黒蜜
ユリが厨房に取りに行くと、ちょうどソウが戻ってきていた。
「今から試食タイムよ。ソウも食べるでしょ?」
「あ、ユリ、ゴブレットって使う?」
「足のある低いグラス?」
「これ、見本」
ソウが見せてくれたのは、パフェグラスをそのまま上から押し潰して小さくしたような飲み口が広目のゴブレットだった。
「小さいパフェが作れそうね。これどうしたの?」
「ユリが茶碗蒸しの器を貰ったところの、洋食部の水用のグラスらしいよ。使用済みが500くらいと、未使用が5000くらいあるって」
「え、いくらで?」
「全部引き取るなら無料で、未使用だけ欲しいなら50万円」
「50万円支払うのは構わないんだけど、使用済みのグラスも欲しいわ」
ゴブレット1つ100円なら、激安である。
「了解。伝えて引き取ってくるよ」
「ソウ、パウンドケーキの予備はある?」
「持ってるから、渡してくるよ」
「お願いします」
ゴブレットを引き取る者がいなかった理由は、デザインとして店のマークが入っているかららしい。そして、大量過ぎる在庫の理由は、客に、グラスの販売も行っていたそうだ。
シィスルが仕上げの手伝いに来て、フルーツ宝箱を12個仕上げた。
「フルーツ宝箱の時だけ、こちらのスコップ型スプーンを使います」
「宝探しみたい!」
「そのイメージで合っています」
食べたことの無い、キボウ、シィスル、マリーゴールド、メリッサ、イポミアが、楽しそうに食べ始めた。出てくるフルーツ氷を楽しんでいるようだ。
食べたことがあるメンバーは少し余裕があるらしく、微笑ましく眺めていた。
「ユリ様、黒蜜の販売はどうされますか?」
「え? 必要?」
「お店で販売されていた頃の話をリラから聞きましたが、購入した黒蜜をかけて召し上がる方がかなりいらしたと」
イリスから言われ、ユリは困った。ユメは記憶がないだろうし、どうしようと考えていたら、マヨネーズを作りに来たまま帰らずにいたリラがいた。
「リラちゃん、どうなの?」
「は、はい! 半数よりは少ないですが、黒糖アイスクリームなので、別日に購入した黒蜜を持ち込んでかけている人もいました」
「わかったわ。ありがとう。すぐ作ります」
リラは、マリーゴールドが試食できるようにと、残っていたらしい。
「入れ物はあるのにゃ?」
「200個くらいはあると思うけど、まあ、足りないわね」
「私が伝えに行ってくるにゃ?」
「頼んで良いの?」
「任せるのにゃ!」
「ユメちゃん、お願いします」
試食が終わり、リラとマリーゴールドがベルフルールに帰り、ユメが出掛け、全員手洗い後に、作ってあったフルーツ宝箱を出してきて、お店できな粉をかけ、3個ずつ袋に入れ、真冬箱にしまっていった。
ユリは厨房で、黒糖アイスクリームを作りながら黒蜜を作り、しまってあった容器を煮沸消毒し、ひっくり返して乾燥させていた。
「いちじかーん」
キボウがこっそり乾燥を早めてくれていた。
「シィスルちゃん、もうすぐアイスクリームが出来上がるから、お店から2人呼んできてくれる?」
「はい!」
アイスクリームの材料を量りながら、アイスクリーマーを気にしていたシィスルが、少し安心したように返事をし、すぐに呼びに行った。
メリッサとイポミアが来て、ワクワクした様子を隠すこと無く、ユリの指示で、冷凍庫からフルーツ氷の入ったココットを取り出していた。
ユリがアイスクリーマーからアイスを取り出し、空になったところで、シィスルが次の材料を入れ、4人がかりでアイスをココットに詰め込んだ。
「ただいまにゃー」
「ただいま」
「おはようございます」
ユメとソウとマーレイが、同じタイミングで来た。
「ユメちゃん、ソウ、おかえりなさい。マーレイさんおはようございます」
「ユリ、在庫があるから持ってきてくれると言っていたにゃ」
「ユメちゃんありがとう」
「ユリ、受け取ってきたよ。どこかに出す?」
「今、忙しいから、少し落ち着いたら100個くらいお願いします」
「了解」
「ハナノ様、すぐにアイスクリームをお手伝い致します」
「ありがとう。助かります」
アイスクリームをしまうのをマーレイに任せ、ユリは米を炊き、トマトの缶詰を開け、計量に目処が付いたシィスルと一緒に、玉ねぎとベーコンとマッシュルームを刻み始めた。
玉ねぎとベーコンとマッシュルームを軽く炒め、トマトの缶詰を足し、コンソメを加え、煮込む。
アイスクリームが出来て、作業を中断し詰め込む。
冷凍ミックスベジタブルにケチャップを合わせ加熱し、炊けたご飯と混ぜ、中心に溶けるチーズを入れ、大きめな丸いおにぎりを作る。手で握るとくっつくので、ラップフィルムを使う。
手の空いたソウが、ゴブレットを100個ほど、洗っておいてくれた。マーレイは、ユリが朝作っておいたフルーツ氷を、ココットに入れている。
おにぎりを中断し、アイスクリームを詰め込む。
ボーンリーフ商会が黒蜜用の容器を納品に来た。ソウが対応してくれた。作業している横で、フルーツ宝箱を提供し、仕上げ作業を物珍しそうに眺めていたらしい。ユリがあまりにも忙しいので、ユメがアイスクリームを出してくれたのだ。
トマトソースを煮込んでいると、ユメが聞きに来た。
「ユリ、ソウとマーレイが来たから、キボウと出掛けても良いにゃ?」
「はい。気を付けていってきてね。フルーツ宝箱を持っていったら良いわ。棚をいれて、真冬箱で60個くらい持っていくと良いわよ」
「ありがとにゃ!」




