母日
5月の第2日曜日、今日は、母の日。
ユリの実母は亡くなっていて居ないので、ユリが母のように思っている相手を敬うことにしている。これまでは、星見夫妻に母の日、父の日に何か持っていったり送ったりしていたが、今年は、月見夫妻と、国王夫妻、パープル侯爵夫妻と、マーレイ&イリス夫妻と、寿夫妻にも、ケーキを持っていこうと予定していた。
早朝から掃除を終わらせ、5号サイズのカーネーション型のケーキを7つ作り、出掛けることにした。
近いところから回りましょう。
◇ーーーーー◇
冷蔵庫の中にあるケーキとほぼ同じものを持って、
母の日に回ってきます。
お昼ご飯に戻ってきます。
ユリ
◇ーーーーー◇
同じケーキを一人分づつにカットし、テーブルにメモも残したので、王国内を回ることにした。
ちなみに、ソウは出掛けていて、ユメとキボウはいつも通り、世界樹の森と、城に行っている。
マーレイの家を訪ね、イリスにケーキを渡した。
「今日は、私が元いた国では、母の日と言って、母に感謝する日なのです。母の如くお世話になっている方に差し上げています」
「私がいただいてよろしいのですか?」
「いつもお世話になっているからね。いつもありがとうございます」
特に質問などはされなかったので、次はパープル邸に転移した。
「ようこそいらっしゃいませ、ユリ様。奥さまを呼んで参ります」
「あ、お願いしまーす」
すぐに来たローズマリーは、ケーキを見ると色々質問してきた。
「上の飾りのようなものは、どうなっているのですか?」
「これは、イチゴ味のチョコレートで、薄く伸ばしたものを、パレットナイフで、フリルになるように削り、たくさん作り、重ねて飾ってあります。これは、カーネーションケーキと言います」
「素晴らしいですわね。ユリ様、どうもありがとうございます」
「喜んで貰えて良かったです」
次に王宮に転移した。
チリンチリン。
ハンドベルを振ると、すぐにメイドがやって来た。
「今日は、ハイドランジアさんに用があるんだけど、連れていって貰える?」
「ユリ様が、出向かれるのでございますか?」
「そちらの都合で構わないわ。忙しいなら、出直すわよ?」
「いえ、少しだけお待ちくださいませ」
ドアの側のメイドがゆっくり退室し、恐らく廊下を走っていったようで足音が聞こえた。それから1分くらいすると、案内をしてくれるらしく、ユリの前に来た。
「ご案内いたします」
部屋に案内して貰うと、部屋の前でハイドランジアは待ち構えていた。
「ハイドランジアさん。ケーキを持ってきたので、貰ってください」
「ありがとうございます。ご用の向きは、ケーキだけでございますか?」
「あ、そうか。私が元いた国の5月の第2日曜日、この国では、Sの日は、母の日と言うイベントの日でして、私の実母は亡くなっていますので、母のようにお世話になっている方に、お菓子を差し上げています」
「そのような素晴らしい日に、私がお菓子をいただいてよろしいのですか!?」
「はい。たくさんお世話になっていますので、心ばかりですが、受け取って貰えると嬉しいです」
「ありがとうございます。味わっていただきたく思います」
「受け取って貰えて良かったです。それでは」
ユリは、スタスタと進み、帰る方向が違うと、メイドに止められた。
ソウの部屋に連れていって貰い、案内を頼んだメイドたちには、お礼のお菓子を渡し、自宅に戻ってきた。
「ただいまー」
「ユリ、道に迷わなかったにゃ?」
「ユリ、一人で大丈夫だったのか?」
「おかえりー、おかえりー」
「ちょっと、ユメちゃんも、ソウも、転移で移動しているんだから、迷うわけ無いじゃない。まあ、王宮内で帰るとき、反対方向に行きそうにはなったけど」
やっぱりだと、ユメとソウには笑われた。
さっと昼食を済ませ、午後はソウを連れて元の国へ行くと説明すると、ユメはどこかに出掛けると言っていた。
ユリは移動をソウに任せ、星見家を訪問した。
「お義母様、今日は母の日なので、カーネーションケーキをお持ちしました」
「百合ちゃん、どうもありがとう!」
「お袋、これ」
ソウはカーネーションの花束を差し出して、なぜか夫妻から笑われていた。
「ゆっくりしていって欲しいけど、月見家にも行くのでしょう?」
「はい。この後伺う予定です」
「なら、明るいうちに行った方が良いわね」
「ん、まあ、そういうことだから、長居しないで行くよ」
「また来てねー」「また来るんだぞー」
星見夫妻に見送られ、ソウが転移した。
月見家だ。なぜか、玄関ではなく、中庭に転移してきた。
「お兄様、お待ちしておりました」
「あ、うん」
「お父様と母上様はこちらです」
「おぉ」
カエンが案内してくれたけど、なんだかソウが、少し変な気がする。ユリは不思議に思ったが、初めて一緒の母の日なので、照れ臭いのかな?と考えていた。
部屋に通されると、月見夫妻はニコニコしながら待っていた。
「お義母様、今日は母の日なので、カーネーションケーキをお持ちしました」
「まあ、百合さん、どうもありがとう! 中を見ても良いかしら?」
「はい」
「うわー! 素敵だわ! お花のケーキなのね」
「えーと、か、」
「か?」
「か、かあさん、これ」
ソウは、ぶっきらぼうにカーネーションの花束を渡していた。
なぜか、月見夫妻もソウを笑っていて、ユリは少し不思議に思った。
ユリは予定を話していなかったのに、ソウは、この後は予定があると言い、月見家を早々に後にした。
「ソウ、何か予定があるの? 私、寿さんのところにも行きたいんだけど」
「いや、予定はないよ。寿さんのところに行こうか」
ソウが転移してくれ、寿夫妻がいる施設に来た。
「菊花さん、母の日なので、カーネーションケーキを作りました。良かったら貰ってください」
「まあ、百合ちゃん、私が貰って良いの? ありがとう」
「カーネーションケーキか。お、うまく作ったな!」
夫妻はとても喜んでくれた。
「お墓参りはもうしたの?」
「これから行ってきます」
「そう、なら気を付けていってきてね」
「はい。いつもありがとうございます。あ、そうだ。製菓衛生師の試験、受けることにしました。教材や、便宜を図ってくださり、ありがとうございます!」
「おお、そうか。頑張るんだぞ」
「はい。では、また来ますね」
「待ってるからね」
「はい」
談話室を後にし、人のいない場所から、ソウの家に転移した。
「ユリ、お墓参りはすぐに行く?」
「お花屋さんに、白いカーネーションを買いに行きたいわ」
「白いカーネーション、買ってあるよ」
墓の側にソウが転移してくれた。
花野家の墓は樹木葬にしたので墓石はないが、そこにはたくさんの花があった。
両親が寂しくないことが、ユリは嬉しかった。
少し枯れた花を片付け、白いカーネーションを供えると、後ろから声をかけられた。
「もしかして、ユリちゃんかい?」
見覚えのある、元常連のお客さんだった。
「お久しぶりです!」
「そちらの方は、外務省勤務って言う、旦那さんかい? 旦那さんについて外国に行ったって聞いたときは驚いたけど、幸せそうで良かった」
ソウビがそう話したのだろう。辻褄があっているので、特に訂正はしなかった。
「ご心配をお掛けしました。とっても幸せです。両親のお墓まで心配してくださって、ありがとうございます」
少しの立ち話をして、元常連のお客さんは、帰っていった。
「ユリが幸せで良かった」
「とっても幸せです」
二人で仲良く家に帰った。
後日、
「イベントは、実行する前に教えてくださいませ!」
「イベントは、実行する前に教えてください!」
ラベンダーとリラに怒られた。
ソウの態度の謎は、クロネコのユメの方に書いてあります。




