配達
手の空いたマリーゴールドが、サクラムースの仕上げを見に来た。
「朝顔型のガラス容器の上に、半球型をのせます。凍っている場合は、接続部分に、ほんの少しだけ生クリームを絞っておくと、ずれて動いたりしません。全て形にしたら、桜の絞り口金を使い、薄ピンク色の生クリームを絞ります。上には、桜の花弁形に抜いたゼリーをのせてください」
「とても可愛らしい仕上がりですね!」
「半球型をのせてあるのを先に使って仕上げてください。予定は500個です」
「はい」
「ハナノ様、ハナノ様」
店から呼ばれた。まだ客はいないので、外で券を配っている二人のどちらかだと思われる。
「はーい」
ユリが顔を出すと、心配したのか、ユメもついてきた。
「どうしました?」
見たことのない、恐らく貴族の従者と思われる人が後ろに立っていた。
「あの、こちらのかたが、どうしても7つ欲しいとおっしゃるもので」
見たところ、一人で来ているようだった。服装は、メイド風の女性だ。女性が買い物に来るのは、とても珍しい。しかも一人だ。
「お一人でいらしているのですか?」
「はい。急遽、使いで参りました。いくら出しても構わないから、7つ入手してきて欲しいと、奥様から頼まれております。どうにかならないでしょうか?」
ユリがどうしようかと悩んでいると、ユメから袖を引っ張られた。
「ユリ、ソウみたいに手数料取って、私が届けるにゃ?」
「え、ユメちゃんそれで良いの?」
「馬車で来ているなら、キボウにも手伝ってもらうにゃ」
「キボウ君に聞いてみましょう」
さっと、ユメが聞きに行き、ユメはキボウをつれて戻ってきた。
「大丈夫にゃ」
「キボー、てつだうー」
「家はどこなのにゃ?」
「は、はい!」
メイド風の女性は、ユメに詳しい名前などを名乗り、場所の説明をしていた。どうやらここから1時間くらいの距離らしい。
「ちょっと待っててにゃ」
ユメは奥に行き、少しして戻ってきた。
「ユリ、出来ているのを持ち出しても良いにゃ?」
「11時前かぁ。まあ、良いわ。城にも先に渡しているものね」
「ユリ、いくら取れば良いのにゃ?」
「持ち帰り半鶏丼は、600☆よ。サクラムースは要らないのかしら?」
メイド風の女性を見ると、質問してきた。
「そちらは、本日のお菓子でございますか?」
「そうよ。今日、明日の新作よ」
「可能でございましたら、8つお願い致します」
「大丈夫よ。って、8つ?鶏丼は7つで良いの?」
「はい」
「少し用意してくるわね。ユメちゃん厨房へ来てください」
「わかったにゃ」
ユメをつれて厨房へ行き、ユリは8個ずつと、パウンドケーキを渡した。
「食べない人が、さっきのメイドさんなら、ユメちゃんからと言って、鶏丼のもう一つは差し上げて良いわ。サクラムースは、700☆よ。あとね、女性が一人で来ることになった理由が、他の人の病気だったら、病気の人に、『女神の慈愛・パウンドケーキ』を、食べさせてね」
「わかったにゃ!」
ユメはキボウをつれ、転移していった。
即キボウだけ戻ってきて外に出て、馬車とメイド風の女性をつれていった。
ユリは厨房に戻り、サクラムースの仕上げを急いだ。
時計が11時を指した。
「マーレイさん、外の二人と少し代わってもらえるかしら?」
「かしこまりました」
「ユリ様、私も行ってきてもよろしいでしょうか?」
「はい。イリスさんもお願いします」
知り合いの二人が、一人で食べることになるのは寂しいだろうと、イリスも整理券配布を手伝ってくれるらしい。
「メリッサさん、2人前、用意してもらえるかしら?飲み物は、好きなものを頼むように伝えてね」
「はい」
ユリは鞄から、鶏丼を2人前取り出した。メリッサが、カトラリーと共にトレーにのせ、店に持っていった。
「あれ?皆、居ないの?」
ソウが、仕事が終わったのか、2階から下りてきた。
厨房に、ユリとマリーゴールドしか居ないので、不思議に思ったらしい。
「メリッサさんは、お店にいるわ。マーレイさんとイリスさんは、整理券配布の交代で外にいるわ。ユメちゃんとキボウ君は、鶏丼をもって、メイドさんを送っていったわ」
「成る程。俺、手伝うこと有る?」
「忙しいなら無理しなくて大丈夫よ」
「あ、いや、仕事終わったから、暇になったよ」
何を頼んだら良いかと、ユリは考えてみた。
「鶏丼の盛り付けか、サクラムースの仕上げか、クッキーの仕込みかしら」
「サクラムースの仕上げって、俺でもできるの?」
「試してみて無理そうなら、自分で食べて消費すれば良いと思うわ」
「なら、やってみるよ」
横でマリーゴールドが仕上げをしているので、見本には困らない。
「その生クリームはさすがに無理そうだから、俺が花弁のゼリーをのせるのでも良い?」
「ありがとう。助かるわ」
桜形に絞る生クリームは、無理だと判断したらしい。
メリッサが厨房に来て、ジンジャエールを作っていた。
「二人のリクエストは、ジンジャエールなの?」
「はい。なので、私が作りました」
「メリッサさん、ありがとう」
飲み物は、手が空いていれば、作ってくれる。厨房でないと作れないのは、ココア、アイスココア、冷凍イチゴミルク、ホットミルク等の調理の行程があるものだ。
後ろに人の気配がした。




