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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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蕎麦

管理人の老人は、いきなり土下座した。

もともとそんなに大きくなかった老人が、さらに小さくなった。


「えーと?できれば立ち上がって欲しいのですが」


老人は縮こまったまま、何も言わずに震えている。


「ソウ、いえ、ユメちゃーん!」

「なんにゃ?」

「どうしたら良い?」


ため息を付いたユメが、管理人の老人に声をかけた。


「バンブー立つのにゃ。ユリは怒ってないにゃ」


ユメに言われて、おどおどしながら立ち上がった。


「筍、たくさん頂きました。そのお礼を渡したかっただけなので、余程気に入らないのでなければ、受け取っていただけると嬉しいです」

「あの、あなた様は、女王陛下では御座いませんでしょうか?」

「まあ、式典の時は、そうね」

「式典の時は?他は違うのですか?」

「基本的に、私はアルストロメリアと言う店の店主です。魔力の関係で女王を引き継ぎましたが、その仕事をするのは、女王の服を着て、冠を輝かせているときだけです」


まさか、女王本人がタケノコ掘りに来るとは全く考えなかったらしい。あの場で一番偉いのが黒猫様で、その案内的なのが、ソウだと思っていたそうだ。


「世界樹様、ユリ、キボウ、ソウ、ユメ(わたし)、国王の順にゃ」


ユメが、悪気なく(とどめ)を刺してしまったらしく、気絶してしまった。

ユリへだけでなく、ソウへの失礼を理解したのだろう。


すぐにイトウが診察してくれて、何処も打った形跡はないから少し寝かせておいたら良いと言っていた。


ユリは心の中で、イトウさんって、仕事をさせると物凄くまともだわ!等と、失礼なことを考えていた。まあ、他の皆も、似たり寄ったりの感想を抱いたのは、内緒である。

皆の中のイトウの株は上がったのだろう。


すぐに目を覚ました管理人は、医師のイトウから、今日はしっかり休むようにと言われ、ユリとソウに謝ってから帰っていった。


掘った筍を全て杖で収納し、ユリは声をかけた。


「さあ、帰りましょう」


行き同様、ユリとキボウの魔力で店の前に戻ってきた。


「ハナノさん、どうもありがとう」

「急いで帰るので、お礼は後程」

「これで煮竹の子が作れます!」


森林トリオは、急いで帰っていった。竹の子を茹でる為だろう。


「ユリ様、筍の下処理を教えてください」

「数が少ないときは、ある程度剥いたら、固すぎる下部と、上部を斜めに少し切り取って、縦にも筋を入れて、米糠と鷹の爪を入れてゆっくり茹でるんだけど、数があるときは、ほぼ剥いちゃって米糠と鷹の爪を入れて茹でます。茹であがったら、完全に冷める迄そのままにします。あ、鷹の爪は唐辛子ね。米糠が用意できなければ、米の磨ぎ汁でも良いし、それ以外なら、重曹でも良いわ。他に、試したことはないけど、大根おろしでも出来るらしいわよ」


リラは真剣にメモを取っていた。


「冷めたあとはどうしますか?」

「竹の子の皮を剥いて良く洗って、水に浸けて冬箱で保存するか、塩漬けにして保存します」 

「では、帰って、」

「あとね、筍は、掘り出したらなるべく早く茹で始めることが、美味しさの秘訣よ。今お店は営業中なのでしょ?うちで茹でていったら良いわ」

「ありがとうございます!」


ユリは、覚えたいと言うダフネのために、お店に夏板を持っていき、サエキ夫妻の分を目の前で教えながら茹でた。


イトウの分を含む25本は厨房で茹で、火加減をリラに任せ、ユリは皆のお昼ごはんを作るのだった。


ユメが手伝いに来た。


「コンロは塞がってるのにゃ。どうやってご飯作るのにゃ?」

「こんなこともあろうかと、蕎麦を茹でてあるわ」

「さすがユリにゃ!」

「ユメちゃん、つるつるつる蕎麦と、鶏南蛮と、どっちが良い?」

「どっちも知らない名前にゃ」


ユメの記憶から、つるつるつる蕎麦が消えていることを、ユリは理解した。

初めて食べたときのユメちゃんは、まだ小さかった頃だったわね。


「つるつるつる蕎麦は、冷たいそば汁で、とろろ、オクラ、納豆、めかぶ、卵黄なんかが入っていて、鶏南蛮は、温かい汁で、長ネギと鶏モモ肉を煮込んであるわ」

「どっちも美味しそうにゃ!」

「あ、でも、納豆と卵黄は、慣れていない人にはハードルが高いかなぁ」


すでに茹でてあるオクラをユメが刻み、ユリは長芋をすりおろした。


少しするとリラも、沸騰したので火加減を弱めました。と言って、手伝いに来た。


「リラちゃん、つるつるする食品の他に大豆(だいず)を発酵させた食品と生卵が入った冷たい麺と、鶏とネギを煮込んだ温かい汁につけて食べる麺と、どっちが良い?」

「どちらも食べたいですが、どちらか一方と言うのなら、ユリ様と同じものを食べたいです」


リラはぶれない。

ユリが作ったものや、美味しいと言われたら、なんでも食べてみる。


「半量も作って、皆さんに選んでもらいましょう」


蕎麦は一人前で用意し、つるつるつる蕎麦の具や、鶏南蛮のつけ汁は半量も用意した。


リラとユメは両方選択し、グランとダフネは、鶏南蛮のみを選択していた。原因は生卵だと思われる。それ以外の5人は、つるつるつる蕎麦だ。


「つるつるして美味しいにゃ!初めて食べたにゃ!」


それを聞いたソウが、一瞬ユリの方を向いた。ソウもユメの記憶が無いことを悟ったのだろう。初めて食べたのはユメが小さかった頃だが、その後も、夏の暑い時期に出したことがあったのだ。


「足りない人は、お代わりもありますよ」


ユリは忘れていたが、グランもダフネも、箸が使えるようになっていた。


「あ、ごめんなさい。お箸で大丈夫だった?」

「はい。僕、使えるようになりました。貴族の方でも、箸が使えると格好良い。と言って、モテるらしいですよ」

「え?そうなの?」


グランにしてみれば、家中全員使えるので、覚えるしかなかったのだが、ユリ、ソウ、ユメ、キボウが箸を使うのだから、貴族のなかでそういう流れになるのは当然である。

ダフネは、サエキと暮らしているうちに、覚えたそうだ。


「そういえばハナノさん、蕗の薹(ふきのとう)が有ったと聞きましたが、今頃なら蕗も有るんじゃないですか?」

「川のこっち側の所に、生えていると思うわ。収穫します?」

「是非!」


イトウは、筍とか蕗とかそういったものが好きらしい。


「山菜のこごみとかは好きですか?」

「はい!何処かに有るんですか?」

「川の向こう側に、割りとたくさん」

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