容器
急いで計量を始めた。
今日の予定こそ書いてあったが、ユリがいない間に来客があったため、リラもたいした準備はしていなかった。
「そういえばユリ様。シィスルが、レモンを刻みに来ると言っていたんですが、そんな約束をされましたか?」
「レモンマーマレードを作るのを、私が渋っていたら、皆で刻んでくれるって話になったわ。店売りする予定よ」
「みんな?」
「あの場にいた人全員ね。イリスさんやメリッサさんも名乗り出てくれたわ」
「今日の予定表には書いてありませんでしたけど、いつ作る予定ですか?」
「ソウが、瓶を用意したらね」
「販売用の瓶がないんですね。もちろん私も刻むのに参加しますので、仲間はずれにしないでくださいねー」
「あはは。休んでと言い難い頼み方だわ」
二人で話しながらも計量を終わらせ、仕込みに入るのだった。
10時少し前、ソウが寿司折りの容器とジャム用の瓶が入手できたと、戻ってきた。
ソウから、ジャムのラベルをどうするか聞かれ、リラが「私が描きたいです!」と名乗り出たので、紙を渡されていた。
瓶に貼ることができるサイズに縮小してシールを作ってくれるらしい。
「今日からレモン刻みますか?」
「そうね。手の空いている人に頼もうかしら」
「ユリ、作るのはレモンマーマレードだけ? 他のジャムも作るなら、デザインしてくれればシール作ってくるよ」
「あ、なら、リラちゃんにりんごジャムもお願いするわ。リンゴもたくさんあるのよ」
「ユリは、裏書き用の原稿書いて」
「成分と販売者名?」
「必要だろ?」
「わかったわ」
リラは、勿論リンゴの絵も描いてくれると言っていた。
「ユリ様、シィスルたちに声かけますね」
「一日で作り終わらないから、来たときで良いのよ?」
「刻む手伝いではなく、瓶を見たいそうです」
「それこそ、来たときに見たら良いのに」
リラが呼んだので、シィスルとマリーゴールドはすぐに来た。
「容器が届いたんですか?見たいです!」
二人とも、揃った大量の瓶が見たかったらしい。ユリの予想外で、その目的にユリが驚いた。
「あ、マリー、ジャムのラベルを作るから、文字頼んでも良い?」
「はい!書きたいです」
文字と絵を分業することに、ソウが驚いていた。
マリーゴールドは、文字がとても綺麗なのだ。ろくに勉強させてもらえない環境で、できることを精一杯頑張った結果、文字の美しさは誰にも負けないレベルになったのだ。
本人曰く、文字だけは他人に誇れる特技らしい。
文字と絵は合成するからと、ソウはマリーゴールドにも紙を渡していた。
「シィスルちゃん、寿司折りの容器もソウが買ってきてくれたわよ」
「わ!見て良いですか?」
ソウが、畳んだ状態の寿司折りを鞄から取り出し、簡単に組み立てると、シィスルが喜んでいた。
「凄い! ペッタンコだったのに箱になった!」
「最初から立体だと、置く場所に困るからな」
ソウが笑って答えていた。
「ホシミ様、その箱はお高いんですか?」
「一組100☆位だな。リラも要るなら揃えるか?」
「たくさんは要らないのですが、いくつかあれば、行商に行くお爺ちゃんたちに、お弁当を渡せるかなって思いまして」
「何個か程度なら、その都度ユリから売ってもらえば良いんじゃないか?」
「良いわよー。声かけてね」
「ありがとうございます!」
わいわいと話していると、メリッサが来たようだ。
同じような説明を聞いたあと、早速レモンを刻むと言い出した。
作り方を知っているリラがメリッサに指導し、シィスルとマリーゴールドも一緒に説明を聞いていた。
マーレイが来て、イリスが来て、ユメとキボウが戻ってきて、全員揃った。
お店のテーブルで、マリーゴールドが文字をデザインし、シィスルは、海苔巻きのデザインを考えていた。
「シィスルちゃんとマリーゴールドちゃんは、お昼ご飯はどうするの?」
「今日は、あちらに誰もいませんので、ユリ様のお店で軽食でも食べようかと考えています」
シィスルが答えた。
「マリーゴールドちゃんも?」
「はい。その予定でございます」
「それなら、うちでお昼食べたら良いわ。シィスルちゃんもマリーゴールドちゃんも、さっきから書いているの、それ仕事よね? お昼ご飯くらい出すわよ」
「ありがとうございます!お昼ご飯の用意だけ手伝います」
「ありがとう存じます」
午前中の予定に目処がつき、皆の昼食を作り始めると、ココナツ食器店の店主ニウが、従業員を連れ訪問してきた。今朝マーレイから声をかけられ、早速来たらしい。
ユリが顔を出すと、予想通り平伏すので、白衣を着ているときは、以前と同じように接するように頼んだ。
取引先が平伏すのは、もはやお約束になっているので、ユリも慣れたものである。
「以前と同じ器でよろしいのでしょうか?」
「はい。同じ持ち帰り用の鶏丼を販売するので、あるだけください。とりあえず150位有ると、販売が開始できます」
「小皿もお使いになられますか?」
「それも購入するので、相応の代金を請求してください」
「かしこまりました。本日、器を500、小皿を1000お持ちしております。こちらで納品させていただきますので、どなたか立ち会いをお願い致します」
「私が行くにゃ!」
ユメにあとを頼み、ユリは昼食作りに戻った。
ソウに頼んで、内倉庫の外から出入りできる扉側に、ある程度の所まで、鍵を開ければ入れるようにして貰ったのだ。
中まで運んでもらえるようになり、納品が楽になって助かっている。入れて貰ったあと、好きな場所に移動すれば良いのだ。
少しすると、ユメが相談に来た。
以前ならランチを出していたので、そのまま食べていったが、今は軽食しかないから少し残念だと話していたらしい。
「皆のお昼ご飯と同じ、とろけるチキンカレーなら、出しても良いわよ。鞄に入れる保存食用に多めに作っているから、食べて行ったら良いわ」
「伝えてくるにゃ!」
ユメが伝えに行くと、とても喜んだらしく、食べたいと言ってるとユリに伝えに来た。
「ユメちゃん、マーレイさんがサラダの用意をしているから、2人前増やすように伝えておいてね」
「わかったにゃ!」
ユメが伝えにいってしまうと、リラから聞かれた。
「ユリ様、今日のおすすめケーキも出しますか?」
「そうね出してちょうだい。もう固まっていると思うわ」
「はーい、名前なんでしたっけ?」
「ムース・アナナスよ」




