転移
ユリが案内しようとすると、ソウが転移で連れていった。
わざわざ梯子を下りなくても、転移すれば良かったのね。とユリはやっと気がついた。
イトウは、気が済むまで「こごみ」を収穫しているようだった。
ユリはリラを連れ、蕗を刈るために、ソウに倣って転移で川原に下りた。
「株を傷つけない程度に、下の方から真っ直ぐに切り取ってね」
「蕗の薹と一緒ですね!」
ユメとキボウも見学に来て、手伝ってくれた。
「葉っぱは要らないので切り落としますが、まだ若い葉っぱは、湯がいて冷水につけてアク抜きして、蕗味噌を作ったり出来ます」
「では、葉っぱも持ち帰ります!」
葉っぱは、ユメがキッチンバサミで落としていった。
ユリは最後に、川原に有る藺草も刈り取った。
お店に戻り、蕗の処理を始める。
「手持ちの一番大きい鍋に湯を沸かします」
「行く前に用意したものが沸きました」
火加減と言うか、夏板の出力をサエキに頼んでから川に行ったのだ。
「次に、蕗を板摺します」
「いたずりって、なんにゃ?」
「塩をつけて、まな板の上でゴロゴロするのよ」
ユメとキボウは、不思議そうに眺めているだけだった。
「沸騰した湯に入れます」
「どのくらい茹でますか?」
「色が鮮やかに変わる程度茹でたら、冷水にとります」
とりあえず少しだけやって見せ、冷水に入れた蕗を1本とった。
「フキの皮を剥きます」
「あ、これのために、大きな鍋なんですね」
「そうよ。短く切ってしまった分だけ手間が増えるのよ」
リラは皮を剥き始めたが、ユリは残りの蕗を茹でていた。
「手伝って良いにゃ?」
「ユメちゃん、お願いします」
ユメは、水に浸かっている蕗をトレーに取り出していた。
「皮を剥く以外は、フキは水に浸けておいてね。アクが出て色が悪くなってしまうのよ、フキのアクは軽い毒なので、何度か水を変えて良く晒してね」
コンロは埋まっているため、蕗も店で夏板を使って茹でているので、サエキ夫妻も皮剥きを手伝ってくれた。
「皮を剥くときは、少しずつ剥いた端をいっぺんに掴んで引っ張ると、一気に剥けて効率が良いわよ」
少しずつ剥いていたユメが、感心していた。
なにかを取りに行ったリラが、倉庫で熊笹を発見したらしく、ユリに尋ねてきた。
「ユリ様、あの大きな葉っぱはなんですか?竹の葉が大きくなったみたいな、」
「近いわね。竹と近い植物で、笹よ。竹の葉っぱは葉脈が格子状で、笹は並行なのよ」
「あれ、どうするんですか?」
「明日使う予定よ。うふふ」
「あの葉っぱ、食べられるんですか?」
「食べないわよ。用途は容器よ」
「容器?」
「明後日も使うから、楽しみにしていたら良いわ」
「はーい」
「さ、フキも全部剥けたわね。細いのは、出汁で煮て、太いのは、柔らかくなるまで茹でたら、砂糖漬けにするわよ」
下処理の終わったフキを、イトウにも分けた。
サエキ夫妻は、竹の子もあるから少しで良いと言っていた。
こごみはすぐに茹で上がるので、ここで茹でずにそのまま持ち帰ることになった。
「竹の子は、水に浸けたまま保存しますが、毎日水を変えてくださいね。1週間くらいは大丈夫だと思います」
「ユリ様、どうもありがとうございます」
茹で上がり粗熱が取れたので、茹で汁ごとタッパーウェアに入れ、サエキ夫妻に渡した。
イトウは素材状態を渡されて困らないのかとソウに聞くと、なんと、イトウは料理も得意らしい。
リラの分は、完全に冷めてから引き取りに来ることに決まり、筍狩りツアーは解散した。




