品種
「おっはようございまーす!」
予想通りというか、予想外というか、リラはとても早く来た。
「ちょっとあなた、まだ8時前よ?時計見間違えたの?」
「ノートを書きに」
なぁんだ。ノートを書くのね。
「それなら、良い、わけないわ!あなた最近ノートなんか書いていないじゃない」
「あはは」
「こんな時間から、何しに来たの?」
リラは少し真面目な顔になって、話し始めた。
「シィスが巻き寿司で、マリーがパイなので、私の希望も聞いてもらえるのかと」
そんな切実な感じに訴えなくても、何でも教えるのに。
「私にできることなら、いくらでも教えるわよ?」
「では、嵩があって、安く売れるお菓子ってないですか?」
「何に使うの?」
「お店の持ち帰りに使ったり、お祭りに提供したりです」
「うちのお菓子は食事より高いものが多いものね。前にユメちゃんから貰ったと思うけど、きな粉棒とか、ラムネは?」
「ラムネは作り方を教わりましたが、きな粉の方はわかりません」
「簡単だからそれ作る?」
「これも教わりたいですが、他にはありませんか? アラレのお餅って、高いですか?」
アラレっぽいものが良いのかしら?
「安くはないわね。具体的に、どのくらいの価格で出したいの?」
「100☆以下です」
「アラレ100☆以下じゃ、見栄えしないわね。そういうのなら、ポップコーンでも作る?」
「どんなものですか?」
「たぶんあると思うから探してくるわね」
ユリは2階に行き、戸棚からポップコーンの種を持ってきた。
「あ、これ賞味期限過ぎてるわ」
それはそうである。転移した時に持ってきたものは、長期保存缶詰等以外、賞味期限切れなのだ。未開封ではあるが、ちょうど6年前に用意したものだ。
「ダメなんですか?」
「まあ、食べなければ、作り方の説明だけするわよ」
「はい」
「手持ちのなるべく軽い大きな鍋に、底に重ならない程度に入れて、油を入れて、蓋をして、火にかけて、ずっと揺すりながら、音があまりしなくなるまで頑張ったら出来上がりよ」
「え、それだけですか?」
リラがポップコーンの種をまじまじと見ていると、キボウが来た。
「たね、うえるー?」
「あら、キボウ君。これはお菓子にするから植えないわ。あ、そうだ、これ、植えたら芽が出るの?」
「キボー、みる?」
「お願いします」
キボウはポップコーンの種を選り分けてくれた。
「◯△□※▼ー」
キボウは何か呪文のようなものを唱えながら作業していた。そして、分け終わったらしい。
「ダメー。だいじょぶー」
左がダメなもので、右が大丈夫らしい。ダメなものが1/3くらいある。
「大丈夫なものを少しだけ植えましょうか?」
「キボー、うえるー!」
キボウは、何粒か持って、行ってしまった。
「ダメだと言われたのは捨てて、大丈夫と言われたもので、実際作ってみましょう」
「はい!」
ポップコーンを作っていると、少し慌てたユメが階段を下りてきた。
「何があったにゃ!?」
「ユメちゃん驚かせてごめんなさい。ポップコーンを作っているのよ」
バンッバンッと、かなり大きな音がする。
ユリが鍋を揺すり続け、音が少しくぐもって来た頃、火を止めた。
「さあ、できたわ。こんな感じよ」
ふたを開けると、鍋にたっぷりとポップコーンが入っていた。
「あ!これ知ってる!」
「あら、知っていたのね」
「あ、いえ、作り方は初めて知りました。こんなに簡単だったんですね。って、どうしてこうなるんですか?昔試したけど、こうならなかったんです」
「試したって、普通のコーン?」
「え、もしかして専用のがあるんですか?」
「料理に使うコーンと、ポップコーンのコーンは、品種が違うのよ」
「そんな理由だったのかぁ。あああああ」
長年の疑問が解けたらしい。ポップコーンは、ポップ種や爆裂種と呼ばれる品種でしか作れないのだ。
「出来上がってすぐ、塩を振れば良いわ」
「はい。他に甘いものは何かありませんか?」
「キャラメルポップコーンでも作る?」
「糖化クルミとか、甘いヒナアラレみたいのなですか?」
「その理解で合っているわ」
ユリはさっと、フライパンで生クリームと砂糖を使いキャラメルソースを作り、できあがっているポップコーンを絡めた。
「マーブル台にあけるから、適当に離してくれる?」
「はい!」
「手伝うにゃ!」
リラはそのまま、ユメは新しい炊事用の手袋をして、手伝ってくれた。
「熱!」
「ユリ様は無理しないでください」
「ユリも手袋したら良いにゃー」
ユリが熱いものを触るのが苦手なのを皆に把握されていた。
「いつ食べられるのにゃ?」
「ユメちゃんごめんなさい。これ、賞味期限が4年過ぎているのよ」
「にゃ!?」
ユメが唖然としていると、キボウが戻ってきた。
「キボー、きたー」
「キボウ、どこに行っていたのにゃ?」
「はたけー」
「キボウ君、とうもろこし植えたの?」
「うえたー」
一応聞いてみようとユリは思った。
「ねえキボウ君、これ、食べられる?」
「だいじょぶー」
発芽するといわれたものだけ使ったが、まだ少し心配だ。
「何か呪文を唱えていたわよね?何の呪文?」
「ときもどしー」
解き戻し? いえ、時戻し!?
「コーンの時を、植えて芽が出るように戻したの?」
「あたりー!」
「食べてみて良いにゃ?」
「はい、どうぞ」
リラとユメとキボウが一斉に食べ出した。
「美味しい!なにこれ!」
「美味しいにゃ。初めて食べたにゃ」
「おいしー、おいしー!」
3人は、食べ続けていた。
「あと引く味!」
「止まらないにゃ」
「おいしー、おいしー!」
あ、不発だった残った種は、噛ったら固いわよ?
とうとう最後まで食べ尽くしていた。
「それでどうする?種、買ってくる?」
「おいくらですか?」
「1kg で、500☆くらいね。使う量はさっき見たでしょ。しっかり食べる感じでも、一人前20~30gくらいよ。こちらにもあるなら、それを購入すれば良いし、とりあえず買ってきて使えば良いわ」
「では、お願いします!」
ちょうど食べ終わったところに来たソウが、俺も食べたかったと言って、すぐに買いに行ってくれた。
ユリの台詞で、油を入れる前に蓋をしていたのを、修正しました。




