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アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

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病人

「ユリ」


振り向くと、ユメが困った顔をして立っていた。


「ユメちゃんどうしたの?」

「どうしたら良いかわからないにゃ」

「話してくれる?」


ユメの話によると、先程の女性は男爵家のメイドで、料理人が急病のため、他の者達では来客に出せるレベルの料理が作れず、メインくらいはどうにかしようと、買いに来たらしい。急病だという料理人には、ユメがパウンドケーキを食べさせたが、体力的に料理を作れそうになく、買って帰った7つは、来客4人と、館の主人と奥方と娘の分で、メイドなどの使用人の分は含まれていないのだそうだ。

ひとつ多く買ったサクラムースは、寝込んでいた料理人のお見舞いにと買ったらしい。

今日は、昼から娘の婚約者が来るそうで、屋敷中バタバタなのだとか。


主人や奥方は、けして非情な人と言うことではなく、使用人の分の食事まで、頭が回っていないらしい。


「全員食べるには、あと何人分必要なの?」

「あと、あの屋敷にいるのは、8人にゃ!」


来客4、男爵家の家族3、使用人8ということらしい。


「私が何か作っても良いの?」

「本当は頼みたかったらしいにゃ。でも、不敬だと諦めたと言っていたにゃ」

「うふふ。それなら、何か作りましょう。ところで、キボウ君は?」

「キボウは、庭の植木を見て回っていたにゃ。私は一度戻ると伝えてあるにゃ」


ユリは、手早くサンドイッチと海苔巻きとカットフルーツを、大皿盛りにした。更に鞄からチューリップ唐揚げをだし、その横に添えた。


「ユメちゃん、こんな感じで良いかしら。あと、8人分は、一人前の方を持っていって良いわ。器だけ返しに来るように伝えてね」

「ユリ、ありがとにゃ!」


ユリから、大皿盛りと8人前の鶏丼を受けとると、ユメは嬉しそうに笑い、転移していった。


ユリは忘れないうちにと、外にいるマーレイとイリスに、一人前用の券を8枚もらいに行った。

ユリが戻ってくると、ソウが話しかけてきた。


「スマルトブルー男爵家か」

「ソウ、知ってるの!?」

「ユメが確認に来たからな」

「確認?」

「男爵家の場所と、実在するかのな」

「さすがユメちゃん!私なら、そのまま信じちゃうところだったわ」

「あはは。怖いこと言うなぁ・・・」


そうね。実在しない名前を名乗って、誘拐や良からぬ事を企む人がいないとも限らないのね。

ユリは、ユメの堅実さや、ソウの知識の凄さに感心したのだった。

ソウの説明によると、スマルトブルー男爵家は、男児が生まれず、婿養子としての婚約者なら、尚更大事に扱うのだろうとのことだった。



「ハナノ様ー」

「はーい」


店に顔を出すと、食べ終えた二人が、一旦家に置きに行くと挨拶してきた。


「半鶏丼は受け取りました?」

「はい。作りたてをメリッサちゃんが渡してくれました」

「メリッサさんとも知り合いなの?」

「メリッサちゃんは、最初わからなかったみたいですけど、幼馴染みなんです」

「そうだったのね。合計一時間休んで大丈夫だから、慌てずにいってきてくださいね」

「はい」「ありがとうございます」


半鶏丼を持参したらしき袋に入れ、二人は家に戻っていった。


「マーレイさん、イリスさん、整理券って、何枚くらい配りました?」

「初回分と次回分はなくなりまして、今、3回目の分を配り始めました」

「えー!まだ11時過ぎよね?開店まで2時間近くあるのに」


ユメとキボウが50、ココナツ食器店が8、先程のスマルトブルー男爵家が8、つまり、初回販売分として、136個の用意があったので、合計234個以上がすでに売約済みと言うことだ。単純計算で、開店2時間前に、60人くらい並んでいたと言うことになる。


「予定数で足りないのかしら?」

「増産しますか?」

「うーん、残ったら明日売れば良いから、増やした方が良いかしらねぇ?」


ユリは厨房に戻り、マリーゴールドに相談することにした。


「マリーゴールドちゃん、現時点で既に240個分くらい整理券が出ているらしいんだけど、足りると思う?」

「足りるまで作るとなると、今日中に営業が終わらないのではないかと思われます」


「ユリ、足りるまで作るのは、無理だと思うよ」


マリーゴールドと相談していると、ソウから言われた。


「どうして?」

「店で対応するのは、イリス、メリッサ、ユメの3人だろ?作れたとしても、売るのが間に合わないと思うよ」


全員が4個ずつ買ったとしても、25人対応するのだ。約2分に1回対応しなければならない。販売のみの店ならまだしも、喫茶を営業しながら対応するのだから、負担が大きすぎると説明された。


「どうしたら良いかしら」

「簡単な対応策として、袋に入れて用意しておき、渡すだけにする。買って帰るのみの客は、店内に入れず外で受け渡す。お釣りがでない料金設定にする。だな」

「料金は、お店始めた頃は考えていたんだけど、結局、お釣りがでないように払っていくか、お釣りをそのままおいていく人に二分(にぶん)されるのよ。袋には入れるわ。外で販売は、思い付かなかったわ」


「あの、ユリ様」

「メリッサさん、なあに?」

「人が足りないのでしたら、知り合いを連れてきましょうか?」

「そういえば、メリッサさん、あなた鞄から出せるようになった?」

「えーと、試していませんが、言われた練習はきちんと続けています」

「ユメちゃんのリュック、あ、ユメちゃん今居ないわね」

「なら、俺の鞄から出せるか試すか?」

「良いの?」

「今、(たい)したもの入ってないしな」


ソウの鞄を借り、メリッサが取り出せるか試してもらうことになった。


「あ!中身がハッキリ判る!パウンドケーキ取り出せました!!」

「おめでとう。良かったな」

「おめでとう。良かったわね。だったら、知り合いを1人連れてきてくれる?今来るなら、お昼ご飯も出すわよ」

「今、行ってきて良いのですか?」

「開始3時間の売る分は作り終わっているからね。外のイリスさんと代わってもらうわ」

「では、急いで行って参ります!」


メリッサはエプロンをはずし、走りだした。

ユリも急いで外に出て、声をかける。


「走らなくて良いわよー」

「はーい」


返事をしながらもそのまま走り、見えなくなった。

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