売切
売れ行きが気になり、ユリはイリスに聞こうと思い、店に顔を出そうとし、そこで見てしまった。
「カトラリー!」
「あ、ユリ、手掴みは無理みたいにゃ」
殆どの人が、海苔巻きをナイフとフォークで食べていた。
若干いる、手で食べている人は、恐らくご近所の良く見かける人たちだ。厨房から店を覗いていたユリに、気がついたユメが答えてくれた。
「食べ難くないのかしら?」
「手掴みは抵抗有るみたいにゃ」
「え、だって、この国でもパンは手掴みで食べるでしょ? 海苔巻きは、おにぎりと同じようなものなのに」
「ユリが言えば、みんな従うにゃ」
確かに、ユリが言えば、皆従うと思われる。
「強制はしたくないわ」
「ユリは何しに来たのにゃ?」
「あ、売れ行きを聞こうと思って」
ユメは、イリスとメリッサに確かめてきてくれた。
「売れ行き的には、既に半分以上出ているらしいにゃ」
「やっぱりそうなのね。店売り、細工巻きしか出ないものね。トーストとか、飽きたのかしら?」
「限定品から売れるのは、仕方ないと思うにゃ」
「それもそうね。なら、240組作るつもりで、頑張るわ」
ユリが店の出入り口そばから厨房へ戻ると、リラとマリーゴールドが、細工巻きを手伝っていた。丁度お昼休みらしい。
「マリーゴールドちゃんが作りたいのはわかるけど、リラちゃんまで」
「え!マリーは良くて私はダメなんですか!?」
「あなたは明日作るじゃない」
「あ、そういう意味か!」
「手伝ってくれるのは、物凄くありがたいけど、ちゃんと休憩してね」
「はーい」「かしこまりました」
「ユリ様、私が作るので、ベルフルールのみんなに買って帰っても良いですか?」
「構わないわよ。作ってくれるなら、買わなくて良いわ」
「ありがとうございます!」
リラとマリーゴールドは、急いで6人分(巻き物にして10本)を仕上げていた。
「ホシミ様、1本だけ作らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「おー、良いぞ。その間、少し休憩するよ」
「ありがとう存じます」
「マリーゴールドー、キボー、てつだうー」
「キボウ様、ありがとう存じます」
ソウが場所を明け渡していた。キボウは引き続き、皮を水でふやかしてくれている。
「お父さん、少し場所借りて良い?」
リラがマーレイに頼んでいたので、ユリが声をかけた。
「マーレイさん、その間休憩したら良いわ。何か好きなもの飲んでね」
「ありがとうございます」
リラとマリーゴールドは、大分慌てて作っているようだった。
「ねえ、リラちゃん。巻き簾、要る?」
「はい!お願いします!」
「予備を考えなかったら、いくつ必要?」
「3つお願いします」
「なら、これ。私が予備として持って来た分だけど、差し上げるわ」
「ありがとうございます!」
「予備を欲しいなら、そんなに高くはないから、注文してね」
「はい!」
ユリは倉庫から、洗濯バサミがたくさんついた洗濯物干しハンガーを持って来た。
「洗ったらしっかり乾かさないと、とたんにカビるからね。これに干すと良いわ。これもあげるから、使ってね」
「ありがとうございます!」
厨房でも使っているので、使い方の説明は不要だ。
リラとマリーゴールドは、超特急で6人前を作り、バタバタと帰っていった。
「嵐のようだったわね」
「私がマリーの分を持っていったのを、他の従業員に見られてしまったらしいです」
「あら、それは、悪いことをしてしまったわね。次回から、皆さんの分も持たせた方が良いかしら?」
「何だかんだ、女性が店に食べに来るのは難しいのだと思います」
開店してから店で食べた女性客は、休みの日に招いたアルストロメリア会のメンバーと、旅の途中に寄った家族くらいなのだ。あとは、従業員とその身内だけであり、営業中に食べたことがあるのは、花梨花とシィスルとマリーゴールドだけだ。花梨花は、男装して来ていた。
予定数210組(持ち帰り120、賄い8、店内飲食予定75、失敗など1)を作り終えた。リラたちが6食分作っていったので、材料的には、30食分残っている。
「残りの30食分も仕上げてしまいましょう。これは、皿盛りではなく、箱詰めします」
4時を過ぎると、普通の注文も入るようになってきた。
細工寿司は普段より値段が高いので、軽食のつもりで来た場合、持ち合わせが足りないのだろう。
あちこちを手伝っていたユリは、夕食を作り始め、一番早く作り終わったソウが、洗い物を始めた。
「ホシミ様、洗い物でしたら、私が」
「いや、巻くの飽きたから。でも、マーレイこそ飽きたよな」
藤の海苔巻きは、他の巻物の6倍作る必要があるのだ。
「いえ、海苔巻きを作るのは、とても面白いです」
「なら、やっぱり、俺は飽きたから洗い物するよ」
「かしこまりました」
マーレイは物凄いスピードで藤の海苔巻きを終わらせ、ユリに確認に来た。
「ハナノ様、次に、何をしたらよろしいでしょうか?」
「巻きたいなら、シィスルちゃんを手伝って、巻かないなら、夕飯の手伝いかしら」
「巻物のお手伝いをして参ります」
シィスルは、マーレイに梅の細巻きを頼んでいた。
少しの間休憩していたキボウが、ユリに確認に来た。
「ユリー、キボーてつだう?」
「キボウ君、ありがとう。明日用の箱を60組組み立てるのと、シィスルちゃんの手伝いで頼まれた材料を渡すのと、夕飯の手伝いと、どれが良い?」
「わたすー!」
「お願いします」
キボウは、シィスルの助手をするらしい。
今ある洗い物が終わり、ソウは出来た海苔巻きを箱詰めしていた。
ユリも夕飯の目処がたち、細工巻きに戻った。
「ユリ、持ち帰りまだ追加作れるにゃ?」
「今作っている30組が最後よ」
「わかったにゃ。助かったにゃ」
鞄の在庫より多く、注文を受けてしまったらしい。
出来上がっている寿司折りをいくつか持って、ユメは店に戻っていった。
閉店時間になり、
持ち帰り用の寿司折りは完売。店内用の皿盛りは、1食残ると言う結果になった。イチゴババロアに至っては、持ち帰る客で、早々に売り切れたそうだ。個数制限をしなかったのが原因らしい。明日分まである予定だったので、ユリが驚いた。
「ほぼ完売ね。皿盛りだけど、折りに詰め替えて、メリッサさんがお土産に持ち帰ると良いわ」
「箱がもったいないです。お皿は明日返すので、このまま持ち帰っても良いでしょうか?」
「え、持ち難くない?」
「問題ないです!」
メリッサは、ニコニコしながら皿盛りの細工寿司を持ち、帰っていった。
「申し訳ないけど、ご飯のあと、残業できる人だけお願いします」
「はい!」「はい」「はい」「手伝うにゃ!」
「あ、俺も」「キボー、てつだうー」
シィスル、イリス、マーレイ、ユメ、ソウ、キボウ。
メリッサが帰ったあと、残った全員が残業してくれるらしい。
ご飯を食べながら確認された。
「ユリ、なに作るの?」
「明日分のイチゴババロアよ。400あったはずなんだけど、売り切れたらしいわ」
「のり巻き手伝ってたから、知らなかった」
「朝作る時間無いと思うのよね」
「明日も早く来ます!」「なるべく早めに参ります」
「イリスさん、マーレイさん、ありがとう」
「ユリ様、明日、マリーと少し手伝いに来ても良いですか?」
「とてもありがたいけど、休まないの?」
「週のお休みのうち、片方は勉強をするようにしているので、丁度良いです」
「絶対に無理しない程度なら良いわよ。よろしくお願いします」
「はい!」
少し食休みをしてから、仕込みを開始した。
「器の用意、計量、仕込み100個分ずつ5回です」
さっと、マーレイとイリスが器の足りない分を洗い始めた。
シィスルとユメが計量を始め、ソウとキボウが、聞きながら手伝いを始めた。
ユリが器具類の用意をし、シィスルと二人で仕込みを始めた。
ユメとソウが引き続き計量をし、終わり次第、出来上がったものを冷蔵していった。
2回目からは、ユリとシィスルが別れて、ユリはユメとソウを助手につけ、シィスルはマーレイとイリスを助手につけ、同時に仕込んだ。
キボウは、洗い物を流しに運んだり、冷蔵庫の扉を開けたりしてくれていた。
シィスルが戻らないことを心配したのか、リラとグランが訪ねてきた。
「こんばんは。珍しいですね、残業ですか?」
「こんばんは。遅いので、迎えに参りました」
「あら、リラちゃん、グラン君、こんばんは。イチゴババロア全部売れちゃったのよ」
「えー!Gの日に、400仕込みましたよね?」
「そうね。それ全部、早い時間に売り切れたらしいわ」
「うわー。細工寿司はいくつ作ったんですか?」
「リラちゃんたちが作ったのを含めて240人前ね」
「あはは、予定の倍ですね」
「なので、最低でも明日も240は作る予定です」
リラとグランは、シィスルを真ん中に、帰っていった。
「グランは・・・」
イリスが何かを呟き、マーレイと帰っていった。




