再謁
今日は5月1日 日曜日。あ、ここでは、Sの日だった。
「そういえばユリ、誕生日にキボウに貰った木の実は何だか判ったの?」
「え? あー。そのままになっているわ」
ソウと話していると、キボウと出掛けようとしていたユメから声をかけられた。
「キボウと一緒に世界樹様のところに行って、質問すると良いにゃ」
「それしたら、1か月過ぎちゃわない?」
「今は、プラタナスのために時間の流れを変えているからにゃ。大丈夫だと思うにゃ」
「そうなの!?」
ユメが服のポケットをあちこち探していた。ユメの服には、たくさんポケットがあるらしい。
「それとにゃ。これ、メイプルからの注文書にゃ。サンダーソニアの同意も得てるにゃ。渡すのが遅くなってごめんなのにゃ」
ユメから受け取った手紙を読んでみると、5月5日(Tの日)が、ハイドランジアの誕生日で、直接渡せないから何かお菓子を作って欲しいという、メイプルとアネモネからの依頼書だった。
「どんなものが良いか、リサーチしたいわね」
「なら、みんなで行くか」
「いっしょ、いっしょー!」
ユメの助言で、メイプルたちには直接会えるわけではなさそうだからと、ミニホワイトボードも持参した。
ユリとソウも手持ちの正装に着替えてきて、皆揃ってユリの魔力で転移した。
世界樹の森の前に到着し、やっと気がついた。
「あ!今日、1日だったわ!」
結界がないのだ。ユリには、白い柔らかそうな床に見える。
「キボウ君、本当に、ご訪問しても時間過ぎない?」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
「キボウ、俺も着いていって、良い?」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
「私が一緒に行っても失礼にならないにゃ?」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
ユリとソウとユメは、キボウを信じ、足を踏み入れた。
キボウに連れられて、以前世界樹様に会った場所まで来た。ユリには相変わらず白い床だし、ユメとソウには綺麗な芝生だ。
「ここー」
キボウは、待機場所を案内すると、さっさと行こうとした。
「キボウ、待つのにゃ。今日のパスタにゃ」
ユメは、リュックサックごと渡していた。
「あ、キボウ、メイプルに会うなら、このボード持っていってくれる?」
ソウは、持っていたミニホワイトボードに何か書いてから、キボウに渡していた。
「わかったー」
キボウだけ奥に進んでいき、ユリには塔に入ったのが見え、ユメとソウからは姿が見えなくなった頃、世界樹様の声が聞こえてきた。
「魔法の実の件であるな」
ユリは急いで、正座をして三つ指ついて頭を下げた。
「お久しぶりにございます」
「頭を上げて良い。ソナタの服、民族衣裳であるか?」
「はい。元居た国での正装でございます」
ユリは、黒留袖を着ていた。これは、母親の形見だ。
「次回来ることがあれば、楽な装いで構わぬぞ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
日本式の挨拶は、格式が重すぎたらしい。
挨拶を交わしたあと、キボウから貰った木の実の扱い方を尋ね、日頃キボウが持ち込む料理やお菓子について、お礼を言われた。
「どうもありがとうございました」
「又、来るが良い」
ユリが謁見のお礼を言うと、少しだけ感じていた空気の重さがなくなり、体が軽くなった。同時に世界樹様の気配が消えた。
「これー」
キボウが、ミニホワイトボードを持って待っていた。
「あ、キボウ、ありがとう」
少しぼんやりしたソウが受けとり、書かれたものを、そのままぼんやり見ているようだった。ユメに至っては、全く動かずに居る。
「ユメちゃん? ソウ?」
ユリが声をかけると、2人は急に覚醒したのか、目をパチパチしていた。
「2人とも、大丈夫?」
「大丈夫だ。少しボーッとしてた」
「大丈夫にゃ。ユリは何ともないにゃ?」
「私は何ともないわ。ソウ、メイプルさんのお返事はなんて書いてあったの?」
慌ててソウは、ミニホワイトボードを見て、内容をユリに伝えてきた。
賄賂などがあると困るので、好きなものを公表はしていないけれど、果物やナッツが好きらしい。他に、目新しいものや、知らないことを知るのが大好きだと、事細かに書いてあるようだ。
最後に、このボードを譲って欲しいと締めてあった。
「キボウ、これ、メイプルに渡せるか?」
ソウは、何か書き換え、キボウに渡していた。
「いーよー」
ミニホワイトボードを受け取ったキボウは、塔に入っていった。
「ユリ、買って返すから」
「返さなくて大丈夫だけど、メイプルさんが欲しいということは、カンパニュラちゃんも欲しいのかしら?」
「あー。そうかもな。なら、大量に買ってくるよ」
すぐに戻ってきたキボウをつれ、世界樹の森を後にし、転移陣の上から城へ転移した。




