記念
今日は、一周年記念日。世間は5年経っていても、ユリの体感としては、1年間しか営業していない。
本来の記念日は、4月17日だが、昨日はお店が休みなので、今日、一周年記念をすることにしたのだ。
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本日、開店記念日
虹のお菓子をご提供します。
軽食とおやつの店 アルストロメリア
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早々に、イーゼルにおすすめ看板をのせてきた。
「ユリー、おかし、あるー?」
「今日のデザートで良い? レインボークレープよ」
ユリは、虹色のミルクレープとゼリーを皿にのせたものを見せた。
「キボー、もってくー?」
「あー、皿盛りだから、持てないわね」
「assiette dessertか」
「ん?ソウ、なあに?」
「皿盛りのデザートって意味だよ」
「キボウ君、4つに切り分けて、1つの皿にのせるので良いかしら?」
「それー」
「2皿持てそう?」
「キボー、もてなーい」
「よし、たまには、俺が付き合おう。キボウ、世界樹の森と、王宮に行けば良いのか?」
「あたりー!」
珍しく、キボウにソウがついていくことになった。
皿盛りデザートは、ソウが鞄にしまい、キボウは、作ったベーコンを籠に入れて持っていくのだった。
「べーこん、べーこん、キボーのべーこん!」
「キボウ、ベーコンは、必ず加熱して食べるように伝えてくれな?」
「かねつー?」
「手紙書くか?」
「それー」
ソウは慌てて、ベーコンの扱いについて書き記し、ベーコンが入っている袋に張り付けた。
「よし、これで良いぞ」
「いくよー」
「おー」
キボウとソウは、キボウの魔法で転移していった。
そのすぐあと、ユメが起きてきた。
「おはようにゃ! あれ?キボウはいないのにゃ?」
「おはよう、ユメちゃん。今、ソウと転移していったわよ。ベーコンを届けたくて早くから用意していたみたいでね」
「そうなのにゃ!?」
ユメは、昨日早起きしてベーコンを作る手伝いをして疲れたらしく、いつもより少しだけ遅く起きてきた。
「ユメちゃん、朝ご飯食べる?」
「ユリはもう仕事にゃ?」
「今日は、開店記念日だから、もうそろそろ仕事を再開する予定よ。厨房に来て食べる?」
「それが良いにゃ!」
一人で食べたくないらしいので、ユリは厨房へ誘ってみた。
お店のテーブルを使うか聞くと、ユメは椅子を持ってきて、厨房の作業台で食べると言っていた。
ユリは、ユメに朝ご飯を出し、ユメの横で今日の予定を書き出したあと、1番大きいミキサーで生クリームを泡立て始めた。
7.5%のグラニュー糖と、ラム酒とコアントローとバニラエッセンスを加え、もったりするまで泡立て、大きなボールに移し変え、シィスルが来る前に、ミルクレープを作り始めた。
「ユリ、手伝うにゃ!」
「ユメちゃん、ありがとう。でも、こんなに早くから手伝ったら、疲れてしまうわよ?」
「ちゃんと休みながら手伝うから大丈夫にゃ!」
「そう? なら、クレープを、上から紫2、青2、緑2、黄色3、オレンジ3、赤3で、重ねておいてくれる?」
「わかったにゃ!」
ユリがミルクレープを作っていると、リラとマリーゴールドがやって来た。
マリーゴールドは、興味深そうに覗きに来たが、作りたいと言うこともなくリラを手伝い、マヨネーズとクッキーを作り、シィスルが来るのを待っているようだった。
シィスルは、全員のベーコンを持ってやって来た。
「おはようございます。ユリ様、塩抜きが違うものをお持ちしました。味見しませんか?」
「おはよう。あら、良いの?」
「はい」
ユリは、4種類を切って焼き、少しずつ全員に配った。
「あら、茹でたものは、意外と塩分が抜けていないのね。でも、味はあっさりね。ハムのようだわ。水かえは、水道の流水と同じような感じね。塩水、旨味が濃いわね。興味深いわぁ。提供してくれてありがとうね」
ユリは、ソウとキボウ用に少しだけ貰い、残りを返した。
「自分達で作るなら、ソウにチップとかウッドを頼めば買ってくるわよ」
「はい。もう一度くらい作ってみたいと思っています」
「それなら、揉み込む塩に、胡椒やハーブを混ぜると、違った味わいのものができるわよ。ロースやモモ肉で作って、燻製後に70度くらいで茹でると、ハムのようなものができるわ。骨付きのまま作るという手もあるわよ」
夏板を使って茹でれば、温度管理が楽である。
「今日仕込んで、週末にでも作ってみます!」
リラとマリーゴールドが、残りのベーコンを持って、帰っていった。
「ユリ様、今日の予定は、この紙に従えばよろしいですか?」
「あ、お願いしまーす」
ユリが作ったミルクレープは、ユメがしまってくれていた。
ユメも予定表を見て、バッドに流し入れたゼリーを、シィスルにカットして貰い、ココットに移し変えてくれていた。
ミルクレープ52台を作り、35台は半分にカット。10台はお店用に8等分にカット、7台は予備。ゼリーは、水色ゼリーとミルクゼリーを70個ずつ用意する予定だ。
「ユリ様、これ、4等分にして、2人前のお持ち帰り用を作りませんか?」
「あー、要るかしら?」
「恐らく、ご注文いただくと思います」
「なら、10台、4等分で」
「はい」
「にゃ!ゼリーどうするにゃ?」
「大きいココットは50個分ずつ、小さいココットで40個分ずつお願いします」
ソウとキボウが戻ってきた。
「ユリー、これー」
またもや、キボウはいつもの木の実を持ってきた。
恐らく、ベーコンのお返しなのだと思う。
「キボウ君、ありがとう。ベーコンは渡せた?」
「めーぷるー、きるー、あねもねー、やくー、ぷらたなすー、たべるー、かみさま、よろこぶー」
「世界樹様は、喜んでくれたのね。良かったわ」
戻ってきた二人にも、ベーコン4種類を焼いて提供した。
味の違いに、ソウが面白いと喜んでいた。
キボウは、ユメを誘い、畑を見に行くらしい。
ソウは、仕事に行くと言っていた。
「ユリ様、クレープは、どうしますか?」
「虹のミルクレープは、冷えて落ち着いてからカットします。切った面に、このフィルムを張り付けてください。1/4は、フィルムを半分に折ってから貼り付けると、浮かずに綺麗にくっつくと思います」
説明だけして、ユリは他の作業に移った。
朝から夏板にのせ、コンソメスープで煮ておいた玉ねぎとブロッコリーの茎のあら熱をとり、柔らかめに別茹でしたブロッコリーも混ぜ、ミキサーにかけた。
米粉を混ぜた牛乳で伸ばし、半分に分け、塩コショウと少々の砂糖で味を整えた。
半分は冷めてから冷蔵庫に入れ、半分は、夏板の上に戻した。もう少ししてから、夏板のスイッチをいれよう。
ユリは買ってある食パンを持ってきた。
薄切りの食パンを賽の目にカットする。
中華鍋に入れ、オリーブオイルであえながら炒める。
「ユリ様、それは何を作っていますか?」
「これはクルトンよ。スープの上にのせるのよ」
オリーブオイルが全体に混ざったら、オーブンでしっかり乾かして出来上がり。
シィスルが、じっと見ていた。
「出来たら、スープにのせて食べてみたら良いわ」
「ありがとにゃ!」「ありがとうございます!」
いつのまにか、ユメも戻ってきていたらしい。
「クッキー終わった?」
「黒猫クッキーは型抜きがまだですが、世界樹様のクッキーは、アイシングを塗るだけです」
「黒猫クッキーは、私が作るにゃ!」
「ユメちゃん、おねがいします。シィスルちゃんは、アイシングをおねがいします」
「はい」
シィスルがアイシングをぬると、ちゃんとキボウは現れた。
メリッサが出勤してきて、予定表を見てパウンドケーキの型を用意してくれたので、ユリはひとりでパウンドケーキを仕込んだ。
マーレイが来たときに、ユリは手が離せなかったので、シィスルに検品してもらった。今までもマーレイが間違ったことはないのだが、仕事なので、必ず検品している。




