清青
「今日のランチは、袋サンドイッチです。他に、鶏のチューリップ唐揚げと、ブロッコリーの唐揚げと、アスパラの串揚げがあります。冷たいスープの他、飲み物は冷茶があります」
ユリは、大皿の揚げ物の他、袋サンドイッチやお茶やスープを5人前取り出した。
「ユリ様、なぜ、スープカップが5人分有るのですか?」
リラは、サンドイッチはともかく、他のおかずなどは、自分の分はないだろうと考えていたのだ。
「うふふ。予知した訳じゃないわよ。いくつかカップに入れて鞄にしまってあるだけよ。だから、まだあるわ」
驚くリラを見て、なぜか、ユメが笑っていた。
テラスからは、長い房の紫色の藤の他、まだ咲き始めの白い藤が見えた。他にも、房は短めだが、一つ一つの花がかなり大きめのピンク色の藤も見える。
皆、サンドイッチから、食べ始めていた。
「ユリ、美味しいにゃ!」
「おいしー、おいしー」
「旨いな!さっき見ていて、早く食べたかったよ」
「食べる前から美味しそうだったけど、やっぱり美味しいですね!」
「みんな、ありがとう。シィスルちゃんと、マリーゴールドちゃんにも差し入れしてきたからね」
「ありがとうございます!」
ユメがおかわりしたいらしく、尋ねてきた。
「ユリ、何個作ったのにゃ? まだあるにゃ?」
「食パンで4斤分、サンドイッチとして、40個よ。でも、ちょうど半分配ったわね。みんな、合計4個まで食べられるわよ」
「おかわりするにゃ!」
「キボーも、キボーも」
ソウも食べるかと思ったのに、何も言わないので、不思議に思ったユリが横を見ると、ソウはニコニコと、皿ごと寄せた鶏のチューリップ唐揚げを食べていた。山盛りあったはずが、かなり減っている。ソウの皿には、チューリップの茎が山盛りだ。
「ユリ様、私もいただいて良いですか?」
「はいどうぞ。揚げ物も食べてね」
リラに袋サンドイッチを渡し、頼まないソウをじっと見ていると、気がついたのか、慌てていた。
「ユリ、どうした?」
「サンドイッチはもう要らない?」
「え?食べるよ。なんで?」
「渡して良い?」
「うん。ありがとう」
ユリがソウに話しかけている間に、ユメが皿ごと引っ張って、揚げ物を丸テーブルの中央に戻していた。
全て食べ終わったところで、預かっていたサクランボを取り出し、配った。
「えーと、11個かぁ。なら、どうせ持ち帰るのでしょ?あなたにあげるわ」
ユリがリラに3つ目を渡した。
「キボー、たべるー!」
「キボウ君、食べたいの?」
リラが、気を使ってキボウに渡そうとした。
リラを制止し、ユリは自分の分からキボウに分けた。
「はい。どうぞ。キボウ君」
「ユリ、ありがとー」
「なんだ、なら俺は」
ソウは、ユメに1つ渡し、ユメとキボウとリラに3個ずつ、ユリとソウが1つずつになった。
「ソウ、良いのにゃ?ありがとにゃ!」
「リラちゃん、持ち帰るなら、このケースごといる?」
「ありがとうございます」
リラは食べずに、全て持ち帰るらしい。
ユリは鞄からドラゴンフルーツを出して、皆に配った。
「それ食べたら、次に行きましょう!」
屋敷の外に出て、ソウがユリを先に連れていこうとしたら、キボウに阻まれた。
「キボー、さきー」
「キボウを先に連れていくのか?」
「あたりー」
主張しているので、とりあえずその通りにした。
ソウがキボウを連れ転移すると、即戻ってきたキボウが、ユリ、ユメ、リラを連れ転移した。
「うわ。ビックリした。来たと思ったらキボウいなくなるし。皆を連れてきてくれたのか。キボウ、ありがとう」
「キボウ、役立つのにゃ」
「キボー、やくだつー、キボー、やくだつー」
「キボウ君は、どこでも制限がないのね」
「キボウ君、ありがとうございます」
「よかったねー」
そして皆は辺りを見回した。
「うわー!空まで届く、柔らかく清らかな青。これはネモフィラですか?」
「そうね。ネモフィラね」
「ネモフィラ、ネモフィラー」
小高い丘の全てが、ネモフィラで埋め尽くされていた。
「凄いにゃ。何処まで有るのにゃ?」
「なんでも、500万株植わっているらしいよ」
500万株?全員が、多すぎる数字に理解が及ばない。
「数字で言われても、全くわからない数ね」
「その丘を上って、 見渡したら良いよ」
近くまで行くと、人が通れるように、小径がある。皆で連なって、丘の上まで登った。
「木とガゼボと空しかない。あとは、ネモフィラだけ!」
「凄いわね。壮観ね」
「何処までも青いにゃ!」
「あおーい、あおーい」
「空との境まで、ネモフィラなんだな」
見渡す限り、ネモフィラが咲いている。向こうに見える丘の上にガゼボがあり、所々に木があり、他に目に映るものは、青い空と、ネモフィラだけだ。
「すわるー!」
「ガゼボまで行ってみるにゃ!」
「そうね。行きましょう!」
ガゼボに座りたいらしいキボウが、走り出した。
「慌てて転ぶなよー」
「あのガゼボ、ネモフィラの海に浮かぶ小舟のようですね!」
なら、木はなんだろう?
ソウは、後ろにいるリラの言葉を疑問に思ったが、あえて突っ込まなかった。
実際の低年齢層は居ないはずなのに、子供の集団がはしゃいでいるように見える。
まあ、自称4歳と自称1歳ばかりなので、本当に一番若いはずのリラ18歳は兎も角、背が小さい組は、はた目には子供に見えるのだ。
ガゼボの前につくと、ユメが不思議そうにし、ユリが喜んだ。
「テーブル、ガタガタにゃ?」
「うわー!このテーブル、ネモフィラになってるわ!」
「みるー、みるー!」
ガゼボに入るには、一段高くなっており、中心にテーブルがあり、上から見ると、ネモフィラを象り、色をつけてあった。テーブルの上にはガラスがのっている。五角形らしき建物の内壁の模様にもネモフィラが描いてある。
ユリは、視線が低く見渡せないキボウを抱き上げ、テーブルを見せた。
「ネモフィラー、ネモフィラー!」
ゆっくり歩いてきた、ソウとリラが到着した。
「なにやってるの?」
「キボウ君にテーブルを見せていたのよ」
テーブルと内壁を見たソウが、疑問を呈した。
「すぐそこに本物があるのに」
「でも素敵でしょ?」
「咲いていない時期にいらしたお客様のためにでしょうか?」
「成る程にゃー」
「すてきー、すてきー」
リラがキョロキョロし、悩んでいるのが見えた。
「リラちゃん、ネモフィラも描く?」
「良いんですか?」
「では、このガゼボが見える場所限定で、自由時間にしましょう」
「ありがとうございます!」
「私も見て回るにゃ!」
「キボーも、キボーも!」
3人は、良い位置取りを探すために、行ってしまった。




