昼食
ユリは出来ている粽を茹でた。3度目の現時点で、合計500個を越えた。
マーレイに、時々店に様子を見に行ってくれるよう頼み、ユリはマリーゴールドを呼んだ。
「マリーゴールドちゃん、お昼ごはん作るから、こちらを手伝ってもらえる?」
「かしこまりました」
「あ、そうだ。増えちゃったから、フルーツズコット、もう1つ作った方が良いかしら」
「ユリ、私が作るにゃ!」
ユメが名乗り出た。
「なら、ユメちゃんお願い。わからなかったら聞いてね」
「わかったにゃ!」
ユリは、予備のスポンジが入っている指輪をユメに渡した。
笹を配るのに飽きたのか、キボウはユメを手伝うらしく、冷蔵庫から、果物を出してきていた。
「俺、何か無い?」
ソウが、仕事を聞いてきた。
「最初に茹でた粽、お湯が冷めたら、ジッパーバッグに3つずつ詰めてもらえると助かるわ」
「了解」
ユリはマリーゴールドと一緒に、薄切りの豚ロース肉に紫蘇を巻き込んで、豚肉の紫蘇巻きを作った。16人前なので、かなりの数だ。
「薄切りのお肉は、色々と使い勝手がよろしいのですね」
「あ、忘れてた!食品用手動スライサー、あとで渡すわ」
「ありがとう存じます!」
以前、薄切り肉が包丁では限界があると話したときに、手動スライサーを用意すると約束したのだ。
「ハナノ様」
「はい」
「お店の方の粽が、100個以上有りましたのでお持ちしました」
「ありがとう!それも茹でちゃいましょう」
マーレイが持ってきてくれたので、急いで茹でた。さすが、プロは仕事が速い。あっという間に、厨房のスピードを抜いてしまった。その後割りとすぐに厨房組が作った粽も集めて茹でた。
「ユリ、出来たらどうするにゃ?」
「少しの間で良いから冷凍庫に入れてくれる?」
「わかったにゃ」
ユメが、フルーツズコットが出来たと報告してきた。
ユリに質問すること無く、最後まで仕上げたようだ。そして少し余った生地は、キボウが楽しそうに自分用を作っていた。
「マリーゴールドちゃん、紫蘇巻きに、衣つけてもらえる?」
「かしこまりました」
マリーゴールドが衣をつけている間に、ユリは、大きめの玉葱2つを8等分のくし切りにし、バラけるのを防止するためと、衣がつけやすいように、竹製のつま楊枝を刺した。
ふと見ると、ユメがマリーゴールドを手伝っていた。
「あら、ユメちゃん、どうもありがとう」
「ユリ、他には作らないのにゃ?」
「なにか食べたいものがあるの?」
「小さい玉子がたくさん刺さった揚げ物にゃ」
「ウズラ串かしら?」
「たぶんそれにゃ!」
「材料があるから作れるわよ」
「食べたいにゃ!」
ユリは、ウズラの缶詰の2号缶を持ってきた。65個前後入っているので、ちょうど良いだろう。
串刺しはユメがしてくれるらしいので缶を開けたあとは任せ、ユリはサラダを作り冷蔵庫に冷やした。
マリーゴールドが、ユメの作ったウズラ串も刺したそばから衣をつけてくれているので、油の用意をし、揚げ始めた。
紫蘇巻き豚カツやウズラ串は、割りとすぐ揚がる。時間がかかるのは、玉葱だ。少し生でも食べられないことはないが、良く火が通り、柔らかく甘い方が美味しい。
揚がったものは、その都度皿ごと収納した。
昼食の準備が終わり、飲みたいものを尋ねて回ったら、食事中は冷たいお茶を希望する人が多く、全員食後に聞き直すことになった。
一人だけ、「色が変わるシロップと、青い色のシュワシュワするアイスクリームののった飲み物」と言っていたが、回りに合わせ、あとで良いと言いなおしていた。
食事前に包めた粽の数は、750個を越えた。さすが数の勝利だ。これならば、店内提供予定数150個を除いても、3個セットを200組販売できる。
「皆さん、どうもありがとうございます。お陰様で持ち帰り販売が出来るようになりました」
「無心で作っていると、悟りが開けそうでした」
「なんだかとても楽しかったです」
「ハナノ様は、1時間で何個くらい作ることが出来るのですか?」
「そうねぇ、50~60個くらいかしら」
「え!私たちの倍!?」
作ることに慣れてきた11時からの一時間で、一番遅い人で11個、一番速い人で35個くらいだったらしい。
ランチでは見たことがない紫蘇巻き豚カツに感動し、ズコットに感激し、調理人5人は、アルバイト代と、出来上がった粽と、何故か少々の笹と藺草をもらい受け、帰っていった。




