心変
「さあ、食べましょう」
「なにー? なにー?」
「こちらから、鮭、昆布、焼きたらこ、花梅よ。今日作ったものじゃないけど、ツナマヨもあるわよ」
「さっき渡していたのは、ツナマヨだったのにゃ?」
「そうよ。配るときは、実績があるものが良いと思ってね」
「ユリ、この唐揚げも食べて良い?」
「はい、どうぞ」
暇な時に作っておいたチューリップ唐揚げを、ソウは嬉しそうに食べていた。
「出来立て熱々だね」
「そうね。丸1年くらい入れっぱなしにしても、出来立て5分程度だからね」
「そうなのにゃ?」
唐揚げに手を伸ばそうとしていたユメが、驚いて聞いてきた。
「10万倍、時の流れが遅いのよ。魔道具の鞄の中」
「ユリはなんで知ってるのにゃ?」
「説明書的なものが有ったわよ?」
「そうなのにゃ!?」
ユメは、中を探ってみようとは思わなかったのか、説明書には気がつかなかったらしい。書類や冊子であるわけではなく、鞄状態にして中を触ると、その内容が読めるのだ。
「耐熱温度、マイナス50度からプラス200度まで収納可能で、使用可能最大重量は使用者の体重の1000倍まで。使用条件が、魔力値が1万以上、体重以上の使用は、転移魔法が使用できることって書いてあるわよ」
「そうなのにゃー!?」
ユリは鞄型にしてユメに渡した。渡されたユメは、中を探ってユリの言った説明を見つけたらしく、驚いていた。
「たぶん知らなかったと思うにゃ」
「ユメちゃんが王様をしていた頃なら、普通、王様は熱いものをしまったりする機会もなかったと思うのよ。それに、杖にして使うのが通常だったんじゃないの?」
「そんなところだと思うにゃ」
朝ご飯を食べ終わり、庭を散策する事になった。
「紫陽花、良い匂いにゃ」
ユメが呟いた。
「え?紫陽花って匂いするのか?」
聞いたソウが驚いていた。
「湿気があるときだけ甘い香りが微かにするわよね」
ユリも違うことを言った。
3人の認識が違う。皆でキボウを見た。
「なーにー?」
「紫陽花、良い匂いがするにゃ?」
「あまーい」
「キボウ君、今も甘い匂いする?」
「におーい」
これは、匂いがするという意味のキボウ語だろうか?
「キボウ、紫陽花って、良い匂いがするのか?」
「いいにおーい」
たぶん良い匂いがするという意味なんだろうと、皆が思い、これ以上聞くのを諦めた。
ソウが紫陽花についての蘊蓄を語り、ユリが花言葉を説明した。
「なんで花言葉が心変わりなのにゃ?」
「色が変わるところから来ているみたいよ」
「色が変わらない種類はどうなるのにゃ?」
「花言葉って、解説している人や書籍によって違うことが書いてある場合も多いから、難しいわね」
「成る程にゃー」
ソウの説明通り、小高い丘の奥の方には、色の違う紫陽花もたくさんあった。
額紫陽花や柏葉紫陽花や、珍しい色の花などもあり、大いに紫陽花を楽しんだ。
「どの花も綺麗で素敵だけど、やっぱり紫陽花は空色の花が落ち着くわぁ」
「ユリ、青い花好きだよな」
「空色の花って少ないからね。色のバリエーションが豊富で空色もある花って、素敵だと思わない?」
「バラもチューリップも、ブルーの名を冠している花はみんな紫だからな」
「色の種類に赤や黄色がある花で、空色もあるのは、芥子くらいじゃないかしら?」
「芥子って、青い花があるのにゃ?」
「植物園でしか見たことがないけど有るわよ」
庭というには広すぎる紫陽花庭園を一周する頃には、3時間以上経っていた。ソウが言った通り、各所にガゼボがあり、すべて趣が違っていたので、ほぼ全てに立ち寄り座ってみたりしていたからだ。
「そろそろ次いくか?」
「あ、なら、お屋敷に寄って、お礼を置いてくるわ」
「何置いてくるの?」
「パウンドケーキのつもりだけど」
「それなら、俺が置いてくるよ。少し待ってて」
「はーい」
ソウはその場から転移していった。
「次は桜にゃ」
「何桜かしらね」
「にゃ! 桜には種類があったのにゃ。てっきりソメイヨシノだと思い込んでいたにゃ」
「それこそ、ソウが持ち込まなければ、染井吉野はないんじゃないかしら」
「そう言われてみればそうだにゃ」
染井吉野は、園芸改良品種である。
ソウが戻ってきた。
「お待たせ!じゃ、次行こう」




