太巻
お休み明け、シィスルが思ったよりも早く出勤してきた。
「おはようございまーす!」
「シィスルちゃんおはよう。こんなに早く、どうしたの?」
「細工巻きをするのが楽しみで、早く来ました!」
物凄くニコニコしてシィスルは答えていた。
「私が教えられる種類には限度があるから、時間までこれ読んでいたら良いわ」
ユリは、巻き寿司の本をシィスルに渡した。
「うわー!凄ーい!」
表紙から豪勢な巻き寿司の写真なので、シィスルは大喜びだ。
しばらくすると、リラとマリーゴールドが来た。
「うわ、シィスこっちにいた。朝ご飯の後、居ないと思ったらもう来ていたのね」
「リラちゃん、マリーゴールドちゃん、おはよう」
「ユリ様、おはようございます」「ユリ様おはようございます」
シィスルは読書に夢中で、リラたちに気がついていないようだ。
「ユリ様、この黄色い『おしんこ』とはなんですか?」
「お新香は、干した大根の漬け物よ」
「キュウリを巻くと、どうしてカッパというのですか?」
「河童と言う空想上の生き物の好物が、胡瓜なのよ」
「この、ペンギンと言うのはなんですか?」
「そういう、大きな鳥が居るのよ」
「知らないものだらけで、面白いです!」
「良かったわね」
リラがシィスルの真後ろに立った。
「うわ、リラさん!」
リラがシィスルを覗き込み、シィスルはやっと気づいたらしい。
「ユリ様の本? へえ、巻き寿司の本なんだ。私も後で見せて貰おうっと」
「私にも、見せてくださいませ」
「あ、それ、ベルフルールに持って行って良いわよ。でも、本はお店には出さないでね」
「ありがとうございます!」「ありがとう存じます」「わー、ありがとうございます」
リラとマリーゴールドは、マヨネーズ等を作り、帰っていった。
「最初に、外おやつ用の細巻きから作ってみましょうか」
「はい!」
外おやつ用は、ツナマヨ巻きだ。ユリは、絞り袋に入れたツナマヨを用意した。
一度見せて教え、できなかったら、細かく教えようと思っていた。
なんとシィスルは、簡単に綺麗に巻いて見せたのだ。
「あら、あなた器用ね」
「マリーが作っていたときに、少し作りましたので」
「そういえば、手伝っていたわね。なら、どんどんお願いね。取り敢えず50本巻きます」
二人で、手分けしてツナマヨ巻きを作り、カットした。
「足りないかもしれないけれど、足りなくなってから追加を作ろうと思います」
「はい。次は何を作りますか?」
「細工巻きの中身を調理しましょう。予定はこの紙よ」
◇━━━━━◇
黄、菊、
赤、梅、梅味ご飯、厚焼き玉子
白、薔薇、超薄切りハム、マッシュポテト、胡瓜、白酢飯
緑、リーフレタス、ハム、パプリカ、ゼリー、生春巻皮
紫、藤、紫酢飯、ツナマヨ
◇━━━━━◇
「シィスルちゃんが考えたのを作るなら、ここに足すわよ?」
シィスルは、予定の紙を見て少し考えていた。
「黄色の菊は、どうされるのですか?」
「あ、それね、どうしようかと思って」
「でしたら、私が考えたものを作っても良いですか?」
「良いわよ。何が必要?」
「挽き肉か細切り肉、薄焼き玉子、ご飯と考えています」
「海苔は?」
「薄焼き玉子では巻けませんか?」
「くっつかないから、外側では解れてしまうわ」
「え!?」
想像の中では完成していたらしい巻物が、ユリに指摘され、無理だと理解したらしい。
「どんな感じを予定していたの?」
「真ん中にお肉で、ご飯を薄焼き玉子で巻こうと思っていました」
「私が考えたのは、真ん中が挽き肉と炒めたご飯で、薄焼き玉子を小さく巻いて、何個か作って花びらにしようと思ったのよ。でも、手間が多すぎるかなって」
「え!それ作りましょう!私が考えたものより美味しそうです!」
「でも、手間かかるわよ」
「細い薄焼き玉子を丸めるより、細い玉子焼きにしたら、少し手間が減ると思います」
結局、厚焼き玉子をカットし、海苔を巻いて花弁を作った。
少し台形になるようにカットし、海苔を巻き付けて花弁を表現してみた。
「ユリ様、緑に書いてある、ゼリーとは、何に使うのですか?」
「簡単に言うと、ドレッシングを固めるのよ。口のなかで溶けるように、柔らか目で作ります」
「お料理にも、ゼラチンを使うのですか!?」
「あら?ポットパイは、作ったこと無いの?」
「え?ポットパイ?」
ユリは良く思い出してみた。シィスルたちが来てからは作っていないし、リラにもしっかり教えたわけではない。ベルフルールでは、持ち帰りやお菓子は色々無理があると言っていたので、パイなんて作らなかったのだろう。
「シチューの上に、パイ生地を被せてオーブンで焼いた物が、ポットパイよ。もう冬は終わっちゃったけど、そのうち作るわ」
「ありがとうございます!楽しみです!」
「まずは、全て、5本ずつ巻きましょう。あ、藤は、細巻きなので、30本です」
太巻は6カットなので、5本巻くと、30人前になる。
ユリがカットしている間に、シィスルは更に巻いていく。
二人で仕込んでいると、メリッサが出勤してきた。
メリッサには、箱を組み立ててもらい、ユリがカットした巻き寿司を、見本を見ながら綺麗に詰めるよう頼んだ。
「ユリ様、箱は何組使うのですか?」
「予定では、120よ。明日も使うから、多すぎても構わないわ」
ユメとキボウが、出先から帰ってきた。
「ユリ、何か手伝うにゃ!」
「キボーも、キボーも!」
「では、メリッサさんに聞いて、箱の組み立てと、詰め込みをお願いします」




