無水
「小さい袋、有りました!」
リラが小さめのジッパーバッグの入った箱を見つけ、戻ってきた。どうやら段ボール箱が前後に有り、奥側の箱に小さいサイズの在庫は入っていたらしい。ユリも高い場所は自分で取らないので知らなかったのだ。
リラが手伝い、マリーゴールドは、ユリが指定した数のきな粉を袋詰めしてくれた。今日の予定は300セットだ。粽の数としては店売り分として1050個になる。
「ただいまにゃー」
「ただいま、ただいまー」
「ユメちゃん、キボウ君、お帰りなさい」
ユメとキボウは2階から戻ってきた。
「今日も人いっぱいにゃ?」
「そうね。お店に17人居るわ」
「そのうち入りきらなくなるにゃ」
「そう思うわよね」
「外の人はどうするのにゃ?」
「え?」
どうやらユメは、転移前サーチで店の回りを見た時、あまりの人の多さに自力転移を諦め、キボウに頼み、リビングに転移してきたらしい。
慌ててユリは外を見に行った。ユメの報告通り、ごっちゃりと人が押し寄せていた。
「ハナノ様!」「ユリ・ハナノ様!」
「今日のお手伝い募集は、応募者多数で締めきったのですが」
「存じております! 今居る人は、開店を待っている人だけです」
「えー! まだ11時にもなっていないわよ!?」
「早く来た人は、ベルフルールに行って食事をしたり、その辺を散策したり、お茶を頂いたりして待っております」
「なら、お茶だけでも先に出すわ」
今日のベルフルールは、定休日だ。
ユリは厨房に戻ると、外おやつ用のお茶を用意し、マーレイと持っていった。すぐ後からリラが、湯呑みやカップを持って追ってきた。
「飲み物は早い時間から用意しないとダメね」
「イベントがなければ、この時間はまだそんなに来ないと思います」
「なら、イベントの日は、早くからお茶を出しましょう」
おやつ用のパウンドケーキも早めに出し、お茶はいつもよりも多めに用意した。
あっという間に午前中が終わり、粽も予定数以上が出来上がった。
「ハナノ様、とても有意義に過ごさせていただきました。少しでもお役に立てましたこと、大変光栄に思います」
「とても助かりました。最初は、私一人で店内サービス分だけ作るつもりでしたが、皆さんのお陰で、お土産分を販売することが出来るようになり、とても喜ばれています」
「又、何かございましたら、どうかお声がけくださいますよう、お願い申し上げます」
「大変助かります。皆様ありがとうございました。どうぞ、お昼ごはんを召し上がっていってくださいね」
1時間程手伝ったシィスルとマリーゴールドは、ユメにズコットを習い、そのまま厨房に残っていた。ユリは人数が多いので、あまり手間もかからず調整が利きやすいメニューにしようと考え、無水カレーを作ったのだ。
「お店では出したことがない、無水カレーです。トマトの水分だけで煮詰めます」
これは、ルーではなくカレー粉を使うので、作り方も説明した。トマト、玉ねぎ、肉、カレー粉があれば、とりあえず作ることが出来る。後は好きな野菜を加えれば良い。
「水を入れない煮込み!?」
「煮込みの概念が覆される!」
味はとても好評で、ユリはほっと胸をなでおろした。
店に17人居るので、とても一緒には食べられない。厨房でも椅子を用意し、そのまま厨房で食べることになった。椅子11個は、ソウが用意してくれた。いつも厨房にある椅子は、店に持っていってしまったためだ。
「ユリ様、これ、作り方教えてください」
「無水カレーは、湯剥きしたたっぷりのトマト、スライスもしくはみじん切りの玉ねぎ、お肉をしっかり蓋をした鍋に入れて、弱火で煮込むのよ。他の野菜を足しても大丈夫よ。よく火が通ったら、カレー粉を加えて出来上がりよ。とろみをつけたいなら、小麦粉を溶いたものを加えれば良いわ。私はトマトは缶詰を使ったけど、良く熟れたトマトで作ったらとても美味しいわよ」
「今度作ってみます!」
満足して食べ終わり、皆休憩に入った。
昼休みあけ、少しだけ早く開店させた。外に待つ大勢の客のためだ。




