呼出
着替えのために部屋に戻ってきた。
ラベンダーが用意してくれたらしい聖女の衣装は、オーガンジーのような透けた赤い布に、金縁の緑のリボンが着いたデザインだった。
二枚重ねの中はワンピース風なので、表の被って着る部分がどれだけ透けていても構わないのだけど、公式としてこれを着ると、聖女という役職は、派手な服が決まりなのだろうかと、ユリは少し悩むのだった。
大まかな決まりはあるが、見た目の色などは割りと自由なのである。その役職がら、探しやすいように、遠目にもわかる方が好ましい。
「んー、クリスマス?」
「ユリ様、何かおっしゃいましたか?」
「いえ、なんでもないわ」
さすがに本人も着替えるため、ラベンダーは居なかったが、ミラベルが着替えを手伝ってくれた。
「ミラベルさんは、アルストロメリア会に参加したりはしないの?」
「私も参加させていただいてもよろしいのですか?」
「私的には良いけど、ローズマリーさんに聞かないとわからないわね」
「恐らくではございますが、お部屋係についている間は、アルストロメリア会には、参加できないものと思われます」
「そうなの?」
ミラベルは、この部屋の担当になる決まりとして、使用人として勤めるので、その間は参加できないと事前に言われたそうで、本人も納得していると話してくれた。
「いずれ結婚して、どこかの夫人になりましたら、是非参加させていただきたいと存じます」
「それまで続けられるように頑張るわね」
「ありがとうございます」
ユリは、続けられるように頑張ろうと決意を新たにするのだった。
「聞いているかもしれないけれど、私はこの屋敷の造りをいっこうに把握できないから、毎度案内をおねがいします」
「かしこまりました」
部屋を出る前にと、ユリは琥珀糖を取り出した。ソウが持ち込んだおしゃれな箱に入っている。
「あ、これ、今日作った琥珀糖よ」
「いただいてもよろしいのですか?」
「参加できなくても、食べるのは構わないと思うわよ? リラちゃんがシューは配ったみたいだけど、琥珀糖は、担当した参加者に全部渡していたから、みんなの分迄無いと思うのよね」
「ありがとうございます。お茶を担当した皆でいただきたいと思います」
受け取った琥珀糖をしまってきたミラベルに、昼食会場まで案内して貰った。
ユリが入ると、既に全員集まっており、どこで着替えたのか、既にユメもいた。
「お待たせしました」
「私も今来たにゃ」
「ユメちゃん、どこで着替えたの?」
「客間を用意されたにゃ」
専用の部屋を断っていたら、客間を用意されたらしい。
置いていくのは今日着た白衣だけなので、脱いだだけなのだろう。
今回出されたランチは、なんと、タコライス風だった。
あー、そういえば、店でパープル一家に提供したわね。とユリは思い出した。
マリーゴールドの元婚約者の件で、もめた時のことだ。
タコライスは、店で食べたのではなく、持ち帰りを渡したので、再現率が高かった。あの時そういえば4食渡したので、調理場に1食提供したのかもしれない。
なんと、デザートは洋風茶碗蒸しだった。
茶碗蒸しはデザートではないが、ユリは好きなので問題はない。しかし、他の人はビックリしただろうと思う。
あとで言っておいた方が良いかしら?と、ユリは思ったのだった。
食事が終わり、解散をして、来たときのワンピースに着替えてからミラベルに頼んだ。
「ミラベルさん、料理長か副料理長を呼ぶか、私をお屋敷の厨房へ案内してくれないかしら?」
「か、かしこまりました。料理長を呼んで参ります」
ミラベルには予想外の頼みだったらしく、慌てて退室していった。
すぐに来た料理長は、全速力で走ってきたのか、息を切らしていた。
コンコンコン。
「ユリ様、料理長が入室を願っています」
「ありがとう。どうぞ、入ってちょうだい」
メイドがドアを開け、見覚えのある料理長が入ってきた。
「し、失礼、い、いたしま、す。お呼びと伺い、参上いたし、ました」
「もしかして走ってきたのかしら? ごめんなさい。今後、私が呼んだときは、走らず、普通の早さで歩いてきてください」
「か、かしこまりました」
「私の呼び方が悪いんだけど、叱責や苦情じゃないから、楽にしてくださいね」
初めてシッスルを呼び出したときのことを思い出した。
ちゃんと理由を言って呼ばないと、相手が困ると忘れていたのだ。
「えーと、今日のタコライスについてだけど、詳しいレシピ要ります?」
「は?、え、は、はい!是非お願い致します!」
「今度持ってくるわね。結構再現度が高かったわ」
「ありがとうございます!!」
「用事はこれだけなのよ。呼び出しちゃってごめんなさいね」
「い、いえ、滅相もございません。どうもありがとうございます」
来たときとは違い、笑顔で帰っていった。
コンコンコン。
「ユリ様、リラさんが入室を待っています」
「どうぞ、入ってちょうだい」
「失礼致します」
リラは、自分で開けて入ってきた。
「支度は済んだの?さあ、帰るわよ」
「はい!」




