敬称
「おはようございま、うわー!!!」
メリッサが店の入り口から入ってきたらしく、店内を見て叫んでいた。
「おはようご、だれー!?」
時間差で、次に来たのはイポミアだ。メリッサと同じく、店側から来たらしい。
昨日も居たのだから、今日もいるかもしれないとは、思わなかったようだ。そういえば昨日は、メリッサやイポミアが出勤した後に、お手伝いを雇ったのだ。
リラが報告に来た。
「ユリ様、領主様のお屋敷の料理人さんと、お城の料理人さんは、教えなくても作れるようでした」
「あー、そういえば昨日、笹と藺草を持ち帰っていたわ」
「そうなんですね。あと、セリとカンナに粽を渡し、帰しました」
「ありがとう。帰りに賃金を渡すから、あなたから渡しておいてね」
「はい。ユメちゃんとキボウ君には、3つ入り2袋と、54個と、きな粉を渡しておきました」
「あなた、本当に有能ね。感心するわ」
「えへへ」
ユメとキボウは、出掛けたらしい。
「粽どうする? 作る?」
「私も少し作ってから、他の仕事をしようと思います」
リラは、シィスルの横で作り始めた。
「うわ、リラさん速い」
「でも、ユリ様には全然追い付かないよ」
「この短時間で追い付かれたら、私の立つ瀬がないわよ」
メリッサとイポミアも作りはじめ、皆で速さを競っていたが、昨日半日作り続けたメンバーより、リラは速かった。
今日もイリスは、早目に来てくれた。イリスは店に入る前に、店内に人がたくさんいるのを見て、倉庫側の入り口から入って来たらしい。
「さすがイリスさん、店内を通らなかったんですね」
「成る程、倉庫側から来れば良かったのかぁ」
メリッサとイポミアが、イリスに感心していた。イリスは手を洗うと、そのままメリッサとイポミアのそばで粽を作り始めた。
「あ!そうだ、リラちゃん、昨日マリーゴールドちゃんにも少し話したんだけど、お肉の手動スライサー用意したわ。後で確認してね」
「ありがとうございます!」
話を聞いていたイポミアが、質問してきた。
「ユリ様、それはなんですか?」
「手動スライサーのこと?」
「はい」
「うちでたまに薄いお肉の料理があるわよね? それを作る機械ね」
「え、リラの、いえ、リラさんのところでも薄いお肉の料理が出ると言うことですか?」
「出るかどうかは、リラちゃんの判断だけど、出せるようにはなると思うわ」
少し驚くイポミアに、リラが笑いながら言った。
「ミア姉、気持ち悪いから、『リラ』で良いのに」
「いや、一応先輩かと思って。でも、気持ち悪いは酷いじゃない」
「じゃあもし、メリ姉より先に携わることになって、メリ姉から『イポミアさん』って呼ばれたら、どう?」
「あははー。それは確かに、気持ち悪い」
リラとイポミアの話に、呆れたと言わんばかりのメリッサが、口を挟んだ。
「あなたたちねぇ。仕事の時は、○○さんって呼べば良いのよ。気持ち悪くない。公私の区別はつけるべきよ」
「はあい」「はーい」
メリッサが、リラとイポミアを叱り、ユリとシィスルは、笑っていた。
マリーゴールドが、報告に来た。
「ユリ様、きな粉の袋が無くなりました。在庫は何処にございますか?」
「外倉庫の高い棚の上だから、ソウかマーレイさんしか届かないのよ」
「私が見てきまーす」
ソウの次に背の高いリラが名乗り出て、小さめのジッパーバッグを取りに行った。リラなら、安全な低めの台にのっても届くことだろう。
少しすると、いくつかの箱を持って戻ってきた。
「ユリ様、この大きさでよろしいでしょうか?」
「あ、それじゃなくて、箱が桃色の一番小さいジッパーバッグ無かった?」
そこへ丁度マーレイが来たら、ユリに納品物を確認する前に、リラに連れていかれてしまった。




