強弱
10時少し前に、又全員集合した。
「えー。私がくるくる回した1つと、水道の水流のを比べて食べてみましょう」
少しカットし、焼いて、みんなに食べさせてみた。
「最初の方は薄いけど、後のは少ししょっぱいです」
「はい。同じです」
「私も同じように感じます」
「味が違うにゃ!」
「ちがうー、ちがうー」
「少し水の出し方が弱かったかもしれないわね。最初のは、これでもう乾燥させましょう」
「ユリ様、シィスルの茹でたものの詳細を教えてください」
「えーと、お湯は沸騰まで沸かしますが、肉を入れた後は、70~72度を保ち、そこから30~40分茹でます。今回は500gだったので、30分茹でました」
「ユリ様がクルクル?とは、何をされたのでしょうか?」
「魔法で水流を作りました。水替えは、1時間置きです」
「え、魔法?」「魔法?」「魔法でございますか?」
「試したにゃ。水被ったにゃ」
「えー!それでユメちゃん、いつもと違う感じの服なんですか?」
「ユリが買ってきたのにゃ」
「キボーも、キボーも」
3人は、ユメとキボウの服を一通り誉めた。特に、ユメの猫耳付Aラインのパーカーが好評だった。本音を言うと、欲しいらしい。
結局、リラたち3人にも「波の流水」の魔法を教えることになった。
ユメの注意もあり、強すぎて水を被ることはなかったが、加減を覚えることに夢中になり、時間が大分過ぎてしまい、慌ててベルフルールに帰っていった。
次は、ベルフルールの休み時間である14時頃、リラとマリーゴールドのベーコンの塩味の味見だ。
ユリは水流の肉の水道の水量を増やした。一時間後に丁度シィスルが見学に来て、味見をしたのち、肉を水から引き上げた。
シィスルによると、リラとマリーゴールドは、魔法を使いたいのをグッと我慢して、塩抜きを見守っているらしい。
途中から方法を変えたら実験にならないからのようだ。
ユリたちがお昼ご飯を食べ、ソウに聞いて明日使うものを揃えた。
水分を吸収する、専用のシートがあるらしい。そんなものは用意していないので、どうしようかと考えていると、ソウに聞かれた。
「ユリ、メイプルに渡した魔法一覧にあった『乾燥』って、簡単?」
「生活魔法だから、魔力さえあれば誰でも使えるはずよ。『乾燥』は、1000p で、腕の届く範囲が有効範囲だわ」
「なら、それ使おう」
「ペーパータオルには、巻いてあるわよ?」
「少しでも表面に水分が残ってると、煙がついたところが酸っぱくなるんだよね。そして味が不味い」
「う、それは困るわね。明日みんなにも教えます」
転移が350p、多重結界200p程度なのに、1000pも使う生活魔法のおかしさに、ユリたちはこの時、気がつかなかった。ユメが水を被った時点で気づくべきだったのだ。
14時過ぎに、リラたちが塩漬け肉を持って現れた。
「ユリ様ー、中のお肉をこまめにひっくり返すようにして7時間半くらい経ちました」
「双方カットして焼いてみましょう」
予想通り、マリーゴールドのは丁度良い感じだったけれど、リラのはまだまだかなりしょっぱい感じだった。
「マリーゴールドちゃんのお肉も乾燥させましょう」
「この分だと、塩水のお肉は夕方でも無理そうですね」
「明日のギリギリまで塩抜きして、魔法で乾燥させたら良いと思うわ。焦らず塩抜きしてちょうだい」
「はーい」
夕方の味見は、リラが単独で行うことになった。
ユリがもうひとつ作っていた、パンチェッタ。
乾燥させようと思い、冷蔵庫から出していると、ソウが声をかけてきた。
「ユリ、それどうするの?」
「パンチェッタを作ろうと思ったのよ。だから練習も兼ねて、回りを乾燥させてみようかなって」
「へぇ。あ、『乾燥』教えてよ。俺も試してみたい」
「『乾燥』の呪文は、『ウ・オ・ス・ナ・ク』よ」
「私も試してみたいから、半分に切りましょう」
半分に切ったところで、ユメが来た。
「何してるにゃ?」
「魔法で乾燥を、試してみようと思って」
「やってみたいにゃ!」
「なら、この半分をどうぞ」
ユリは、自分の分をユメに譲った。ユメに呪文を教え、ソウとユメは、乾燥の呪文を唱えた。
「ウオスナク」
「 《ウオスナク》」(ユメは脳内詠唱)
一瞬にして水分が抜け、カチカチのポークジャーキーが出来上がった。
「なんにゃー!」「うわ!」
「どうして?」
「かわかすー?」
「そうよ。回りを乾かしたかったのよ」
「おおいー!」
覆い? 大井? 多い!!
「魔力が多すぎたのにゃ?」
「あたりー!」
「あ!さっきの水流にゃ!」
どうやらユリは、水流をおこすとき、無意識に魔力量を調節できていたようで、初めて唱えたソウとユメは、最大値を使ったらしい。それでユメは水を被り、ソウと共に肉を硬化させたのだ。
「うわー。明日、そのまま教えたら、大惨事になるところだったわ」
「練習して強さを調整する必要があるんだな」
弱くしか使わなければ、魔力も少なくてすむのである。




