火傷
「グラニュー糖を加えたあと、少し煮詰めます。混ぜるスパテラから、連なって滴り落ちるくらいまで煮詰めたら、一色にする場合は、ここで色を混ぜてしまいます。複数色にする場合は、少し取り分け、冷やし固める容器に流し入れてから色をつけます。取り分けた液体に色をつけ、流し入れた容器の好きな場所に混ぜていきます。ここでの最大の注意事項は、寒天は約30度で固まりますので、火傷に注意して、熱いうちに作業をしてください」
説明をしながら、ふと、気になってリラを見ると、リラは全く作らず、説明や手助けだけをするらしい。色や酒等を用意していなかった。
「リラちゃん、カットを教えられるように、あなたも作ってください」
「かしこまりました」
リラはシッスルに何かを確認し、色素と酒を取りに来た。
城に戻ってからシッスルが配ることができるように、同じ色味で作るらしい。そばにはユメとキボウもいて、ユメは手伝っているようだが、キボウは邪魔しているように見える。
ユリは手元の見本を仕上げ、キボウを呼んだ。
「キボウ君、1時間おねがいします」
「わかったー!」
急いで駆けつけてきたキボウは「いちじかーん」と言って、ユリの流し入れた琥珀糖の時送りをしてくれた。
「今、キボウ君に、時送りをしてもらったので、もう固まっています。この後、少し冷やしてからカットします。さあ、皆さんも作ってみてください」
ユリが作った物を見せると、皆が作り始めた。
特に難しい手順もないので、ユリはカンパニュラのそばに行き、ラベンダーが自分の分をゆっくり作れるように、面倒を見ることにした。
「カンパニュラちゃん、夏板の充填、誰かがしてくれたの?」
「はい。ユメさまが、まりょくをいれてくださいました」
「そうなのね。良かったわ。わからないことがあったら気軽に声をかけてね」
「はい!ありがとうございます!」
メイドが手伝って、熱いものを持ってくれるらしく、カンパニュラは、鍋の中身をかき混ぜたりしていた。
ユリの後ろで叫び声と凄い物音がした。
ガチャガチャガチャーン!!
「きゃ!」
全員がそちらを振り向いた。
「も、申し訳ございません!」
「火傷しなかった? 鍋や片付けは後で良いから、火傷していないか確認して? そばにいた人もかからなかった? 火傷した場合は、絶対に隠したりせず、すぐに冷やすのよ?」
「水を!冷やす水をください!」
サンダーソニアは無事らしいが、叫んでいた。
メイドの一人が、手のひらを火傷したらしい。持ち上げた鍋が予想以上に熱く、サンダーソニアが手を離しそうになったのを見て、慌てて鍋を落とさないように押さえようと触ってしまったらしく、手のひらが赤くなっていた。
「ごめんなさい。私が迂闊に鍋のそばの持ち手側を触って落としそうになってしまったから」
「大丈夫でございます。このくらいの火傷でしたら、すぐに治りますので、そんなにお気になさらないでくださいませ」
回りのメイドが持ってきた桶の水に手を浸け、ニコッと笑いながら話していた。
「手を見せてちょうだい」
「はい。ユリ様」
手のひらの小指側が水ぶくれになりかけていた。
「少し触るわよ」
「はい・・・?」
ユリが淡く光ると、スッと火傷が治療された。
「痛く、無くなった!? 手が綺麗になった!」
メイドは、自分の手のひらをまじまじ見つめ、呟いていた。
「あなたは、今日はもう休んでください」
「ユリ様、ありがとうございます。私、働けます!」
「治療しても、体力は回復しないのよ。だから、今日は、おとなしく休んでちょうだい」
「かしこまりました」
先ほど水桶を持ってきてくれたメイドに連れられ、下がっていった。
「今の彼女、もし痛みが出るようなことがあったら私に教えてね」
「かしこまりました」
ユリがメイドと話しているうちに、皆も仕上げたらしく、キボウが全員を回って、時送りをして固めてくれたらしい。
「少し休みますか? このまま仕上げますか?」
「ユリ、スワンシューを作って、休憩したら良いにゃ」
「このままスワンシューを作る気力は残っていますか?」
全員が辺りを見回し、最後、カンパニュラの方を向いた。
「カンパニュラちゃん、どうする?」
「とりさん、つくります!」
「はい。では、スワンシューを作りましょう」
カラースワンを作る予定だが、出来上がっているクリームを詰めて粉を振りかけるだけなので、各人の希望数もすぐに出来上がった。
ハイドランジアやスノードロップの分は、サンダーソニアが作るらしい。
カンパニュラは、今日連れてこなかった侍女や先生の分を作ると言って、いくつか仕上げていた。そのあと、キボウに何か言われ、ユリに追加を申し出て、3つ追加で仕上げていた。
「ユリー、キボー、かごー」
「キボウ君、籠をどうするの?」
ユリは、いつもキボウが使っている籠を取り出し渡した。
キボウは、籠にカンパニュラの作ったスワンシューを3つ入れると、転移で消えた。
「キボウ君は、どこへ行ったの?」
「メイプルに届けるらしいにゃ」
「そうなの!? 」
キボウが戻ってこないと確実に琥珀糖は仕上げられないので、部屋を移動し、作ったばかりのスワンシューとお茶を飲むことになった。
まだこの後も作るものがあるので、着替えたりせず、割烹着を脱ぐだけだ。
割烹着を脱いで、ユリは気がついた。
全員、着ているブラウスが違うことに。
「全部お揃いではないのね」
「シャツは、好きな服を着るのにゃ」
「そうみたいね。私も次回は手持ちを着るわ」
ブラウスがヒラヒラしすぎて、ユリの趣味ではないのだ。
「全員白衣を揃えたんだな」
「ソウ、それ似合っているわよ」
「おー、ありがとう」
医者のような白衣を着たソウが、お茶の部屋にやって来た。
「そのうち、男性のメンバーも来るのかしら?」
「ユリが嫌なら呼ばないだろ?」
「そうね」
話しているうちにお茶が揃い、ティータイムが始まった。
「ソウ、箱はどうなったの?」
「ここに来たときに預けたよ。今頃使ってるんじゃないか?」
ふと気づくと、一緒に厨房を出たはずなのに、リラがいなかった。
「あら、リラちゃんはどこに行ったの?」
「13歳の時とは違うとかなんとか言ってたにゃ」
「裏で、作ったシューを配って来るって言っていたぞ」
ソウが来るときにすれ違い、どこに行くのか聞いたらしい。
そういえばリラは、昨日ユリがシューを焼く手伝いを頼んだら、少し小型のシューとカスタードクリームをたくさん作っていたのだ。そうか、配る予定だったのかと、ユリは納得がいった。
お茶を飲んでいると、キボウが戻ってきた。
苺味のスワンシューをキボウに渡すと、喜んで食べていた。




