサは、急いで、伝えに行った。
「ユリ、特例作って大丈夫か?」
ソウが心配して声をかけてきた。
「んー、特例っていうか、女性や子供が来られないから、そういうことが起きるんだと思うのよね。女性や子供を同伴しないと入れない日とか作ったらどうかしら?」
「あー、問題はそっちか」
「え? 他に問題あった?」
「ごねればなんとかなると考える人が出ないか?」
「それは私が対応するわ。なんなら、ソウが睨んできても良いわよ? うふふ」
「ああ、そうするよ。ユリはあんまり危ない事はしないでくれ」
ユリはちょっとした冗談で言ったつもりだったが、ソウにはそのまま受け取られてしまった。
あらら。しょうがない、話を切り変えましょう。
「シィスルちゃん、女性と子供の日を作るとしたら、どのくらいの頻度が良いと思う?」
「は、はい。あの、まずは、月に1回から始めて、評判が良ければ増やしたら良いと思います」
「あ、そうよね。いきなり半分変えちゃ駄目よね」
ユリの言葉に、厨房にいた全員が驚いていた。ユリとしては、同じメニューになる2日目の、火曜日と金曜日をあてようと考えていたのだ。
「あの、ユリ様、マリーにも、ボールチャーハンを持ち帰ってもよろしいですか?」
「構わないけど、明日顔出しに来るなら、そのとき出すわよ?」
「たぶん来ます! ありがとうございます!」
ユリとしては、外販売のメンバーが変わると考え、食べたい人には出し、2日目になるメンバーには希望者に違うものを出せば良いだろうと思っていたのだ。
ボールチャーハンの目処が付き、アイスの詰め込み以外、少し暇になった。
「シィスルちゃん、少し揚げ物任せちゃって良い?」
「はい」
ユリは、ボトルコーヒーを箱ごと持ってきた。900ml入りが12本入っている。ゼラチン180gを5倍の水で潤かし、温めた1本分のボトルコーヒーに加え良く溶かした。そこに常温のボトルコーヒーを全て加え、ソウが洗っておいてくれたゴブレットに、120mlレードルを使い注ぎ入れた。コーヒーゼリーが97個出来上がる。
「ユリそれ、コーヒーゼリー?」
「そうよ。ユメちゃんのリクエスト」
「俺の分もある?」
「え!? ユメちゃん、97個も食べないと思うわよ?」
「そうか」
ソウは、笑いながら納得しているようだった。
「ユリ! もう作ってくれたのにゃ!?」
「はい。作ったわよ。後で食べましょうね」
「ありがとにゃ!」
何か取りに来たらしいユメも、コーヒーゼリーに気がついたらしい。笑顔で店に戻っていった。
ユリが冷蔵庫にしまっていると、シィスルが手伝いに来た。
「ユリ様、これは何ですか?」
「これは、コーヒーゼリーと言って、苦い飲み物のコーヒーを、お菓子のゼリーにしたものです。生チョコの種類にもコーヒーがあったでしょ」
「はい」
「あ、もちろん、シィスルちゃんの分もあるわよ。甘味は足せるから、夕ご飯の時にでも食べましょう」
「はい!」
その後も、出来上がったアイスクリームをココットに詰め込み、ボールチャーハンを揚げ、順調に数を製造していった。
グラタンを50、ドリアを50仕込み、「ウカヤキエル」と呪文を唱え冷却し、チーズをのせていると、ユメが慌てたように厨房に来た。
「ユリ、どうしてもボールチャーハンをおかわりしたいって言ってるにゃ」
「私が対応するわ」




