表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルストロメリアのお菓子屋さん (本文完結済) ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

501/690

藤園

先程と同じ場所に到着すると、すぐにソウも、ユメとキボウを連れて現れた。

[oiaroino oi olicine]の看板がある。何度見ても意味がある言葉に翻訳されない。


「さっきも思ったけど、これ、何て書いてあるの?」

「あー、看板、消えちゃってるな」

「読めないにゃ」

「うわ、読めないです」

「よめなーい、よめなーい」


誰も読めないらしい。ところが、ソウは看板を見ながら消えた文字を指摘し、答えてくれた。


「これは、恐らくgiardino di glicineで、イタリア語の『藤園』かな」

「ソウ、さすがね!」

「ソウ、凄いにゃ」

「ホシミ様、凄いです!」

「すごーい、すごーい!」

「あはは。ありがとう」


門をくぐり、園の中に入った。

外からは全く見えないような作りの理由は、 その光景に圧巻と思わせるためだったらしい。


長く連なる美しい藤紫が、無限を思わせる。それは、見えない向こうまで続いている。


「うわー」「凄ーい」「これは凄い」

「綺麗にゃー」「きれー、きれー」


入り口で立ち止まる5人は、藤のあまりの美しさに、心を撃ち抜かれていた。


「想像よりも、凄いわね。いくつくらい咲いているのかしら?」


数えきれないほどである。

ふと見ると、園内の地図らしきものがあった。

それによると、今見ている藤よりも大きなスペースで描かれた場所がある。地図には、おおよその花の色と品種らしき名前が書いてあった。


「せっかく来たのだから、他の花も見ましょう」

「行こうか」

「楽しみです」

「見に行くにゃー!」

「みるー、みるー」


今見ている藤を回り込むように進むと、今度は、愛らしいピンク色の藤があった。柔らかいピンク色で、房はそれなりに長いのに、一つ一つの花が小さく、とても可憐だ。


「紫色の花は高貴な美人って感じですけど、ピンク色の花は可憐な美少女みたいですね」

「リラの表現が凄いにゃ」

「リラ詩人だな」


ソウのそれは、多分誉めていない。


「確かに可憐ね」


ソウがユメに声をかけた。


「ユメ、その辺に皆で並んでくれ」

「わかったにゃー」

「はーい」

「ならぶー、ならぶー」

「リラも来てにゃ」

「え、はい。なんですか?」


とりあえず、訳もわからずリラも並んでくれた。


「良いぞー」


解散し、又自由に見て回った。


少し歩いたところで、ユリが声をあげた。


「あ!私の好きな花がある!」


ユリが早足で歩くと、皆ついてきた。


「うわー!なんですか?これ、これも藤なんですか?」

「これは、八重の藤よ。リラちゃん」

「この花は、妖艶な美女って感じですね!」

「知らなかったら、藤ってわからないにゃ」

「きれー、きれー!」

「へえ。これ藤なんだ。落ちてる花が、全く違うんだな」


八重の藤は、一つ一つの花がボンボンのように、フリルのような花びらでできている。紫色の小振りの八重桜なようなイメージだ。


「美味しそうね。うふふ」

「ユリ、藤、食べるのにゃ?」

「藤は毒があるらしいから食べないわよ。加熱して毒抜きすれば、少量なら食べられるらしいけど、曲がりなりにも飲食店を経営しているのに、店主が食中毒になったら目も当てられないわ」

「確かにな。食中毒は不味いよな」

「禁忌ですね」


キボウが心配そうにユリを見ていた。


「ユリー、ウィステリアたべる?」

「藤は食べないわよ。要らないわ」

「キボー、あんしん」

「キボウに心配されてるにゃ」

「あー、あー、あー。次、行きましょう!」


ばつが悪くなったユリは、ごまかすことにした。

本当は、キボウは花を取ってくれようとしたのである。

そもそもユリは、軽い毒なら、無毒化できることだろう。


「ユリ様、藤って、他の色もあるんですか?」

「白い花もあるわよ」

「紫、ピンク、白だけなんですか?」

「そうね。濃淡の差や房の長さの差はあるけど、色はその3色ね」


「ユリ、あれはなんにゃ?」


ユメの指差す方向にあるのは、黄色い藤に見える花だ。


「あー、これは、通称、黄花藤(きばなふじ)。ゴールドチェーンとか、金鎖(きんぐさり)が、正しい名前ね。藤に似ているけど、藤の種類ではないのよ」


「そっくりにゃ」

「良く似ているわよね」


「あー、あれが白い藤ですか?」


リラが指差した方向にあったのは、藤棚ではなく、木立した大きな木に、小さく短めの白い房が咲いている。そしてとても良い香りがする。


「あれは、恐らく、針槐(はりえんじゅ)。アカシア蜂蜜の花で、ニセアカシアとも呼ぶわね。 本来のアカシアと言う花は黄色く形も違うのに、なぜこの白い花をニセアカシアと呼ぶのかしらね」

「良い匂い!なんだか、幸せそうな花ですね」

「え? うん。良い香りの花よね」


とうとうリラの発想が、ユリも理解できなくなってきたようだ。


「向こうに、一番広い藤棚があるぞ」


ソウの呼び掛けで、皆、移動した。


「わー!なんだか凄い!」

「まー!九尺藤かしら!」

「長いにゃ!」

「ながい、ながーい」

「房が1m以上ありそうだな」


その藤は、とても長い房の藤で、少し高めの藤棚から地面につきそうなほど長い房を垂らしていた。向こう側を見通せないほど広い藤棚で、仄かに風に揺れている。


「うわー!貴婦人って感じですね!」

「それは、何となくわかるわぁ」

「こんなに長い房の藤は、初めて見たにゃ!」

「これは見事だな」


皆が、その見事さに感心していると、ユメから呼ばれた。


「ユリ、ソウ、ちょっと、そこの前に立つのにゃ」

「おー」「はーい」


ユメがじっと見つめる。


「もう良いにゃ」


ユメの気が済んだところで、リラに声をかけられていた。


「あ!ユメちゃん、私の荷物、出していただけますか?」

「袋にゃ?」

「はい」


リラは、ユメから袋を受けとると、ユリとソウに何か頼みたいらしく、話しに来た。


「少々お時間いただけませんでしょうか?」

「良いけど、どうするの?」

「構わないぞ。なにするんだ?」

「花をスケッチしたいです」


「良いわよー。あちらに有る椅子に座っているから、もしくは、出掛けても必ず戻ってくるから、好きに描いたら良いわ」

「ありがとうございます!」

「リラが描いている間に、俺は管理者と会ってくるよ」


約1時間、藤園の中で自由行動となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ